「老ガイド 道まちがいを 助けられ」。同行のIさんのおかげで道まちがいを助けられた鳴虫山での一幕であった。

2015年3月26日(木) 日光・鳴虫山バリエーションルート
天候:快晴、積雪なし、山頂直下の落ち葉下にアイスバーンあり

タイトルをつけるのに悠長に五七五などひねっている場合ではなく、いまは忘れないうちに道まちがいの原因を精査しなくてはならない管理人なのだが今日のツアーは昨年スノーシューに参加したIさんの機転によって山中での徘徊一歩手前でとどまり事なきを得たことを肝に銘じて、次のツアーに役立てなくてはならないと思ってのタイトル付けである。
冷静に考えればガイドとしてなんとも情けないタイトルではあるが、これがガイド役の管理人の実力であることを正直に述べておきたい。

管理人はある程度、地図を読めると思っているがその自負も過大になると慢心につながってなんの問題もないような場所で別の尾根に入り込んでしまい、山中をさまようということがある。とはいっても気づいて数分で脱出できるからボケはそれほど深く進行していないようだがw

仕事の都合でこの冬のスノーシューツアーに参加できなかったリピーターのIさんだが、ふつうの山歩きでもかまわないというご要望があり、今日はIさんの好む難ルートにご一緒した。コースは昨年から管理人が取り組んでいる日光修験道のひとつ、鳴虫山バリエーションルートにしたが道迷いを起こしやすい難コースである。
日光を拓いた祖といわれる勝道上人(しょうどうしょうにん)から始まってその門弟らによりめんめんと引き継がれた修験。その修験のために使われた道が鳴虫山には残されていて、それらを廻っては往時を偲ぶのが管理人が昨年から始めた山歩きのスタイルとなっている。

日光修験その鳴虫山。国土地理院の地形図や山と高原地図には一般のハイカーが利用する尾根ルートが記載されているが、鳴虫山にはその主尾根から派生している枝尾根というのがたくさんあり、1103メートルという低山ながら地形は複雑である。それら枝尾根が修験道として使われていたことが池田正夫著「日光修験・三峰五禅頂の道」でわかる。

枝尾根を歩いてわかるのは修験道だけあって厳しく、深い谷に滑落しそうな危険箇所はあるし両手を使わなくては登れないほどの急斜面がある。枝尾根からさらに尾根が派生しているので道まちがいもしやすい。道を間違って予定とは別の尾根に入り込んでは引き返すということを、管理人は経験している。下山口まであと10分という場所でさえそれは起こる。

さて、管理人は山歩きをする場合、地形図とコンパス、GPSを使うのを習慣としているがそれらは道迷いをしないためのあるいは、道迷いから脱出するための強力なツールになることを実感している。そして、これまでも多くの場面で助けられている。
地形図とコンパスだけで知らない道を歩くのは管理人の経験からいってとても難しい。いま立っている場所の特徴を地図と照合して現在地を特定したり、これから進むべき場所の地形を地形図から読み取るなどの作業が必要なのだが、山の中はどこも同じように見えてしまうから難しい。
そのような場合、最終判断はGPSに頼ることにしている。GPSに表示される緯度経度を地形図に投影することで現在地を知り、次の目標地点に向かうルートを決めるわけだ。

しかし、問題はGPSを使うタイミングだ。車で走っていてT字路にさしかかったら右か左かの2択しかないが、尾根の分岐はそんなに単純ではない。そこに道標でもあればいいのだが、バリエーションルートに道標などないのがふつうだ。
それに尾根が分岐していることすらわからない場合がある。目の前の道がまっすぐ延びているので疑うことなく歩いて行ったら崖になっていてそれ以上、進むことができず、引き返す途中で往きで見えなかった分岐が見つかったりすることがある。
だから、どこでGPSを使うか、それが重要である。

今日の山行では別の尾根をすでに歩き始めて間違いに気づいたのが1箇所。これは分岐に気づかず、メインとは別の尾根に入ってしまい地形図と異なる妖気(^^)が漂っていたので気がついたわけだが、150メートルも進んで気がつくようではまだ修行が足りない。もっと早くGPSで確認しておけば間違いに気づいたはずだ。
銭沢不動尊へ行く下り斜面で大木を避けて進んだらそれが別の尾根の始まりであることに気づいて戻ったこともあった。ただし、5メートルほど進んですぐ気がついたのでこれは勘弁してあげようw

