晩秋の尾瀬、いにしえの道でブナの黄葉を楽しむ。

車中泊の途中で山登り、第7回
2023年10月19日(木) 晴れ

13日から始めた車中泊の旅は今日が最後となった。
車での長旅で気をつけなければいけないのは、ずっと同じ姿勢でいることによる下半身への血液の滞留なので、いい景色と出合ったときは車から降りて歩いたり、目についた山に登ることで血液の循環をよくするよう努めている。

2日目は新潟県の角田山7キロを歩いたが、最終日の今日は予定していた尾瀬沼まで歩くことにした。
尾瀬沼へはマイカーでもバス便でも御池まで行ってシャトルバス(※)に乗り換えて沼山峠休憩所まで行き、そこから歩き始めるのがノーマルな行き方である。
だがそれだと片道3.5キロのピストンになってしまいおもしろくない。
もちろん、尾瀬沼を一周することで距離は延ばせるが道は単調で、それもつまらない。
※東武鉄道・会津高原尾瀬口駅から路線バスで乗り換えなしで沼山峠休憩所まで行くこともできる。

2019年5月、少し変わった方法で尾瀬沼へ行ってみようと思い立ち、七入駐車場から歩いたことがあった。→こちら
昔、檜枝岐から群馬県に抜ける唯一の交易の道とされた沼田街道を歩いてみたかったのである。
芽吹いたばかりでまばゆいブナの新緑の下を歩けるいい道で、残雪で怖い思いもしたが、檜枝岐の懐の深さを肌身で感じ、いつかまた歩いてみたいと思っていたのだ。

車中泊の旅の最終日、良い思い出を持ち帰りたい、そんなつもりで4年ぶりに歩くことにした。

メモ(記録にはGeographicaを使用した)
・歩行距離:18キロ(GPSログをカシミール3Dで処理した値)
・所要時間:7時間24分(写真撮影と休憩を含む)
・累積標高:1104メートル(アップダウンのうち、上昇分の累積)

前夜から駐まっていた車は早朝5時前から次々に出発していった。
ここから移動する場合、行き先は燧ヶ岳や尾瀬歩きの起点となる御池駐車場か、会津駒ヶ岳の起点となる滝沢登山口であろう。
あるいは三岩岳かもしれないし、新潟県の平ヶ岳に登りに行くのかもしれない。
それ以外に考えられない。
三岩岳を除けばいずれも人気のある山なので駐車場確保が難しく、そのため早朝出発が必至なのである。
そういう管理人は今日、尾瀬歩きを予定しているが、御池駐車場は使わないから駐車場確保の心配はまったくない。


着いた先は道の駅からそれほど離れていない村営の七入駐車場である。
ここを起点に尾瀬沼まで歩こうというわけである。


ここがこれから歩く古道の入口。


ここから沼山峠休憩所を経て尾瀬沼に行くのが沼田街道、冒頭に書いた御池とここを結んでいるのが御池古道。
そのふたつの古道を歩くのが今日の目的である。
尾瀬沼へ行くのは距離稼ぎ、と動機はやや不純。
というのも、沼山峠休憩所から大江湿原まではコメツガの樹林帯を歩くため展望はなく、なおかつ大江湿原から尾瀬沼まではこの時期、花はなく、ただ草原が広がっているだけという殺風景な中を歩くことになり、面白さに欠けるのだ。
今日の主役は沼田街道と御池古道、このご両人である。


沼田街道を歩き始めるとすぐ、カエデの紅葉と遭遇。
日当たりの違いで緑に近い葉もあれば黄色、橙色、朱色の葉があり、そのグレデーションが美しい。


このルートには硫黄沢、赤法華沢、道行沢という3本の沢が流れていて、それぞれを渡って沼山峠休憩所に至る。
これは硫黄沢にかかる橋。
沢にはしっかりした橋がかかっていて転落の心配はないが、雪解けで水量が増える時期になると流れが橋を超えるようになる、というのを4年前に経験している。


大きな角材(枕木?)を積み重ねた階段を上がって行く。
木の階段は苔に被われ、上に乗るのを躊躇うほどの趣がある。


次は赤法華沢を渡る。


さらに道行沢(みちぎさわ)。
硫黄沢と赤法華沢は一度だけ渡るが、道行沢は橋を5回渡る。
つまり道行沢は沼田街道に沿って流れているというわけだ。


苔むしたブナの古木。


広大なブナ林の向こうから木漏れ日が差している。


近くに寄ることが出来ないがカエデの紅葉でしょうか?


