五色山~前白根山縦走ルートから百名山の白根山を眺める。ここは花の宝庫だ。

2016年8月15日(月) 曇り

昨年6月、管理人主催のフラワーウォッチングのツアーに参加した宇都宮在住のHさんから、盆最後の15日にガイドをお願いしたいとの依頼があった。

希望は白根山。言わずもがな日光で最高の人気を誇る山である。

百名山として全国的に知られていること、関東以北最高峰の山であること、標高2578メートルのうち2000メートルまで一気にゴンドラで上昇できる手軽さ、山頂からの展望が素晴らしいことなどが人気の理由になっている。

Hさんはフラワーウォッチングの後、鳴虫山高山赤薙山といった順に標高と難易度を上げながら山女子としてのスキルを磨いてきた。そろそろ白根山への要求が生じてもおかしくない時期にきている。
管理人も大賛成なのだがいかんせん、日程が悪い。
レジャー業界に身を置く管理人は盆中は忙しい。一見客であれば即、断ってしまうケースだ。
それに超人気の白根山は平日も週末もなく混む。盆休み中の15日ならばなおさら、登山者が殺到するはずだし、車を置く場所さえ確保できない恐れがある。

Hさんにはこの時期の白根山の状況を説明し、今回は白根山を諦めてもらうことにした。その代案として、白根山以上に満足のゆくルートを提案して差し上げた。
具体的には、白根山とその麓にある五色沼を目の前に見ながら歩く、五色山から前白根山を縦走するルートだ。五色山と前白根山を結ぶ稜線は、距離は700メートルしかないが西側に広がる白根山と五色沼の眺めが素晴らしい。
歩きながら眺める景色の中ではこのルートと、男体山と中禅寺湖を眺めながら歩ける白錫尾根ルートが他を圧倒する。
このルートであれば距離も時間も菅沼口から白根山に登るのとほぼ同じだから、歩いて物足りないということはない。むしろアップダウンが多かったり難所があったりするので難易度は白根山より上だ。

コースは決まったとして問題は、今日は午後から雨の予報になっていることだ。それと帰宅したら宿泊のお客さんのために夕食の準備を整えなくてはならない。したがってできるだけ早い時間に登り始めて早い時間に下山する必要がある。帰宅のリミットは16時だ。
そこでHさんには朝一の電車で来てもらうことにした。といってもローカルのことゆえ始発は遅い。宇都宮始発でも日光駅着が6時39分だから移動時間を考慮すると登り始めは8時になってしまう。天気が目まぐるしく変わる夏山ゆえ、6時には歩き始めたいところだがこればかりは仕方がない。
8時に歩き始めて16時には自宅に戻っている必要があるから、どんなに遅くなっても下山は15時だ。いや、レジャー客の車で国道が混雑することを考えると14時半を目標にすべきであろう。
そのためにも行程中は綿密な時間管理をおこなうことが重要になる。

そうして組んだ行程が左図である。
Hさんにとって2千メートル峰は今回で2度目だが、1登目の赤薙山に比べるとアップダウンを繰り返す分、累積標高差が大きくなる。
したがって所要時間にゆとりを持たせると同時に、各ポイントごとに休み、身体に負担がかからないようにした。
休憩時間はときに計画よりも長く、ときに短くとることで全体の進み遅れを調整することにした。
計画では登り開始から下山までの6時間半のうち、1時間10分の休憩を含むから、息の上がらないゆっくりペースだと思う。


行程全体の流れは次のようになる。
金精トンネル(8:00)~0.5km~金精峠(8:40/8:45)~0.83km~金精山(9:40/9:45)~0.53km~国境平(10:05/10:10)~0.76km~五色山(10:50/11:05)~0.76km~前白根山(11:35/11:55)~0.76km~五色山(12:25/12:30)~0.76km~国境平(12:55/13:00)~0.53km~金精山(13:25/13:30)~0.83km~金精峠(14:00/14:05)~0.5km~金精トンネル(14:30)


07:40
国道120号線の湯元への分岐を過ぎたあたりで名称が通称、金精道路に変わる。
いくつかのカーブを曲がると金精トンネルを目の前にする。その入口部分が金精山の登山口で駐車場がある。
天気予報は数日前から曇りのち雨となっていたのでそれで敬遠されたのか、10数台ほど駐まれるスペースは先着車が5台。苦労することなく駐めることができた。


