ノーヘル・ノーアイゼンによる雲竜瀑(試行的ツアー)

2022年2月26日(土) 晴れ

日光が気候変動の影響を受けて少雪、真冬の大雨といった現象を見るようになったのはそれほど前のことではない。
少なくとも10年くらい前は雪の心配などすることもなく、安心してスノーシューツアーが開催できていたように思う。
それが崩れてきたのは2016年頃からではないかと、撮りためた過去の写真を見て思う。

今日、管理人が主催しているスノーシューツアーに参加したのは2013年から毎年、参加してくれているDさん他2名で、それまでなんの心配もせずにツアーができていたのに2016年から雪の心配をし始め、2019年には異変が顕著になった。
20019年の同時期はフィールドは地面が露出してスノーシューで歩ける状況になく、雪を求めて中禅寺湖畔の山、社山への登山に切り替えた。
それとてスノーシューではなくチェーンスパイクで十分という、2月としては異常な状況の下での登山であった。
翌2020年と2021年は大雨によってフィールドが壊滅的なダメージを負い、ツアーそのものを中止にせざるを得ないといった、管理人のスノーシューツアー歴で初めての出来事となった。
以後、DさんとのツアーはDさんからの申し込みを待つというスタイルから、雪が十分な量に達したら管理人から伝えて、参加の意向をうかがうというスタイルに変え、今年がその最初の年となった。

幸いなことにこの冬の日光の降雪は順調で、スノーシューツアーは毎回、新雪に巡り会えるというほど恵まれている。
そこでDさんに現状の報告を兼ねて参加の意向をうかがうことにしたのだが、管理人が用意しているスノーシューツアーのコースのすべてを経験済みのDさんのこと、コースの希望を引き出すのは難しい。
ここはDさんがこれまで経験したことのないコース、すなわち管理人が公開しているツアーメニューにないコースとして、雲竜瀑を提案した。
それが長年にわたってツアーに参加し続けてくれたDさんへの感謝の気持ちであった。

別のお客さんとの雲竜瀑ツアーは今年1月におこなったが、ヘルメットとアイゼン、ピッケルの3点を標準装備として持参してもらうことを条件としたものであり、一般向けのツアーとはいえない。
Dさんにそれを要求するのは無理であることは始めからわかっていた。
そこで、管理人のこれまでの雲竜瀑の経験から、上に挙げた標準装備を持たずとも行けるところ、冬の雲竜瀑の核心とも言える滝壺(仮にA地点とする)、その滝壺の下、流れが渓谷に注ぐ場所(仮にB地点とする)までと決め、了解を得た。

雲竜瀑へ行くのに危険な場所はB地点からA地点へ行く斜面のトラバースである。
急な登り斜面の上に路幅は50センチと狭く、進行右は山、左は谷となっていて足を滑らせたら50メートル下の渓谷にノンストップで滑り落ちていく。
管理人でさえ怖い。
ツアーのメニューに組み込むにはリスクが大きすぎる。

だが、B地点までの道程は細心の注意を払って歩けば問題はないと言えよう。
渓谷の両側の岩壁からしみ出た水が凍って大きな氷柱を形成した様は結氷した雲竜瀑に劣らず迫力があり見応え十分、それを見るだけでも十分な価値があるというものである。

Dさん一行とは9時半に待ち合わせた。
日光駅近くのコンビニで昼食を調達した後、林道を走って雲竜瀑へ向かった。
雲竜瀑へ向かう林道は途中、ゲート前で行き止まり、そこに5・6台の駐車スペースがある。しかし、そのスペースだけで収容できるはずはなく、スペースを確保できなかった車は手前の林の中や待避所に駐めることになる。
それでも駐まれなかった車はゲート1キロ手前のここ、昔の資材置き場まで戻って駐めることになる。
言い換えれば元資材置き場に数台の車が駐まっていればこの先の駐車スペースはすべて埋まっていることを表している。
管理人が前回、訪れた1月30日は平日の6時半という早い時間だったにもかかわらず、ゲート前の駐車スペースはいっぱいで、林の中の1台分のスペースに無理やり車を突っ込んで駐めた。
しかし今日、土曜日のこの時刻、ここにはすでに15台の先着車があった。
2月の週末のこの時間だから当然といえば当然である。
これより先へ行くことの無駄をやめてここから歩くことにした。


凍ってツルッツルになった林道をゲートへ向かう。
上り坂だからまだ安全に歩けるが帰りはきっと滑るだろう。
帰りはチェーンスパイクを装着して歩こう。


林道のゲートに到着。
元資材置き場から歩き始めてここまで30分は予定通りだった。
これより先、一般車は通行できないため、マイカーはここに駐める。
ところが、いつもなら駐車スペースだけでなく、路肩にもびっしり駐まっているはずの車が今は2台しかない。
なるほど、元資材置き場の駐車スペースがいっぱいになっていた理由がわかった。
元資材置き場からここまでの林道がカチンカチンのアイスバーンと化していたため、マイカーはここまで到達できず引き返したか、それとも元資材置き場に駐まっている車を見てゲート前は満車と判断して(管理人のように)上がってこなかったかのどちらかだ。