携帯しているものの滅多に使うことのないポールを今日は手に持って歩いている。
これほどブナが多ければ熊もいるはず。
万一、遭遇したらこれで身を守ろうという考えなのだが、出遭わないに越したことはない。
他に登山者はいないのでザックにくくりつけてあるホイッスルを思いっきり鳴らしながら歩いた。


日が差し込むブナ林は明るく、黄葉が映える。


ここにずっと留まっていたい気分になるブナ林。
ブナは我が日光の山にもあるにはあるが、林を成すほどではないので檜枝岐のブナ林には圧倒される。


抱返ノ滝(だきかえりのたき)への分岐に着いた。
このすぐ右に大きな滝がある。
4年前は残雪のため近くに寄ることができなかったので、今日こそ滝を間近に見てみたい。


紅葉(黄葉)に囲まれた滝は扇のように下に行くほど広く、豪快というより美しい。


たくさんの写真を撮った後、滝を後にした。
振り返ると会津駒ヶ岳や三岩岳が見えた。


色づく前に落ちたとみられるコシアブラの葉(上)。
下は葉先が尖っていないため少し迷ったが、やはりコシアブラでしょう。


樹高20メートルはあろうかというオオシラビソ。
間もなく沼山峠休憩所に着く頃だ。


交易の道として利用されていたころのものと思われる石の祠。


ここにもシカがいると思われる。
足跡がいくつもあった。


沼山峠休憩所の裏手に出た。


休憩所全景


尾瀬沼へは休憩所の広場から林に入っていく。


沼山峠を通過


間もなくミズバショウやニッコウキスゲで人気の大江湿原。
シカの嫌いな格子状の鉄板が敷かれている。


木道の両側は枯れかかった草が広がり、ミズバショウのころの賑わいとは違ってハイカーの姿を見ない。


今日のトレッキングの目的地、尾瀬沼に着いてまず目に飛び込んできたのは環境省のビジターセンター。
旧ビジターセンターの隣に建てられ、旧ビジターセンターは撤去されて更地となっていた。


ビジターセンターの奥は長蔵小屋。
10人ほどのハイカーが昼食を摂っていた。
さて、ここで折りかえすつもりの管理人も腹が減っている。
ここらで眺めのいい場所を選んで昼食としよう。


尾瀬沼まで来たのだから昼食は燧ヶ岳が一望できる場所がいい。
まずは展望デッキからの眺めを楽しんで、、、


昔の長蔵小屋に移動してベンチに陣取って昼食とした。
尾瀬沼に来たらやはりこの眺めを見るに限る。
ピークは左から赤ナグレ岳(2249m)、柴安嵓(2356m)、俎嵓(2345m)。


尾瀬沼で20分ほど休憩した後、元来た道を引き返した。
そうだ、あの小高い丘の上に行ってみよう。


尾瀬開拓の祖と言われる平野家代々の墓を訪ねた。
墓は長蔵小屋そして尾瀬沼を向いて建てられている。


元の木道に戻り大江湿原を歩く。
間もなく、林間に入る。


沼山峠を通過


沼山峠休憩所が見えてきた。
さて、ここからのルートだが、車を置いた七入の駐車場に戻るには3つの方法がある。
同じ道を引き返す、路線バスで御池を経て七入で降りる、バスを御池で降りて七入まで歩く、という方法である。
往路で沼田街道を、復路で御池古道を歩くつもりで計画を組んだので、選択肢は3番目の御池から七入まで歩くということになる。
ただし、ここ沼山峠休憩所から御池へは距離が8キロもあるので歩くのは困難だ。
その区間だけバスを利用しよう。


沼山峠休憩所から御池を経て、七入、さらには会津高原尾瀬口駅を経て会津田島駅まで行くバスが間もなく発車の時刻を迎えていた。
待ち時間5分という運の良さだった。
ちなみに現在、マイカーは御池より先(ここ)へは行くことができない。
路線バスかシャトルバスを利用しないとここまで来ることができないが、今から35年くらい前だとバス停となっているここまでマイカーで来ることができ、その当時管理人は車をここに駐めて家族5人で尾瀬沼へ行ったことがある。
その当時の面影がわずかに残っているこのバス停を懐かしく思う。


路線バスを御池で降り(¥600)、ここから七入まで御池古道を歩くつもりだが、入口がわからない。
そこで売店に入って尋ねると御池ロッジ(村営の宿泊施設)の裏手が入口になっているとの答を得た。


なるほど、表からだとわからないが、こんなところに木道があった。


さあ、御池古道とはどんな道なのか楽しみ。


なかなかいいではないか。
沼田街道は山道だがこちらはほぼ平坦といっていい。


沼田街道にはなかった湿原もある。


沼田街道のブナ林も見事だったがこちらも凄い!


すごいブナだなぁ!


こちらはミズナラ。
これも貫禄がある。


見事としかいいようのない広大なブナ林に目を見張るだけ。


黄葉のトンネルを歩く。
これが国道から5メートルと離れていないとは凄いもんだ。


すぐ脇を走る国道352号線。
シーズン外れとあって車はほとんど通らない。


実にきれいに色づいたブナの葉。


オオモミジ


ここで一旦、国道に出るが、その距離わずか5メートル。
ここから再び林の中へ。


ブナ林は続くが飽きることのない景色だ。


御池古道も3/4ほど歩き、モーカケの滝と出合う。
展望デッキがあり、滝を遠くから眺める。


展望デッキ下のオガラバナ


同じくカエデ類の紅葉


展望デッキを離れて七入へ向かって行く。


なんとなく人工的に整備されているような道に変わった。
駐車場が近いのかもわからない。


幼木なのか目の高さにあるブナ。
陽の当たる部分の葉は朱色に、上にある葉の陰になっている部分は黄色と、これが自然の妙味というものなのだろう。


ここで沼田街道と交わり、御池古道は終わる。


七入駐車場は朝と同じく、管理人の車だけ。
6泊7日の車中泊の旅も今日が最後、これから日光まで3時間かけて戻ろう。


 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です