7:50
登山道は駐車場の隅っこにあり、大きな案内板と登山カード入れが設置されている。
道は金精トンネルの管理小屋(おそらく電光掲示板や照明などの)の裏手を回り込んでから本格的な登りになる。


うふぇっ、いきなり岩が出てきた。


岩の次は崩落した斜面を横切るといった冒険をしなくてはならない。幅30センチほどの踏跡がついてはいるが、火山礫なので滑りやすい。足の置き場所を間違えると数十メートル下の沢底に至る。


早くも花が見つかった。オヤマリンドウ。


登山口から金精峠まで距離は約420メートルと短いが、標高差は190メートルもあるからそれなりに厳しい。
フィールドアスレチック的な冒険気分を味わいたい方にはお勧めかも(^^)


アキノキリンソウ(キオンかも?)。
笹の葉が濡れているがこれは夜露。雨はまだ降っていない。


ハンゴンソウ。
初めはキオンかと思ったが分裂している葉はハンゴンソウの特徴だ。


帽子をかぶったような独特の形をしたトリカブト(ヤマトリカブト)。猛毒を持つ。
葉がヨモギに似ていることから若芽のうちはトリカブトと気づかず、食して死に至った事例も多いらしい。


8:27
Hさんに花を解説しながら荒れた急斜面を登り切るといきなり平らな地面の上に出て、そこが金精峠。
写真の手前に向かうと金精山、奥が温泉ヶ岳、左斜めが菅沼へのルートだ。


左を見ると古びた社がある。金精神社だ。
扉は閉ざされていてさらに、扉にはまっている格子は内部から板が打ちつけられているのでのぞき見ることができないが、中には「金精神」が祀ってあるそうだ。
子宝、安産、子孫繁栄に霊験があるとされるが管理人、これ以上のことを書くと赤面してしまうので、興味がある方はウィキペディアの説明を読んでほしい。


登山口から金精峠、金精峠から縦走路にかけて、植物が多い。
これはヤマハハコ。中央の黄色の部分が花で、白いのは花を包む萼片。


これから向かう先は金精山。
なかなか歩き易い道のような、、、


真っ赤な実をつけたオオカメノキ


ホタルブクロ


ウスユキソウ。
花はとっくに終わっているがあたかも白っぽい花のように見えるのは葉。きっと虫集めの用をなすのでしょう。


カニコウモリ


シラネニンジン


歩き易くはなかった。
峠から金精山に至る道もトンネルからの急登と同じような厳しさだ。
アルミ製の梯子を登るHさん。


いやぁ、なかなか楽しめるルートですな(^^)


9:18
第1座目の金精山に到着。
地図で見るとわかるがこの山は山頂にナイフを入れて真っ二つに切った形をしていて、湯元側から仰ぎ見る金精山は切った断面だ。
そして山頂からは遮るものなく湯元温泉と湯ノ湖、男体山が一望できる絶好のロケーションなのだ。


山頂から湯元を見下ろすとほら、ご覧の通り。
まっ、こんな日もあるわなw


山頂から下って国境平に至る道は踏跡がいくつかあってわかりづらいが、どれもどこかで交わるからあまり気にすることもない。


9:54
国境平
今日、計画したルートは金精峠から五色山まで、群馬県との県境を歩く。
ここは湯元へ下る道との分岐点となっているため他の山名と同様、識別するためにその地に似合う名前が付けられたのだと思う。


