山の厳しさの指標として、累積標高について考えてみた。

これまで日光市の山はかなりの数、登ったと自負しているが、距離が長すぎるため登るのを躊躇っている山もいくつかあって、2千メートル級でいえば錫ヶ岳(すずがたけ)と皇海山(すかいさん)の2座である。両座、群馬県境に位置し、日光側からのアプローチはとても悪い。

もちろん、2座とも小屋泊まりを予定すれば登れる山なのだが、この2座だけは連続して休みが取れたとしてもどうしても日帰りで登りたい、どういうわけかそんな挑戦意欲を抱かせてくれるのである。

2012年7月、錫ヶ岳への下見で山頂手前3.6キロの白桧岳まで、往復16キロを歩いたことがある。この日は膝の手術を控え痛みをこらえながら歩いたためスタート地点に13時間半かかって戻るという結果だった。
目標とする錫ヶ岳まで、時速2キロで歩くとして往復7.2キロは3時間半、必要とする。
体調を整えて臨んでも17時間もの山行は年老いた管理人には過酷である。でも、そのような、身体が燃え尽きるほど激しい山行を一度はやってみたいと思っている。
ちなみに、下見がなぜ白桧岳かというと、錫ヶ岳までの行程で白桧岳までの間がもっとも厳しいからである。ここまで来ることができればこれから先、錫ヶ岳往復は頑張ればなんとかなるだろうという、目処が立てられる地点が白桧岳なのだ。

さて、もうひとつの皇海山であるが、これは錫ヶ岳よりもさらに厳しい山だ。
往復28キロあるので錫ヶ岳よりも長く、登り口からの標高差は1307メートル。錫ヶ岳の標高差が904メートルなのにたいして403メートルも余計に登らなくてはならない。
男体山は標高差が1200メートルなので厳しいとされているが、山頂往復の距離は8キロ。それにたいして錫ヶ岳は22キロ、皇海山は28キロあるので男体山よりもはるかに厳しい。

山による距離と標高差の違いを地図で調べてみた。

片道距離登山口標高山頂標高標高差
男体山4km1284m2486m1202m
錫ケ岳11km1484m2388m904m
皇海山14km836m2143m1307m

山頂の標高だけを比較すると男体山がもっとも高いが、標高差で比較すれば男体山は皇海山に次いで二番目となる。錫ヶ岳は登山口の標高が高いため男体山や皇海山よりも小さく、904メートルだ。
高度を上げるというのは重力に逆らって自分の体を上へと移動させるわけだから、標高差が大きければ身体への負担も大きいというのは肯ける。

山の厳しさを判定するのに距離と標高差は大きな要素になることは間違いないが、さらにもうひとつ、累積標高という概念を導入するといいと思うのでこれから説明したい。
これが当ブログ記事のテーマである。

今度の週末に、標高500メートルの里山に登る計画を立てるとする。
標高200メートルの登山口から上り始めると標高差で300メートル上れば山頂に達するように見えるが、地図の等高線を子細に眺めたところ登山道は標高300メートルの地点で一旦80メートル下って、そしてまた上りになることがわかった。
そうすると80メートル下った分、余計に上らなくてはならない。
つまり登山口と山頂という2点間の標高差はたしかに300メートルだが、実際には380メートル上って山頂、ということになる。
300メートルではなく、380メートル。これが累積標高の考え方である。

もっと極端に言えば、標高500メートルの登山口まで車で行くことができる山があったとする。そこから歩き始めて100メートル上って50メートル下り、さらに150メートル上って100メートル下り、さらにさらに、、、ということを繰り返しながらようやく標高600メートルの山頂に到達する。
この場合、標高差は100メートルなのに累積標高は900メートル(数値は適当に書いた)にもなる。
そんな山が管理人の身近にあるので実例を示そう。

左図は日光市のお隣、宇都宮市にある古賀志山のルート断面図である。
6.5km付近が本命の古賀志山(583m)で、標高208mをスタートして山頂へ行くまでに実に多くのアップダウンを繰り返す。
この日の累積標高は1453メートルだったから標高差わずか375メートル(583-208)の古賀志山に登るのに、その4倍近くも上ったことになる。

累積標高の概念を導入すると距離や標高差だけでは分からない、その山の本当の厳しさが理解できる。錫ヶ岳の下見で白桧岳に登ったときは疲労困憊で帰ってきたのだが、その理由は累積標高を調べることで解明できる。

累積標高を大ざっぱに把握するためには地図を眺め、予定しているルートの等高線の数を数えればいい。などと簡単に書いてしまったがそれはとても煩わしい作業になる。
多くのハイカーに利用されている昭文社「山と高原地図」だと、地形を読むための等高線が他の情報に隠れて見えないから厄介である。
管理人はカシミール3Dというフリーの地図ソフトを使って累積標高を数値化しているが、これから登る山の厳しさを知るには大切な作業であると考えている。

