いつもの60代コンビ、コウシンソウを愛でに雨の中を足尾の庚申山へ。

2016年6月15日(水) 曇り→雨→濃霧

銀山平(7:12)~一の鳥居(8:03)~お山巡りコースへの分岐(9:18)~お山巡りコース~庚申山荘コースとの合流点(11:37)~庚申山(12:36→見晴台→13:10)~合流点(13:45)~庚申山荘(14:28)~分岐(14:36)~一の鳥居(15:28)~銀山平(16:23)
各ポイントで10分ほど休憩。写真撮影で立ち止まること多数。

梅雨とはいえ2日前の13日の予報だと晴れのち曇り、少なくとも雨にはならないはずであった。ただし、天気は下り坂であることは間違いなかった。

常連客のWさんは年に4・5回、管理人が経営するペンションを訪れては管理人と山行を共にすることが習わしとなっていて、すでに10年になる。
雨の日の山歩きは独特の風情があって管理人、嫌いではないが、雨具を着ていることによる汗で衣類が濡れる、あの感じがどうもよろしくない。
汗が逃げないから濡れるのかそれとも、雨具のすき間から雨が浸入して濡れるのかがわからないあの感じ、どちらにしても雨具の襟元部分から立ち上ってくるあのムワッとする汗の臭い、これが我が身の臭いなのだと思うとなんだか悲しくもあり、情けなくなる。
どうせ濡れるんだからいっそのこと雨具を脱いでしまおうかと思うこともあるが、そうすると体温が下がって身の危険が増す。やはり、我慢するしかない。

前夜、すなわち14日の夜はこれも習わしになっている作戦会議をおこなった。
雨あしが強いことが安普請の建物の中にいてわかる。
Wさんは大学講師としてフランス文学に精通していてワインにも詳しい。この日もビールのあと、赤ワインを飲みながら明日のコースを検討した。
いや、検討したというのは正しくなくて、予定していたコースの見直しだ。

コースは当初、中禅寺湖から社山に登って黒檜岳を縦走し、車を置いた歌ヶ浜に戻る20キロから25キロの行程を予定していた。25キロというのは登山ルートとしては長いのだが、Wさんも管理人も登山中の事故の半数を占める中高年者ではあるもののそれくらいの距離なら問題ない。
このコースは一度、稜線に乗ってしまえば足下に中禅寺湖、前方になだらかな稜線を眺めながら歩くことができる、とても快適なコースだ。ただし、晴れていればの話。
難点は地図(※)に社山から先、ルートが描かれていないため歩く人が少なくしたがって、笹藪化していることだ。笹はくるぶし程度のところもあれば膝下、腰、背丈といったところもあって歩くのにじゃまになる。そして、笹が覆い被さって踏跡が見えない。ただし、道迷いを心配するほどではない(管理人の経験では)。


ここでいう地図は地理院の地形図を指している。昭文社「山と高原地図」だとルートは描かれているが破線(難路)となっている。

さて、問題はだ、、、
この雨で笹藪は当然ながら濡れている。仮に雨が止んだとしても笹の水滴はそう簡単に乾いてくれない。つまり、雨上がりで高湿度の中、雨具を着たまま歩かなくては全身、ぐしょ濡れになり、これはとても苦痛だ。繰り返すけれどムワッとくる。天気が回復して日差しが出ても笹が濡れていれば同じだ。その場合は蒸し鶏状態になってしまう。
それともうひとつ、問題が。
このコースの魅力はなんといってもその雄大な景色にある。先ほども書いたように足下に中禅寺湖、前方になだらかな稜線を見ながら歩けるのが最大の魅力なのに、雨でガスってしまったら台無しになってしまう。
昨年10月に歩いた様子

