花の見頃を迎えた田代山湿原と帝釈山のオサバグサ

2019年6月13日(木) 快晴

週間予報の精度が格段に向上し、3日前になれば山行を予定している日の天候はほぼ間違いなくわかる。
日本気象株式会社の「てんきとくらす」というサイトでは各地の山の天気予報を公開しているし、有料会員になるとさらに詳しくわかる。
株式会社ヤマテンの「山の天気予報」有料会員になると主要な山の天気概況や高層天気図(使い方がイマイチよくわからない)を見ることができるし、メールでより詳しい予報が送られてくるので山行の日程を検討するには手放せない。

その両者とも13日はほぼ間違いなく晴れて絶好の登山日和と出た。

こんな日を有効に利用しなければ罰が当たるというもんだ。
などと書くと仕事の都合で休みが決まっている読者には申し訳ないとは思いながらも、管理人の唯一の趣味である山歩きを、読者の働いている日に思う存分、楽しんでいることをご容赦願いたい。

さて、行きたい山がたくさんあるものの前の晩まで行き先が決められないまま酔って寝てしまい、いつもなら前の日に用意しておくべき登山計画書も地図も朝になって印刷するというだらしのなさであった。

4時に目覚め、昨夜のうちにしておくべき、今日歩く山の選定を行った。
肝心の行き先だが今年は残雪の山はたっぷり歩いたので思い残すことはない。となればやはり花が咲いている山ということになるだろう。
会津駒ヶ岳はまだ雪がたっぷりあることだから花にはまだ早い(花の季節)。尾瀬は2週間前に行ったことだし、次の目玉となるニッコウキスゲ(地元の霧降高原で見られるが大江湿原のキスゲをぜひ見たい)には少し間がある。
と、候補(わずか3つだが)の中から消去していき、残ったのが田代山湿原とその隣の帝釈山ということになった。
田代山湿原は昨年、ちょうどワタスゲの盛リに訪れた際に湿原一面、真っ白に埋め尽くされていたのに感動したものだった。→こちら
昨年は6月22日だったが今年はどうなんだろう?
まっ、ワタスゲがだめでも他の花は観られるだろう。

帝釈山にはオサバグサという珍妙な花が咲き、そろそろ見頃になるという。
オサバグサ祭り(8日から23日まで、檜枝岐の馬坂峠登山口で開催中)というのがあるくらい、地元ではこの花目当てに訪れる人を歓迎するイベントが開催される。

管理人、専門知識はゼロだが山に咲く花をとても愛おしいと思っていて、日光では見ることのできない花を探し求めて福島県の山に登るようになったという経緯がある。
これまでイワウチワやハクサンコザクラ、シラネアオイ、チングルマ、ショウジョウバカマ、ツバメオモトなど、日光には生育していないあるいは貴重種といった花をこの目で見て、管理人の頭の中にある引き出しにこれらの花の知識を詰め込んでいく作業を10数年前からおこなっている。
そして今度はオサバグサである。

花はとても地味らしい。
珍妙なのは葉っぱがシダとうりふたつで、花が枯れたら見分けがつかないという。
植物図鑑でその姿を見たが薄暗い林内で独りひっそり咲いているように見えて、それが管理人の人生に被ってくる。
同じ山域なのに生育するエリアとそうでないエリアが線を引いたように分かれるとも言われている。地味ながらも性格はキッパリしているようだがそれは反面、意固地を意味する感じがする。
そうなのか、植物の世界にもおいらと同じ境遇がいるんだな、そういう仲間こそ愛でなくてはいけない気がしてならない。

そんなわけで今日は田代山湿原に咲く花の探訪と帝釈山のオサバグサとの初めての対面が目的なのである。

花の写真がこれでもかというくらい出てきますので、興味のない読者においてはどんどん先へ進んでください。
ちなみに写真を400枚撮りながらも6時間強で戻れるほど、この山は手軽。それが人気のひとつの理由になっています。

行程表
猿倉峠(10:10)~田代山(14:41)~弘法大師堂(11:56)~帝釈山(13:08/13:55)~弘法大師堂(15:05)~猿倉峠(16:35)
メモ
・歩行距離:11.7キロ(GPSログをカシミール3Dで処理した値)
・所要時間:6時間25分(写真撮影と休憩を含む)
・累積標高:1035メートル(アップダウンのうち、上昇分の累積)