ゲートから日向ダムへ向かって廃道となった林道を進んで行く。


林道は日光最大の砂防堰堤、日向ダムで終わる。


日向ダムを抜けると正規の林道と出合うのでここを進んで行く。


我々一行はここでチェーンスパイクを装着し、雲竜渓谷へと進んだ。


九十九折りを回避するため2回目のショートカット道を進む。


渓谷に入るといくつもの渡渉が待ち受けている。


友知らず付近に差しかかると巨大な氷柱が我々を待ち受けていた。


2月も下旬となり南に面した岩壁の氷柱は解氷が進んだ。


陽が当たらない岩壁の氷柱は健在だった。


崩れた氷柱によってできた空洞にすっぽり収まったSさん。


ここはまだ完璧に凍りついた氷柱だった。


すぐ隣の氷柱。


雲竜瀑が見えるところまで来た。
これ以上先へ行くと全体像が見えなくなる。


滝をバックに記念写真。


少し進んだところが滝壺への登り口になっている。
ここから先はアイゼン、ヘルメット、ピッケルが必要になるので我々一行の折り返し点はここになる。
装備を調えていつかはここを上がって滝壺へ行こう、一行の意見は一致した。


左右、よく見ながら歩いてきたつもりだったが、表から見るのと裏から見るのは違うように、往きと帰りとでは氷柱の見え方も違う。
目に焼き付けるようにじっくり見ながら歩いた。


階段を上がった広場を昼食の場と決め、それぞれが持参したランチを広げた。
管理人は御一行のためにウインナ炒めをふるまった。


チェーンスパイクはまだ外せない。
雪上だけでなく、雪解けで泥濘んだ道でもチェーンスパイクは効果を発揮する。


帰りも同じ数だけ渡渉が必要。


Kさんは身軽だ。
振り向くとすでに渡り終えている。


洞門岩手前のパイプ堰堤まで降りるとここから先は平坦だ。


だが渡渉はまだ終わっていない。


日向ダムへ降りる階段。
上っているのではありません(笑)
階段の上に多量の雪が積もって段差を埋め、それが凍りついて急斜面となっているため、安全を考慮して後ろ向きになって下っているところ。


日向ダムを抜けてチェーンスパイクを外したが、林道のゲートまで来て再び装着。
ここから駐車地までのアイスバーンを安全に歩くためである。


駐車地とした元資材置き場まで戻った。
全行程5時間40分だった。

日光で最大、落差180メートルを誇る雲竜瀑は凍る滝として名高く、多くの人が訪れる。
しかし、困難が待ち受けているのも雲竜瀑の特徴である。
その困難は歩き始める前にすでに待ち構えている。
・マイカーでなくては来ることができない(日光駅からのタクシー便はあるが1社のみ。それも予約が必要)。
・アイスバーンと化した林道は4駆でさえ危ない目に遭う。
・車止めにある駐車スペースは狭く、終末など前夜から泊まり込みで来る人や夜明け前に来る人の車で満車となる。
・雲竜瀑へのルートは確立されてなく、踏跡を頼りに歩くと行き止まりとなる場合がある。
・核心となる滝壺への道は険しく、ヘルメットにアイゼン(両者必須)、ピッケル(より安全)が標準装備となる。

今回、お客さんを伴ってのツアーを実施したわけだが週末開催でなおかつ、9時半という遅い時間の待ち合わせそして、ノーヘル・ノーアイゼン、道具はチェーンスパイクと2本のポールという装備でツアーが成り立つのかどうかを試してみたい気持ちがあった。
相手がベテラン揃いのDさん一行だからこそできたことである。
これまでの管理人の経験では滝壺まで行かないのであれば装備はチェーンスパイクとポールだけで十分というものである。
ただしそれは管理人が歩く場合であってツアーに参加するすべてのお客さんにあてはまるかどうかは未知数である。
今回参加してくれたDさん他2名は2013年から管理人が主催するスノーシューツアーに参加していて、それ以外の登山経験も豊富だ。
自分の身の安全は自分で守れる3人であり、その点ではなんの心配もいらない。
結果として、
往復13キロの道程(一部危険あり)を苦もなく歩いたし、滝壺へは行けなかったが、そこに至るまでの行程で観た「氷のカーテン」を大いに喜んでくれた。
ではヘルメットにアイゼン、ピッケルを所有している人であれば誰もがツアーに参加でき、管理人の案内で滝壺まで行けるのかといえばそれは難しい。
ベースとなる脚力を満たしているかどうか、管理人には判断できないからだ。
当面の間は管理人が脚力を把握しているリピーターに限定したツアーになるであろう。