次候補としては足尾の庚申山だった。コウシンソウが咲く山として名高い。また、百名山の皇海山に登る経由地でもある。
下野新聞の9日付けの記事にコウシンソウ見頃とあったのを管理人、見逃さなかった。
足尾の山はこれまで縁遠く昨年、皇海山の下見で庚申山に登ったのがお初である。事前の調べでは山域全体が岩で構成されているため起伏が激しく、厳しい岩場には梯子がかかっていてそれらの岩陰にへばりつくようにしてコウシンソウが咲くのだという。ちなみにコウシンソウは国の天然記念物でなおかつ、絶滅危惧Ⅱ類に指定されている貴重種。
下見で行ったのは7月だったのでコウシンソウはすでに咲き終えていた。だから機会を改めてぜひ見たいとは思っていた。
昨年7月に歩いた様子

作戦会議では結論は出なかった。とりあえず朝食の時間と出発の時間だけを決めておき、コースは朝の雨の具合で決めようということになった。

4時半に起床して、股関節と膝の屈伸をして両脚の腸脛靭帯部分にテーピングをした。さらに、膝サポーターとかかとサポーターを着ける、とこれは10日に女峰山に行ったときと同じ。この作業はどうやら長距離を歩くときの定番になりそう。

雨は止んでいたが外は濃い霧が立ちこめ空気は灰色をしている。天気の回復の兆しはない。
雑炊と焼き魚を黙々と食べるWさんと管理人。やがてWさんの口から、庚申山にしましょうとぽつり。やはり、Wさんも濡れた笹藪と濃い霧を想像したらしい。
雨でも霧でも庚申山ならばコウシンソウが見られるという楽しみがある。そそくさと支度をすませて出発することにした。

管理人もWさんも花を見つけたら気に入った写真が撮れるまでその場を動かないという、あまり効率的でない山歩きをする質なので、普通の人の3割増しの時間を要する。
今日は行程も長いので花を撮る時間を考慮して少なく見積もって8時間を考えているから、出発は早いほうがいい。
それでは行ってきます。


7:12
日光市営の国民宿舎「かじか荘」がある銀山平が庚申山の登山口となる。
林道はまだ続いているが関係者以外、通行できないので登山者はここまでで、実質的な登山口となる一の鳥居まで、この林道を4キロ、てくてくと歩かなくてはならない。
標高にして200メートル、進行左に深い谷、右に急峻な斜面に挟まれた林道上は斜面から落ちてきた大小の石がごろごろ、ころがっている。新旧はわからないがこんな石の直撃にあったらひとたまりもない。
先を行くのはWさん。
いつもこんな調子でWさんの後ろに管理人が従うようにして歩いている。


林道は途中から砂利道に変わり、歩きづらくなる。地図の標高点902がアスファルト道と砂利道の分岐点らしい。
ガードレールは落石にあったとみられる痕跡があちこちにある。斜面からの倒木が道に横たわり跨がなくてはならなかった。
と、こと林道に関しては管理人、よく言ったためしがない。どういうわけか林道歩きを苦手としていてどこへいっても悪印象をもって帰ってくるほど、なんらかの恨みがあるようだ。いつかその原因を突きとめたいと思っている。


7:51
一の鳥居700メートル手前に奇妙な光景が見られる。
斜面の幅100メートルくらいにわたって大きな石が堆積している場所がある。斜面の上から下に向かって天狗が石を下げ落とした跡、という設定らしい。俗世界に対する天狗の怒りの跡、そのように見ることもできる。


8:03
着いた~、一の鳥居だ。
これで林道歩きという管理人苦手の林道歩きから解放される(^^)
あたりは昨夜からの雨と濃くなった緑で鬱蒼としている。これからいよいよ山へ入るのだという実感がわく。
だけどこの鳥居の色、蛍光色に見える。昨年はもっとくすんで見えたけど、天候のせいか?