別の尾根に入りそうになって思いとどまったのが2箇所。これは分岐は明確なのだが広い尾根と狭い尾根、整備された尾根と藪尾根、そのどちらに行けばいいのかを判断するのに時間がかかった。
この2箇所は難しい判断に迫られた末に正しい尾根に入ることができたのだが、管理人の迷いに同行者Iさんの意見が加わったことで迷いが吹っ切れ、正しい尾根を選択できたのだ。

Iさんは地形図が読めるのであった。驚きであった。
馬鹿にしているわけではない。管理人自身、地図が好きで暇さえあれば眺めては次の山行を考えている。読図の解説本も何冊か持っている(だけだが)。フィールドでは地形図とコンパスをよく使う。が、地形図を使いこなせているなどとは思ってもいない。

管理人が山で見かけるのは5万分の1の地図を収録した、山と高原地図を携行しているハイカーが多く、地形図とコンパスを使っている人を見るのは希である。
だから国土地理院の25000分の1という本来、山で使う地図を携行しているIさんのようなハイカーには敬意を表している。
紙の地形図が好きだというIさんはこの日、鳴虫山の地形図(地理院1/2.5万の日光南部に収録)の他に日光北部それに、山と高原地図という広域版まで携行していた。
GPSアプリの入ったスマホにも地図をインストールしているほど、地形図(広義の意味では地図)は山歩きに必須であることをよく知っている。
ちなみに、Iさんから聞いた話で管理人が大いに感心したことがあるので紹介しておく。

ハイカーの皆さんは難易度はともかく、山に行く際に登山届けを作成していますか?
Iさんは身近な山へ行くにも3部、作成しているそうだ。一部は登山口のポストへ投函、一部は家族へ渡しそして、一部はザックに入れて携行するとのことだ。
遭難時の発見と身元確認を早くそして、他者への迷惑を最小限に抑えるための習慣だと聞き、ものすごい自己管理だと思った。そこまでできるのは成熟したハイカーならではのことである。
管理人も大いに見習わなくてはならないと思った。

話が飛んだが、難しい判断だったと書いた2箇所はゴールの手前300メートルの間。間違えずに歩けば10分である。が、バリエーションルートだから地形図に道など描かれていない。そこに森林管理のための整備された作業道があったりするから、どうしてもそちらに行きたくなってしまう。予定しているゴール地点と作業道の終点は大きく離れているわけではないので致命的な問題とはならない。
しかしそれだと、地図読みに失敗したのと同じで管理人にとって許せないことなのである。したたかに酔って自宅とは反対方面の電車に乗ってしまい気がついてあわてて乗り換えて帰ってきたなどという、笑い話(でもないか)では済まされない。なにしろゴール目前といえど、ここは山の中なのだ。人の命がかかっている。最後まで気を抜かずにゴールを目指すのがガイドたる役目だ。

最初の判断迷いはA点(最後に掲載した画像を参照)である。
GPSの緯度経度からここがA点であることがわかったが、地形図では東北東への尾根と南南東への尾根に分岐している。南南東への尾根にはピンクのリボンが点々とありそれに、歩きやすそうである。東北東への尾根は疎い藪状になっていて躊躇う。しかしここは藪になっている東北東への尾根を行くのが正しいのではないかというのが、Iさんの意見であった。
山中で見かけるリボンはそれが登山コースにつけられているのかどうかをしっかり見極める必要がある。この場合、南南東の尾根につけられたピンクのリボンは数が多すぎて不自然なのと、なん本かは杭にリボンがつけられていてこれもまた不自然だ。それをもって林業用のリボンであることを見抜いたIさんはさすがである。

二度目の判断迷いはB点である。近くに旧日光市役所の建物が見える。今日最後の目的地は愛宕の猪像なのだがここから建物が見えるほど単純な地形ではない。B点の右にハッキリした尾根が見え、向かっている方向も目指す猪像のようだ。B点から杉林を20メートルほど横切って尾根に乗り、無事に猪像と出合うことができた。これもIさんと意見が一致したから為しえたことである。
管理人ひとりであったら過去に経験しているように、おそらく下山口の100メートル手前で徘徊していたことであろうw

判断に迷わずゴールに向かって歩くことはじつは容易にできた。種明かしをすると、GPSにあらかじめ歩くルートを記憶させておき、あとは画面のルート図にしたがって歩けば目的地に到着するという、カーナビと同じナビゲーション機能がGPSには備わっていて、これを使えばいいのだ。
しかし、この便利機能に頼っていると地形図と地形の照合という、読図でもっとも重要とされる技術の習得が疎かになる。だから管理人はこの機能は最後の最後まで使わず、緯度経度から現在地を特定し、それを地形図に投影することで次の目的地へ至るルートをコンパスで設定するという、基本技術を大切にしている。
管理人のように道まちがいを起こしたり、尾根の分岐でどちらへ行こうか迷ったりするのはこの基本がまだ習得できていないからであることを認識している。
完全に迷ってにっちもさっちもいかなくなったときはナビゲーション機能を使って脱出するが、頻度は少ない。