田代山と帝釈山の東の登山口、猿倉峠田代山の猿倉登山口。
ここへ至るには大変なのである。
日光からだと国道121号線通称「会津西街道」を北上して「道の駅たじま」を過ぎ、野岩鉄道の高架をくぐったところの信号を檜枝岐方面に左折して国道352号線を西進。次に舘岩郵便局の前を左折して今度は県道350号線「栃木県道・福島県道350号栗山舘岩線」を南下すること30分、舗装路と未舗装路が入り混じった道をひた走った行き止まりがこの場所である。日光からだとホチキス針のようなルートを走ることになる。
今朝は7時10分に自宅を出発しコンビニに寄って食料を調達したり道の駅のトイレに寄ったりしながら3時間を要した(実質、2時間半)が、実は画像に映る車の後方にも道が続いていて、日光市土呂部と直結している。時間は半分で済む。
ただし、そこには開かずのゲートがあって通常は入ることができない。
ときたまゲートが開くことがあってもその期日は定まっているわけではなく、事前に調べていかないとゲートの手前で引き返さなければならず、大きく迂回するハメになる。
そんな賭けをするよりは上に書いた確実な方法で来たほうが無駄な時間を発生させないためにもいい。たとえ倍の時間がかかっても。
さてと、10時過ぎというのは登山開始には遅いが今日は6~7時間の山行なので日没にはならない。
沢を渡って画像正面の林間に入っていく。


まず始めに目に入ったのはズダヤクシュ。
花は米粒ほどの大きさでこれでも咲いている状態。
ズダとはずんだ餅のことではなく、喘息のことを指す長野県の方言で、ヤクシュとは薬のこと。
昔は薬草として使われていたらしい。


1本の茎にたくさんの花をつけるのはシソ科の特徴なので「シソ科」で調べてみると、シソバタツナミに行き着いた。


ニリンソウの片割れ。
一輪目は終わり二輪目が残っているように見える。


マイヅルソウの咲き始め。


明るいシラビソの林間を上って行くが、この前に急登があったためすでに汗だく。


ミツバオウレン


田代山は山頂が平坦で、広大な湿原をもち、湿原特有の植物が生育することから人気のある山だが、人気の秘密はそれだけではなく、道がとにかくよく整備されていて歩きやすいことも理由として言える。でも傾斜は厳しいですよ。


左に我が日光連山が見える。
あれは女峰山ですね。


道が平坦になって木道が現れると小田代(こたしろ)という湿原が目前。


ここが小田代。
田代とは湿原を意味するが、それが小さいという意味で小田代。
だが花はたくさんある。


タテヤマリンドウに、、


チングルマ


ワタスゲも(これは穂になる前の花の状態)。


ヒメシャクナゲがわんさか。
余談だが、今から10数年前、シカの食害で絶滅したと思われていたヒメシャクナゲが戦場ヶ原で見つかり、植物観察の仲間の間で話題になったことがあった。シカの防護柵の効果が現れてきたからだ。
ところがここはなんの防護もしていないのにヒメシャクナゲは群れをなしている。シカはいるのだろうが、自然的な頭数制限がされているのであろう。


イワカガミ


花には早いがコバイケソウ


小田代は5分も歩けば終わる。
次に田代山を目指す。
あの高みが田代山。


ムラサキヤシオ


ショウジョウバカマ


到着
田代山湿原はここから始まる。


さっそく湿原の花が始まった。
これはミツバオウレン。


木道はここから左回りの一方通行になる。


穂になったワタスゲ(手前)と花の状態のワタスゲ(その隣)。
あと1週間ほどですべてのワタスゲが穂になり、湿原一面を埋め尽くす。


うっとりするようないい眺め!!
正面に見える白い山並みは会津駒ヶ岳を真ん中に、左右はその稜線。
会津駒ヶ岳には先月12日に登っている→こちら
なお、湿原には池塘がつきものだが、これは弘法沼。


ほぼ平坦な湿原だが一応、ここが山頂。
湿原には木道が敷かれ外周を一周できるようになっている。
花が観られるのは木道からだけということになるが、それだけでも十分に楽しめる。おそらく湿原中央部の花の分布も木道と同じであろう。
昨年7月、ツアーをおこなったあとのブログで湿原の鳥瞰図を載せておいた。全体が把握できると思うのでご覧ください→こちら