これからしばらく間はこのような流れに沿って歩く。
地図だと登山道は沢筋に沿って登っていくが地図に流れは描かれていない。
実はこの日、霧が立ちこめて薄暗くシャッターを切るごとにフラッシュが光って画像が暗くなるため、発光を停止していた。その御陰で水の流れがこのようにきれいに撮れた。ただし、他はピンぼけが多い。


8:38
ボルダリングでもできそうな巨大な岩、鏡岩。
説明板によると「孝子別れの処」という、なにやら悲しい伝説があるらしい。


庚申山までの行程には奇岩が多い。そしてそれぞれに名前が付けられている。
これは「夫婦蛙岩(めおとかえるいわ)」。ついニヤリとしてしまう形の岩だ。


8:59
お次はこれ。
前方のふたつの岩を庚申山を守る仁王象に見立てたものであろう。


9:18
庚申山荘へ行く道とお山巡りをしながら庚申山へ行く道との分岐。ところが、庚申山へは庚申山荘を経由しても行けるしその方が近くて早い。
でもこの道標だと庚申山へ行くには「お山巡り」へと導いている。


道標にしたがって右へ進むとこんな案内板が、、、
だったらわざわざこちらへ導くなっていうのに(^^)
明らかに設置場所のミスである。上の道標と同じ場所にすべきだ。
まぁ、でもご安心のほど。急斜面に梯子がかかっているようなところもあるが注意して歩けば問題はない。


この斜面は結構な傾斜でした。


傾斜がさらに急だったりガレ場にはこのような階段、というか梯子が設置されている。この場所は3連になっている。
クイズ。さて、この梯子はどのように昇ればいいのでしょうか?
1.両手両脚を使って昇っていく。
2.手を使わず足だけで昇っていく。
「1」だと地面の上を四つ足で歩く感じでぎこちない、といって「2」は靴が滑りそうで怖い。
まっ、どちらか安全な方法で、と答えるしかないほど中途半端な傾斜にかかる梯子でした。


おっ、コウシンソウ?
いや、色も大きさも違う。
近づいてみるとユキワリソウであった。ここではコウシンザクラともいうそうだ。サクラとはサクラソウからとったのであろう。ユキワリソウはサクラソウの仲間だからだ。
今が盛りらしく、ほとんどの岩で見られた。
昨年はちょうどひと月違いの7月14日に来ていて、ユキワリソウも見たがこれほど密生はしていなかった。今日でよかったぁ。


深い谷に吊り橋がかかっている。
去年通ったときは落石にやられたらしくワイヤーが支柱もろともひしゃげていたが、補修されたらしい。


オノエランに間違いないと思う。
これも絶滅危惧種Ⅱ類にリストされている。


ヤマオダマキ。
これは小田代ケ原や戦場ヶ原でよく見る。とにかく庚申山は植物の宝庫。


さっきと同じような梯子を今度は下る。
かなり急。垂直に近い。


真ん中の柱が太いのでがに股で下りていく。
雨と霧でスパッツがぐしょ濡れになっているのがおわかりだろうか。少しでも油断すると靴が滑ってバランスを崩す結果に。


別の場所の梯子でこんな下り方もしてみた。
地面が見えるので管理人にはこの方が安心して下れたが、真似はしない方がいいかもです(^^)


お次はぐらぐらする鉄梯子を下って滑り止めのついた木道を上る。
うん、いろいろと楽しませてくれるではないか。


10:53
眼鏡岩と呼ばれる浸食された岩。
元は板状の岩。昔はここを絶えず水が流れていてそれで浸食されたのではないかと想像する。


ウスユキソウ


この花は正体不明。
草のようにも見えるが周りを見ると高さ1メートルほどの木がたくさんある。
名前の特定は課題としておくことに。


危険な箇所にはちゃんと鎖が設置してあって安全に歩ける。
入口のあの注意書きは必要ないような。


とうとう見つけた!
ルートから少し外れた場所でコウシンソウを発見。
そうか、これがあれかぁ、などと喜びのあまり訳のわからないことを口走る管理人である。
たしかに相手は岩だ。岩のわずかな隙間に根を生やして生育しているらしい。ただし、この岩では1株のみで他はすでに咲き終わっていた。


