2025年4月8日(火) 晴れ
昨年3月末、イワウチワが群生する山が那珂川町(栃木県)にあるとのニュースを目にし、さっそく訪れてみた。
イワウチワは2018年6月に会津駒ヶ岳で、翌年5月に窓明山への縦走路で見た。
いずれも南会津(福島県)の山である。→窓明山
イワウチワはイワウメ科の植物で、同じ科に属していて日光でもよく見る植物としてイワカガミがある。
花の宝庫として知られている我が日光だが、イワカガミと同じイワウメ科なのにイワウチワは日光の花を網羅した花図鑑にも掲載されてないことから、栃木県内には生育していないんだろう、そう思っていた。
それが冒頭に書いたように県内にも生育していると知って訪れたのである。
実に見事だった。
管理された民間の小さな山だが、斜面一面にびっしり咲き、県内で言えば古賀志山(宇都宮市)か三毳山(栃木市)の斜面を埋め尽くすカタクリを思い起こすほどの花の多さなのだ。
イワウチワの他には花がないといっても過言ではなく、斜面一面が淡いピンク色に染まっている。
→富山舟戸いわうちわ群生地
開花期間中、常駐している保存会の人に聞くと、ここは八溝山地にあって日光の山とは植生が異なり、そのためイワウチワが生育しているのだという。
なるほど、八溝山地特有の植物ということなのか。
興味がわいたので八溝山地をWiKiで調べると、福島県・栃木県・茨城県の3県境に近い、主峰八溝山を起点に南へ下り、筑波山に至るとある。
筑波山に至るまで10数座もの山を有するから実に長大な山地といっていい。
栃木県の山を集めたガイドブック(随想社・栃木の山150)の目次から、八溝山地に属する山を探し、さらにイワウチワが咲く山を探すと、花瓶山(はなかめやま、692m)が見つかった。
イワウチワの写真付きで紹介されているのは花瓶山だけだった。
管理の行き届いた那珂川町の民有地で見たイワウチワはそれは見事だった。
だが、花は好きでも登山に不慣れなお客さんを案内するには望ましいとはいえ、管理人には物足りない気がする。
かつて南会津の山で見たときのように、是非とも登山の行程でイワウチワを見つけたい。
あのときの感動をもう一度、味わいたいものだ。
開花時期は今頃だし、さっそく行くことにした。
メモ(地図アプリはGeographicaを使用した)
・歩行距離:14.7キロ(GPSログをカシミール3Dで処理した値)
・所要時間:5時間46分(写真撮影と休憩を含む)
・累積標高:1038メートル(アップダウンのうち、上昇分の累積)
カーナビに任せて花瓶山の駐車場にやって来た。
自宅を出発したのが6時前だったと思うので2時間半近く、車を走らせて到着した。
花瓶山は県境の茨城県側に位置するが、ここは栃木県大田原市だと思う。
同じ県内に住みながら北は福島県、南は埼玉県、東は茨城県、西は群馬県に接し、端から端まで移動するのに4・5時間かかるのが栃木県である。
2時間半は我慢しなくてはならない。
案内図にコースが記されていたので持参したガイドブックと見比べたところ、ガイドブックだとここから山頂ピストンになっているのに対し、案内図では周回できるようになっている。
どちらのコースを採用するのがベターか、それはもちろん案内図のコースだ。
往きと帰りで別の道を歩けるのは嬉しい。
発見も多いはずだ。
案内図のすぐ脇に駐車場を維持管理するための募金箱があったのでわずかな金額だが入れて歩き出した。
檜が茂る林間を北へ向かって歩き始めた。
林道は車両の通行が多いと見られ、固く締まっている。
マイカーと見られる車が数台、管理人を追い抜いていった。
この先、「うつぼ沢出合」の橋の手前に2・3台のスペースがあるとガイドブックに書いてあったから、そこを目指しているのだろう。
なんの面白みもない林道を無目的に歩くのはつまらないのでなにか花はないかと思い、左右に目を凝らしながら歩いていると林道の際にニリンソウを見つけた。
蕾がほんの少し開いている。
午前中には咲きそうだ。
今度はキクザキイチゲ。
今は眠たげだが日差しが強くなればシャキッとするのだろう。
管理人、林道を好んで歩くタイプではなく、どちらかと言えば回避したい。
だが、花があれば別だ。
この林道、ななかなか楽しめるではないか。
車が6・7台、駐まっている。
ガイドブックに書いてある「橋の手前の2・3台のスペース」とはいま管理人が立っている位置。
あそこは木材搬出用車両専用の駐車場だ。
ガイドブック発行から12年を経て、今では登山者用の駐車場として周知されているようだ。
管理人が利用した駐車場からここまで約30分。
無駄な時間だったと考えるか、それともわずかな種類だが花を観ることができたので有意義な時間だったと考えるべきか、悩むところ。
車から降りた登山者の多くは駐車場を右に折れて花瓶山へ向かって行っている。
その方がイワウチワとすぐに出会えるのであろう。
さて、どうすっかなぁ。