以下、説明をわかりやすくするために往復とも同じルートを歩いた場合の、往路のみの累積標高を見てみる。
累積標高を上に書いた3つの山にあてはめると、

標高差累積標高標高差:累積標高
男体山1202m1220m1.0
錫ケ岳904m2420m2.7
皇海山1307m2324m1.8

先ほどの比較とは様相が異なりますね。

錫ヶ岳にしても皇海山にしても累積標高は男体山よりも大きい。
錫ヶ岳でいえば登山口から山頂までの標高差は904メートルだが、上ったり下ったりを繰り返しながら実際には標高差の3倍近い、2420メートルも上らなくては山頂に到達しないことになる。それなりの覚悟で挑戦しなくてはならないだろう。
つまり、その山の標高だけでなく標高差や累積標高といった要素を加味することでその山の厳しさが見えてくるというわけだ。
地図を平面的に眺めただけではわからない山の厳しさが、累積標高を把握することで初めて理解できるといえる。

余談になるが今はインターネットを利用して国土地理院地図を閲覧できるし印刷もできる。自宅にプリンターがなければコンビニで印刷することも可能だ。
国土地理院地図は視認性に優れ、また等高線は標高10メートルごとに引かれているので地形の状況がよくわかる。上りから下りに転じ、次に上りに転じるような地形では等高線の本数を数えることで何メートル下って何メートル上るのかが把握できる。
とはいえ、アップダウンがいくつもあるコースでそれをやろうと思ったら大変な作業になる。

管理人は累積標高を前述のカシミール3Dで算出しているが、実に簡単だ。
算出には次の2通りの方法がある。
(1)登山前にルートを設定し、それを計算根拠にする方法・・・計画段階の値
(2)登山後のGPSログを計算根拠にする方法・・・実際の値
ここでは累積標高を登山前に知りたいので、(1)の方法で算出している。なお、両者の値(計画と実績)は当然ながら異なる。(2)は下山後に計画の精度を確認するのにいいと思う。
また、同じ山を同じ方法でルート設定した場合も値は異なって算出される。これはルートをマウスで追う際の微少なブレが原因だと思うが、誤差の範囲として許容した方が精神的にはいい。

男体山の標高差と累積標高との比率は1.0倍と、錫ヶ岳の2.7倍や皇海山の1.8倍に比べてぐっと小さい。これは山頂まで上り斜面がずっと続いていることを表している(左図。古賀志山と見比べてほしい)。

累積標高が標高差と同じであることを考えると、アップダウンがないのだと判断できる。アップダウンがあれば下り部分で疲れを回復できるが男体山はそれができない。ゆえに厳しい山という評価になっているのだと思う。

男体山とは反対に、標高差と累積標高の比が大きいほど山頂までのアップダウンが激しいということを意味している。錫ケ岳や皇海山はアップダウンの下り部分で楽ができるからその間に疲れが回復し、次の登りで使うエネルギーを蓄える時間が得られる、、、、はずなのだが現実はそう甘くはない。
下りは重力に対してブレーキをかけながら歩くわけだから下半身に相応の負担がかかる。膝に痛みが生じるのはこのときだ。

いずれにしても累積標高はこれから登る山の状況を事前に知っておくための指標として、有効であると思う。
激しく疲れて下山し、自宅に戻って累積標高を調べてみるとなるほどとうなずけるから、やはり累積標高を考慮した山行計画を立てるのはいい方法ではないかと思っている。

またまた余談だが、「山と高原地図」で便利だなと思うのは区間の標準所要時間が記載されていて、これは山の厳しさの参考になる。
ある区間を往復する場合、往きが70分、復りが30分と記載されていれば往きは上りで復りは下り(当たり前だが)と読める。
下りに対して上りは2.3倍も時間がかかるから、この区間は相当苦しむぞ(個人差が大きいが)と考えればいいと思う。

話を元に戻して両座、いつ登るかといった計画はいまのところまったくないのだが情報収集だけはやっておきたい。とはいってもネットでではなく、自分の足で。
錫ヶ岳の下見では白檜岳から先は224メートル下って218メートル登ることが前述のカシミール3Dでわかっている。距離は往復で7.4キロなので時速2キロで歩くとして、プラス3時間半を見込めばいいという感触がつかめた(3時間半も余計に歩くというのも厳しいが)。
肝心の皇海山については数値上では厳しいことがわかったが、危険箇所などはわからないので下見は必須だ。下見は錫ヶ岳を目指して白桧岳へ行ったのと同じく、なんとか目処の立つ地点として庚申山を選択した。

下見地点
(最終地点)
登山口と標高登山口~下見地点までの標高差と累積標高下見地点~最終地点までの片道距離と累積標高
白桧岳/2394m
(錫ヶ岳/2388m)
湯元
1500m
894m
1465m
3.7キロ/390m
庚申山/1892m
(皇海山/2144m)
銀山平
836m
1056m
1818m
4.2キロ/680m

目処の立つ地点として錫ヶ岳の場合は白桧岳が妥当と考えたが、皇海山だと庚申山からまだ680メートルも上らなくてはならず、そう考えると皇海山の下見はもうひとつ先の鋸山まで足を延ばす必要があるのかもしれない。

いずれにしても庚申山でさえ登山口から片道8キロ、累積標高は1818メートルもあるので下見とはいえ厳しいことが予想される。庚申山から先に行くかどうかは行ってみて考えることにしよう。

※累積標高はカシミール3Dを使って算出したが、どのような計算ロジックになっているかは分からない。したがって上で説明した各山の累積標高の正確性について保証するものではありません。

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