これが胎内くぐりというやつですな。
産道から這い出てくるWさん(^^)
これも水の流れによって浸食されたものでしょう。


11:37
ここで「お山巡り」は終わりとなり、庚申山荘から来た道と合流する。
目指す庚申山はこの太い木の向こうへと進む。


お目当てのコウシンソウが目につくようになってきた。
ただし、ルート上ではなく枝分かれした道の岩壁。
コウシンソウは岩壁のほんのわずかな凹みに根を生やて生育するようだ。それは自衛手段のようにも思える。つまり、地面に生えている植物と異なり人が盗掘しようとしても根は硬い岩に埋まっているから引き抜くことができず、ちぎれてしまうと想像できる。盗掘するのは無意味だよ、そんな声をコウシンソウは発しているようだ。


よく見ると1株から5~10センチほどの2本の花茎が延び、その先にうす紫色の花をつけている。
事前に調べたところ、コウシンソウはタヌキモ科ムシトリスミレ属という聞き慣れない分類で食虫植物だそうだ。この小さな可憐な花が虫を捕らえて喰ってしまうのかと思ったら、花茎や葉っぱが分泌する粘液で虫を捕らえるそうだ。安心したw


12:36
コウシンソウを探しながら歩いたためずいぶん時間をとられてしまったが無事に庚申山に到着。
山頂は木々に囲まれて眺めはない。


山頂から西、皇海山方向に5分ほど歩くと切れ落ちたガレ場で行き止まる。
晴れていれば指さす方向に皇海山と鋸山が望める好展望の場所である。
今日はあいにく雲に遮られてどちらも全貌を見ることができなかったが、昨年はじつに見事な展望に感動したものだ→こちら
ちなみに皇海山へは管理人がいる場所の左側についている道を下っていく。


ガレ場のすぐ下にアズマシャクナゲが見られた。


アズマシャクナゲはこのような蕾もあれば咲き終わったのもあって見ごろがいつなのか判然としない。


見晴台で少しノンビリし、13時10分に下山にかかるがコウシンソウ探しは続いた。
この岩壁ではユキワリソウに混じってかなりの数が見られた。
なるほど、なんとなくコウシンソウの生育環境がわかってきた。
急峻な岩壁であること、直射が当たらないこと、冷温で多湿であること、空気の流れがある環境を好むらしい。とすればやはり庚申山は最適地といえる。そして、おおよそユキワリソウが咲いている場所、と見当をつければいいようだ。


13:45
お山巡りから来る道と庚申山荘から来る道が合流する地点まで戻り、今度は庚申山荘への道を辿ることにした。まずはこんな奇岩と出合う。


急な鉄梯子は相変わらず続く。


14:21
クリンソウの小群落と出合う。間もなく庚申山荘だ。
ここのクリンソウは千手ヶ浜と違って紫に近い赤、一色だ。白やピンクは一輪もないことから自然種であると想像する。


14:28
無人の山小屋、庚申山荘。管理は銀山平のかじか荘がおこなっている。
右手前に見える小屋はバイオ式トイレ。
管理人、どうしても日帰りで皇海山を往復してみたいのだが、今のところその手立ては見つかっていない。だから初回はこの山小屋に泊まり翌日、皇海山に達し、そのまま銀山平まで戻ってみようと思っている。その次に狙うのが完全な日帰りである。


14:36
往きに通過した分岐点。
朝はこの案内板を向こうへ進んでいった。
ここで宇都宮から来たという男女5人組と出会ったのでコウシンソウの情報交換。


15:28
深い霧の中、一の鳥居まできた。
しかし、まだ終わりではない。これから林道を4キロ歩いて銀山平に戻らなくてはならない。あぁ、林道歩きの苦手意識を克服しなくては、、、、


今日、歩いたルートをGPSで記録して、フリーソフト「カシミール3D」を使って地理院地図の上に重ねてみた。
往復でルートが異なるのは庚申山の手前、お山巡りの部分のみで他は同じルートを辿る。お山巡りコースは面白いので時間が許せば往復、異なるルートをお勧めします。
また、地理院地図の登山コースと実際とが微妙にずれているがこれはおそらく地理院地図のコースの方が古く、実態に合っていないのではないかと思う。