ハンゴンソウが群落をつくっている。
天気が良ければ青空と黄色とのコントラストが見事だろうと思う。


笹とシャクナゲ、シャクナゲと笹の間を縫って歩く。


10:24
2座目の五色山に到着した。
ここで初めて白根山が見えるようになる。


おぉ、悪天候ながら白根山の全貌が見える。
眼下に五色沼もクッキリ見える。悪くない。


ハクサンフウロに、、、


ソバナ


五色山から前白根山に向かう700メートルの稜線は、適度なアップダウンと白根山や白錫尾根の眺めが楽しめる。Hさん、大いに感動してくれる。


岩陰に咲くヒメシャジン


実をつけたコケモモ


11:14
今日の3座目、前白根山に到着。


白根山転じて前白根山となったわけだが、Hさんには大いに喜んでもらえた。


前白根山からの眺め。
白根山は雲に隠れてしまったが五色沼でしっかり目に焼き付けているので雲の中の形はイメージできる。


今日のルートは前白根山で折り返して同じ道を戻るいわゆる、ピストンだが、稜線歩きは景色の変化が楽しめるので飽きることはないはずだ。Hさん、疲れている様子もない。

この時点でHさんの手からストックが消えているのが写真からわかると思う。
ストックは身体のバランスが崩れたときに立て直したり、急傾斜での足への負担を軽減するのに大いに役立つが、頼りすぎると平衡感覚を磨く妨げになる。
これまでHさんを見ていて、ストックに意識が向くあまり、手と足の動きがぎこちないことに気がついたので、帰りは使わずに歩いてみることを提案した。山歩きのキャリアが豊富とはいえないHさんには、足に神経を集中して歩く感覚を身につけてほしいと思った。

そうすることで平衡感覚が磨け、浮き石に乗ってバランスを崩した場合なども自力で体勢を立て直すことができるようになる。大きな段差を安定した姿勢でクリアしたり、ぬかるんだ道を滑ることなく歩けるようになる。平衡感覚を養うことは大切だ。難易度の高い山ほど重要になってくる。
趣味でヒップホップの教室に通っているHさんは身体のバランスがよくそして、脚力があるのでストックを使うのはそれらスキルアップが図れてからでも遅くない。
写真は全体のほんの一瞬を切り取ったものに過ぎないが、ストックから開放されたHさんの歩きはまるで別人のように滑らかにそして、速くなったように管理人には思える。


ハクサンフウロ
花の下に見えるモミジ状の葉は紅葉し、きれいな草紅葉(くさもみじ)となる。


ハンゴンソウの群落の間を国境平へと向かう。


金精山も無事に通過し、トンネルへの悪路を進む。
ストックを手に持つ必要がなくなったので梯子を下りるのも楽になったはずだ。
ザックにカバーがかかっているがこれは金精山に着いた頃、今にも雨が降りそうな気配に備えたもの。幸い最後まで降られることはなかったが。


往きも通った崩落地を慎重に通り抜けるHさん。
だが、ここはさすがに怖かったらしい。


14:44
駐車場を見下ろす場所まで戻った。


駐車場への到着は計画よりも15分遅れた。スタート時間が10分早かったので全体で25分のオーバーとなった。
この理由として、次のことが考えられる。というか間違いない。
(1)15分を超える休憩が都合、3回あったこと。
(2)帰路、五色山から国境平へ向かうところをあろうことか弥陀ヶ池への道を辿ってしまうという凡ミスをやってしまい、17分のロスが発生したこと。
(3)金精峠~金精山は往きは計画55分にたいして実績は49分だったが、帰りは計画30分に対して45分と、計画よりも15分も余計にかかったこと。

休憩時間を長く取ったのはよかったとしても、道間違いはいただけない。なんの疑いももたずに90度も方角が違う道を歩いたのだから我ながら開いた口がふさがらない。花の説明やらなんやらに夢中になっていたのかも?
金精峠~金精山の計画VS実績の大きな差異は理由がわからない。それも気持ちの悪いものなので計画VS実績、往路VS復路の実績という二面でとらえてみた。

      計画    実績
往路    0:55   0:49
復路    0:30   0:45

計画時間は地図上の傾斜と距離から推定したもので、かなりゆとりを持たせてある。復路は下りなので計算上は当然ながら往路よりも時間が短い。
往路での実績は計画よりも6分少なく、これはほぼ計画通りと言っていい。問題は復路の実績だ。往路はほぼ計画通りだったのに復路は15分もオーバーした。
歩いているときの記憶など実に曖昧なもので、帰宅すればすぐに忘れてしまう。そこで撮り溜めた写真を見ながらそして、地図を見ながら記憶を呼び起こすと、金精峠~金精山はたしか梯子やロープが数カ所あったことに思い当たった。そうか、それに間違いない。
地図という平面ではとらえられない障害物が現場にあると上り下りとも思いの外、時間がかかる。まさにそれが原因であろうと思う。次回の計画策定では考慮しよう。
よっし、これで今夜はいや、今夜も気持ちよく飲めそうだ(^^)