おいしいメインディッシュを先に食べるべきか、それともメインディッシュは最後にゆっくり食べることにして先にサイドディッシュを食べるべきかの選択だ。
登山者はみな、花瓶山へ向かっている、すなわちメインディッシュを先に食べる派の方が多い。
ならば管理人はその反対にしよう、とへそ曲がりぶりを発揮するのであった。
ここは直進だ。
林道沿いに咲く花はまだ続く。
これはタチツボスミレ。
山であればどこででも観ることのできるスミレである。
おぉ、ここだ。
先ほどのウツボ沢出合に次く花瓶山への分岐である。
それにしても長かった。
駐車場からここまで林道をてくてく5.3キロ、1時間半かかった。
花を見ながら歩けたからよかったものの、そうでなかったら退屈で苦痛に感じたであろう。
ここでようやく尾根道と出合った。
花瓶山は右へ50メートルとある。
今日のお目当てのイワウチワの群落は花瓶山に登り、次ぎに向山に登り、向山からウツボ沢出合に向かって下る途中にある。
それが順当なルートと言えるが標識にある次郎ブナ、太郎ブナというのが気にかかる。
標識に書かれているくらいだから、さぞ立派なブナなのであろう。
今から12年前に発行されたガイドブックによると次郎ブナは朽ちかけた古木とあるが、どれほど立派な姿をしているのか、この目で確かめてみたいものだ。
ちなみに、太郎ブナについてはガイドブックには言及されていなかった。
標識を左に辿って次郎ブナ、太郎ブナを目指す。
尾根は平坦でとても歩きやすい。
おやっ、まだ蕾だがカタクリがあるぞ。
よく見ると尾根道の両側に、まだ葉っぱだけのカタクリがたくさんあるではないか。
キクザキイチゲやニリンソウ、スミレに加えてカタクリもたくさんあるのだ、この山は。
イワウチワだけではなく、花の宝庫と言っても過言ではないようだ。
ガイドブックに書かれているように、確かに朽ちかけている。
ブナ特有のスベスベした樹皮ではなくゴツゴツしているし、張り出した太い枝が折れている。
土壌が弱いのか自らの重さで傾いでいる。
周りを檜が取り囲むようにして成長したため栄養分が行き渡らないのかもしれないし、檜がじゃまをして陽を遮っているのかもしれない。
太郎ブナ、次郎ブナという名前の付け方から判断すると、太郎ブナの方が先輩格となるはずだ。
次郎ブナがこんな状態であれば太郎ブナはどうなんだろう、心配がてら見に行ってみよう。
次郎ブナとの距離差は400メール。
行ってみたが太郎ブナは痕跡すらなかった。
老朽化が激しくて切り倒したのであれば切り株が残っているはずなのに、それがないということは寿命が尽きて根元から倒れ、撤去されたのかもしれない。
「太郎ブナ」を示す標識だけはたくさん残っているのだがね。
先ほどの標識まで戻り、花瓶山に向かった。
名前の由来はわからないが、これだけ花が多ければ花瓶(花が詰まった瓶)という命名に納得がいくというものだ。
山頂は展望がないのが残念だった。
スペースも広いとはいえない。
この先、木々の間に人の姿が見えたので進んで行くと、大きな切り株がいくつかあってそこに腰をかけて休憩できるようになっている。
時間はまだ早いが早朝出発だったため空腹を感じている。
ここで昼飯としよう。
展望が楽しめるわけではないので早々に昼飯を終わり、イワウチワの群落があるという向山へ向かった。
辺りはもの凄い数のカタクリだった。
盛りにはまだ早いようだが咲いているのもひとつふたつ見つかった。
これかな、イワウチワの群落というのは。
あっいや、場所が違う。
ガイドブックと駐車場のコース図には向山よりも先がイワウチワの群落地となっている。
ここは群落と呼ぶには規模が小さい。
オマケ程度に考えておこう
向山山頂に着いた。
向山山頂から林道の出合まで1.2キロ。
イワウチワの群落はその間にあるはずだ。
どれほど大きな規模の群落なのか、期待しよう。
鬱蒼とした檜林を下っていくと日当たりのいい場所に出て、そこにイワウチワがあった。
ガイドブックで紹介されていたイワウチワの群落はここを指しているのか。
登山道の下り(向山から林道出合に向かって)、登山道の右側の日当たりのいい場所に群落を作っている。
なかなかのものだ。
十分すぎるほどの時間を割いてイワウチワを堪能した。
もうお腹いっぱいというところでイワウチワの群落は途切れた。
さあ、ここからは林道を歩いて駐車場まで戻ろう。
右へ曲がるとウツボ沢出合のゲートに行く。
長い道中だったがなんとか無事に戻ることができた。
帰宅してGPSログから距離を算出したところ、14.7キロと出た。
それなりに歩いたのだ。
とはいえ、このうち登山道を歩いたのは7.4キロと全行程の半分に過ぎない。
他半分は林道を歩いたことになる。
林道歩きを短縮したいのであれば車をウツボ沢出合まで進めることで、4キロ短縮できる。
ただ、その4キロの区間にキクザキイチゲやニリンソウ、スミレ、ハナネコノメ、ネコノメソウ、ユリワサビ、ショウジョウバカマが観られたのである。
横着して林道を回避するとその代償は大きい。