穂になったばかりのワタスゲが揃った。


ヒメシャクナゲ


チングルマ
実はこの花、枯れてもただでは枯れない性質があることで知られている。
驚くなよ~(笑)、こんな形に変身するだよ→こちら


穂になり始めたワタスゲ


ボサボサ頭だが間もなく丸く整うはず。


食虫植物のモウセンゴケ。
赤っぽく見えるのは葉っぱでここがネバネバしていて虫を捕らえる。


ワタスゲをローアングルで。


木道はここで分岐していて左へ行くとふりだしに戻る。
直進すると帝釈山へ行く。


木道を抜け出ると立派な建物が2棟。
ここから見えるのはチップ制のトイレで、その右の小さい建物は今は使っていない古いトイレ。


弘法大師堂と書かれた避難小屋。


中を覗くと弘法大師像が祀られ、お香がただよっていた。
ゴミひとつなく清潔そのもの。
ここなら泊まってみようという気になる。


トイレ全貌。
のちほど詳しくご紹介。
ベンチのあるコンクリート製の休憩スペースが隣接している。


花に見とれて時間ばかり食っている。
帝釈山まで1時間を見込んでいるが、こんな調子だとどうだか、、、


ここから帝釈山まで、日光市との境界線上を歩くことになる。


カニコウモリ
花はまだない。


シダの真ん中から茎が延び先端に白い花がついている。
もしやこれがオサバグサでは?


図鑑通りの花。
間違いない。これがオサバグサだ。
ずっと前から気になっていたが、ようやくお会いできた。
花はみな、うつむいて寂しげだが、そこにこの花の奥ゆかしさを感じる。


ちょっと失礼してどうなっているか、拝見させてもらった。
雄しべも雌しべもある。


帝釈山へ向かうコースに沿って群生していて見事。


シダに挟まれて生育しているオサバグサ。
これじゃぁ花が枯れたらシダだかオサバグサだかわからなくなる。


しつこくもう1枚。
ちなみに福島県の絶滅危惧Ⅱ類に指定されているそうだ。


これはなんだかよくわからない花。
苔の間から茎が延び、葉っぱは見当たらない。
調べる価値大。

☆☆
当ブログの読者「まる」さんから、セリバオウレンだと教えてくれた(掲示板を参照)。
ネットで調べるとなるほど花の特徴から紛れもなくセリバオウレンだ。
ネットの情報によると名前の通り、葉っぱがセリに似て切れ込みのある複葉だが、ここでは苔に埋もれて葉っぱが見つからず、帰宅してから調べようと思っているうちに時間が立ってしまった。
せっかく教えていただいたので忘れないようにしよう。
「まる」さん、ありがとうございます。


2千メートルに満たない稜線だがこの時期になってもまだ残雪。


この稜線(帝釈山脈)はきっと雪が多いのだろう、あちこち水たまりや泥濘がある。
だが靴が埋もれるほどではなく、ひどい場所には木道が敷かれていたり、丸太が埋め込まれている。


ミヤマシキミ


薄暗い林間にしか生育していないのかと思いきや、直射が当たる場所でもしっかり育つようだ。


よく見ると葉っぱはシダと同じ羽状複葉だが、しわしわが特徴のシダとは違ってオサバグサはスッキリしている。また、シダの葉っぱが30センチ前後あるのにたいしてオサバグサは10センチ前後と小さい。
この違いを覚えておけば花が枯れても見分けがつくだろう。

葉っぱの形や付き方は植物によってさまざまだが混乱するのは呼び方だ。
備忘録として書いておくと、オサバグサについては1本の軸の左右に小さな葉っぱが30枚以上、付いているが、これはもともと1枚の葉っぱだったのが進化の過程(※)で分裂したもので、個々の葉を小葉と呼ぶが1枚2枚と数えることはせず、全体で1枚(小葉が何枚でも)と数える。
この画像のオサバグサで言えば葉っぱは5枚と数える。
そして、小葉の並びが鳥の羽に似ていることから形を羽状。小葉が複数付いているので複葉。軸の先端に小葉が1枚付いているので小葉の枚数は奇数。
というわけでオサバグサは奇数羽状複葉の葉っぱが5枚(この画像では)ということになる。
というのが管理人がこれまで学んできた葉っぱ(単葉、複葉、奇数、偶数、羽状などなど葉っぱを言い表す言葉)の知識である。
複雑なので今でもよくわからないことが多く、この説明も正しいのかどうか自信がないのが正直なところ。

※進化の過程とは、光合成を効率よくするためにも葉っぱの面積は大きいほうがよく、複数ある葉脈を中心として、葉脈が主脈になるように分裂していったのではないか、管理人はそう考えている。
とはいえ、それは何万年、何十万年あるいはそれ以上の歳月(なんてものじゃなく)をかけておこなって来て今それで安定化している、植物の生活の知恵といえましょう。