話がまた脱線した。船頭はひとりでいいが判断に迷ったときに的確な助言をくれる隣人がいれば、より安全なツアーができることを実感した一日であった。


IMG_0576鳴虫山は杉と檜の植林地帯、特に地形図にある道に多く展望に恵まれた場所は少ない。
バリエーションルートにも人工林はあるがルート上から日光連山を見渡せる場所がいくつかある。

IMG_0580まず第1の目的地はここだ。大きな岩をくりぬいて(と思いたいが)洞窟状にした岩屋観音である。
ここを訪れるのは昨年の秋から数えて5回目だ。

IMG_0581人が立てるほどの高さがある洞窟内にはかわいらしい観音様が鎮座している。

IMG_0585洞窟の前は崖になっているがおそらくアカヤシオであろう、大木がある。5月が待ち遠しい。

写真はミズナラだが折れた枝の枯れ葉は熊棚に違いない。

IMG_0588岩屋観音をあとにアカヤシオとシロヤシオが林立する快適な尾根を歩いて正規のルートに向かう。写真は尾根の始まりなので傾斜は緩いが、次第に厳しさを増してくる。厳しすぎるくらいの傾斜である。

IMG_0590正規のルートと合流するとこれから20分で鳴虫山山頂である。

IMG_0594標高1103メートルの山頂に立った。
ツツジの季節になると人で埋め尽くされるが、この日はIさんと管理人だけだ。
山頂はプラス5度もあってか霜柱が溶け、ぬかるみと化していたがそれも春の訪れを告げる自然の現象だ。

IMG_0595山頂からの日光連山の眺め。ここにアカヤシオが咲けば最高の絵になる。

IMG_0599山頂のアカヤシオ。すでに蕾をつけている。
景色をもっとゆっくり眺めていたいところだがここが今日の目的地ではないので早々に下山する。

IMG_0600含満淵への下山ルートはいきなり急階段で始まる。
昔は丸太で組まれた階段だったのが朽ち果てたので付け替えられた(といってもずいぶん前の話)。

IMG_0603合峰(がっぽう)に着いた。
ここから正規のルートを外れて再び修験道に入る。次に目指すのは「化星(けしょう・きしょう・かせいなどの呼び方があるようだ)の宿」だ。

IMG_0607化星の宿に残された金剛堂。
ここから一段下がった平らな場所に修行のための建物があったそうだ。

IMG_0610化星の宿から次の目的地、銭沢不動尊に向かうところで別の尾根に入ってしまったが、おかげでこのような石の祠を見つけた。あとで本で調べてみよう。

IMG_0614正しいルートに戻って銭沢不動尊への道を進む。

IMG_0617落ち葉が堆積した急な沢を下る。落ち葉の下になにが隠れているかわからないので、チェーンスパイクを装着して慎重に下る。

IMG_0620大きな岩を基礎にもつ、銭沢不動尊である。
説明板には火防(ひぶせ)の神様と書かれていた。

IMG_0629銭沢不動尊から元の尾根に戻って最後の目的地である愛宕の猪像へと向かうが、来た道を戻るのも面倒なのですぐ目の前の尾根に取り付いてみた。
急である。両手も地面について4本脚で登らなくてはならないほど急である。
先に取り付いた管理人はあまりの動悸の激しさに休んでいたら、間もなくIさんに追いつかれ追い越されてしまった。その顔には余裕さえ見られた。

IMG_0633無事に下山用の尾根に乗ることができ、送電線の鉄塔下に着いた。ここも正規ルートにはない展望の良さである。

IMG_0639このブログでなんどか紹介している愛宕の猪像だ。説明板には狛犬とある。地方によっては犬ばかりではなく、猪さえも狛犬として祀られるようだ。
冒頭で説明したようにここに来る間に2度の判断迷いがあった。が、ここまで来ればこの先、迷いようがない(^^)

対になった阿吽の猪をIさん、盛んに愛でていた。ここにご案内したことをよかったと安堵する管理人である。

IMG_0643ゴールの瑠璃堂。正確には観音寺・薬師堂といって目(病の?)の神様が祀られているそうだ。

150326atago-mapゴール直前になって判断に迷った2つの地点。
こうして地形図で見ると進むべき方向は明らかなのだが、不思議なことに現場だと迷いが生じる。