タケシマラン


コミヤマカタバミ


ミツバオウレン


ルートは山頂に近くなると次第に岩が多くなってくる。


イワカガミ
山中や湿原でよく見かけるが、このように岩にへばりついて生育するのが名前の由来。
カガミは葉っぱに光沢があることからつけられた。


短足の管理人には厳しかった木の根の段差。


アズマシャクナゲ


ふたつ目の大岩。


イワナシ


いろいろと楽しませてくれるではないか(笑)


山頂直前
女峰山、帝釈山(日光の)、小真名子山、大真名子山、太郎山がくっきり。


白根山


山頂を捉えた。


山頂からの展望はほぼ360度、実に雄大な眺めが得られる。
前方は会津駒ヶ岳。


燧ヶ岳(右)と至仏山(中央)。


居合わせたハイカーとカメラを交換し、お互いに撮り合う。
山名が書かれた柱を堺にエリアは福島県南会津町と檜枝岐村そして、日光市に分かれる。
管理人が立っている場所が日光市。背中側は南会津町、右腕側が檜枝岐である。
帝釈山は南会津町、檜枝岐村そして、日光市にまたがる貴重な山なのである。

あっ、そうそう。
稜線上は帝釈山脈といって、ここが中央分水嶺であることにふれておきたい。
簡単にいうと、分水嶺とは、降った雨が太平洋に流れるかそれとも、日本海に流れるかを分ける境なのである。
もちろん、降った雨はそのまま海に流れ込むことはなく、地中に吸い込まれ、水脈にたどり着いて幾年かの時を経てようやく海に出られるわけだが、そこには1滴の雨の壮大なロマンがある。
そこんところをお客さんに話すと、とても興味を持って聞いてくれる人と、ふ~んの一言で終わってしまう人がいて、話の内容自体が分水嶺だ。

余談として、管理人の隣りにある木の柱。
2年半前に来たときはこの場所にはなかった。
管理人が立っている真後ろにコンクリート製の台座があってそこに備え付けられていたが根本が腐って倒壊したためここに移動して、三角点柱にもたれかかるように置かれている。→前のはこちら


1時間近くになる休憩の後、帝釈山の山頂をあとにした。


こんな平坦なルートだけではありませんが、整備されて歩きやすい。


ツボスミレ


オサバグサ


田代山湿原の入口に戻ってトイレを借用。
チップを入れて奥へ入る。
大も小も100円だがここはケチることなく100円を投入。


中がきれいなのはこんな工夫がされているから。
靴の汚れが床につかないように、ジャイアント馬場が履くような巨大なスリッパが用意されているのだ。
このトイレにしても避難小屋にしてもとても清潔に保たれている。
以前、トイレの清掃に来ていた人がいたので尋ねたところ、町(南会津町)の委託で週に4・5回、トイレと避難小屋の清掃に訪れるのだと言う。その労力たるや膨大であろう。
それを聞いて清潔である理由がわかったが、であればなおのこと、利用者自身がきれいに使わなくてはならないわけだが、実行されていることに利用者のマナーの良さが表れていて感心する。


田代山湿原に入り、帰りは右へ折れる。


チングルマ


ヒメシャクナゲ


下を向いているのでわからないが、ちゃんと咲いている。


ワタスゲ


チングルマとイワカガミ


湿原が終わると日光連山も見納め。
たっぷり眺めて林間へ入っていく。


ムラサキヤシオ


コヨウラクツツジ


ミツバオウレン


間もなく小田代


ここのワタスゲはまだ完全に花の状態。


タテヤマリンドウの横顔


アズマシャクナゲ


シラビソの林間を行く。
これから急な下りが待っている。


ゴゼンタチバナ


大きな萼片が落ちてなくなり、花だけになったオオカメノキ。
この花も間もなく終わり実になる。


登山口手前の水場。
車内で飲むために自宅を出発する前に入れてきたボトルの水を捨て、冷たい沢水と入れ替えた。


6時間半で下山。
満杯だった駐車場は3台になっていた。


日光市からもっとも近い福島県の山が田代山と帝釈山。
帝釈山の尾根の中心線から南は日光市に属している。
地図の上だと日光から2本の道路(「日光に至る」と表記)が走っていて、一方は馬坂峠に、もう一方は猿倉峠に直結している。
だが、ほとんどの場合、ゲートが閉まっていて通行できないためやむを得ず2枚目の画像の説明通り、南会津町まで行ってから峠に下ることになる。