この娘たちを古賀志山で自己防御のできる山ガールにしてあげたい。

2016年5月29日(日) 晴れ

一昨年の秋、自宅から奥日光へ行くのと変わらない距離に宇都宮市の里山、古賀志山があることを知った。
標高583メートルという低山である。登山口からの標高差にしてもわずか340メートルだからこれまで日光の2千メートルを超える山を登ってきた管理人には、未知の山といえる(^^)
なぜこんな低い山に目をつけたのか、動機は単純である。

秋の日光は首都圏各地から紅葉を見に来る車で大渋滞する。普段なら湯元まで1時間で行くことができるのに、3時間、渋滞のピークともなると5時間かかるのが普通だ。
紅葉目当てなら渋滞の車内から楽しむという方法がある(これは冗談ではなく本当のこと)が、山に登るのにこの渋滞は致命的だ。
紅葉で大渋滞する時期に日光の山に登ろうというのは大いなる時間の浪費なのだ。
そこで、渋滞する国道とは反対方面にある古賀志山に目をつけたという次第である。

標高は低いけれど、それでも山だ。
340メートルという標高差は物足りないが平地を歩くよりはマシ、そんなつもりで足を踏み入れた。それが古賀志山の虜となった初めの一歩だ。
たしかに、地図に描かれている道を歩く限り、山頂まで1時間もあれば達してしまう。
管理人は初めての山に登る際、地形を覚えるために地図とコンパスを手から離さない。ルートの変曲点に来ると地図とコンパスを見比べる。そのようにして歩いているから第1登は時間がかかる。この日は1時間半かかった。

その1時間半の間に見たものは管理人が想像もしなかった、枝道(バリエーションルート)の多さであった。
地理院地図には登山口から古賀志山山頂までハイキングコースは1本の点線で結ばれている。ところが、そこを歩いているうちに道がいくつもに分かれる。地図を見てもその場所に道は描かれていない。
どうしてもそれらの枝道が気にかかる。
その後、知ったのは枝道は100本以上存在し、中には急峻な岩場があって危険箇所がいくつもあるらしい。岩場にはロープや鎖がかけられているものあれば両手両足でよじ登らなければ越えられないものがあるという。

第1登目だから地図にしたがって歩いて古賀志山の山頂に立ったとき、低山ながら見晴らしの良さに驚いた。古賀志山は低山ながら独立峰なのだ。さらには、ガイドブックにある見晴台に行くとそこは古賀志山山頂よりも視界がさらに広がりを見せ、宇都宮市街の奥に筑波山が、北面には鶏頂山や釈迦ヶ岳が、北西には日光連山が見える。
その見晴台の下は岩場になっていて鎖を利用して下っていくらしい。興味本意で見にいった。
見晴台から急斜面を降りその岩場に達するとなるほど、鎖がある。上から覗いても鎖の末端すなわち地面が見えない。足が震えた。もちろん、この日は下見で来たので降りることはしなかった。

そんな山なので事故は日常的に起こっているらしい。
岩から転落したり足を滑らせて尾根から滑落したり石につまずいて転倒したり、地図にない道に入り込み進退窮まってレスキューを呼んだりと地元紙の事故ネタに困らないほどの頻度のようだ。

その古賀志山に魅了された。
100本もあるといわれる地図にない道をすべて歩き尽くしてみたい、事故がよく起こるといわれている岩場によじ登ってみたい。いずれも日光の山にはない魅力、というよりも魔力が潜んでいるような気がして、心が惹かれる。

一昨年10月の下見の後、2回目は翌年の3月末だった。その間、管理人はスノーシューツアーで忙しくシーズンが終了するのを待って、第2登に取りかかったのだ。
それから今日に至るまで、期待が裏切られることはない。
岩を上り下りするのはロープや鎖があっても怖かった。けれど、岩の凹凸が見極められるようになると垂直に近い岩もそれほど危険ではないとことがわかってきた。さらには、気持ちに余裕があるときはロープや鎖に頼らないで上り下りするほうが安全であることもわかってきた(画像はこれまで管理人が歩いた枝道)。

日光の山のように道が一本しかないのと違い、どこへ行ってしまうともわからない枝道を進むのは大いに不安だった。ただ、長い間、GPSを使ってきたのでいざというときは頼ることができる。
それよりも日光の山ではあまり使う必要のない地図とコンパスが、古賀志山では必須の道具となった。枝道がさらに枝道へと別れると、もうなにがなんだかわからない。それを地図から推測するのは骨の折れる作業になるが読図の勉強に大いに役立つ。
枝道に出合ったらそれが東西南北のどちらへ向かっているのか、それは尾根筋なのか沢筋なのかを見て地図と照合する。根気と時間を要する作業になるが、枝道が分岐するごとにその作業を繰り返していくと頭の中に地図が出来上がる。

今年になっても古賀志山への探求は続いていて、もうすぐ50回を数える。
そのすべてが古賀志山に登頂するというわけではなく、ルートの選び方によって古賀志山をかすりもしない場合がある。したがって、広い意味で古賀志山山域を50回、というのが正しい。
古賀志山は標高が低いだけに、登頂の喜びは日光の2千メートル峰に比べると少ない。古賀志山の良さはそのプロセスにあると断言できる。
プロセス上でさまざまな体験ができるという観点で、日光の山を上回る大きな魅力をもつのが古賀志山だ。

話はころっと変わるが、上に書いたように管理人は冬、スノーシューツアーのガイドをしていてこの冬で18年を迎えた。日光は交通の便の良さから、県内(ちなみに日光は栃木県です)から日帰りで参加する人も多い。
この記事で紹介するKAさん、KJさんのおふたりも県内在住だ。昨年のスノーシューツアーに参加している。じつは今年も申し込みをもらったのだが今年はスノーシューツアー始まって以来の小雪で、せっかく楽しみに待っていてくれたのに開催日を待たずに雪がなくなり、開催が困難になってしまった。
では日程を変更してフィールドでチーズフォンデュでも楽しもうと計画したものの、それは管理人の都合で中止という不運がつきまとったおふたりである。

管理人、客商売をしていながら心はウエットだ。ときに損得勘定抜きでお客さんと付き合うことがあるからそれが元で家庭内紛争へと発展することがある。
まっ、でも、そういった身勝手な振る舞いができるのが自営業、いやもはや山歩きが仕事のようなものだから自由業といった方がいいかも、、、のいいところだし性に合っている。

二度の計画とも流れてしまったKAさんとKJさんには来年のスノーシューツアーを待たずにどこかを案内してあげたいというのが管理人の嘘偽りのない気持ちであった。それにもっともふさわしいのがプロセスを楽しむことができる古賀志山だ。

往きに3つ続く東陵の岩を登って見晴台からの展望を楽しみ、次は主稜線を古賀志山、御嶽山と歩いてその後、大きな岩をふたつ上り下りして赤岩山まで行き、さらに足を延ばして猿岩で昼食。帰りは大日窟へ下りて荒澤滝を見せてあげ、そのまま岩下道を東へ歩いて最後にモアイ像とヒカリゴケを見て駐車場へ戻る、そんな見どころ盛りだくさんのルートを考えてみた。
そう、いろんな要素を併せ持つ古賀志山で経験を積むことは、他の山へ登るときの安全性が高まるのだ。これを機におふたりには山で起こる様々な出来事に対応する術を、管理人のこれまでの経験から教えてあげよう。
でもちょっと多いか(^^)

この欲張った計画が後にKAさんとKJさんから気力を奪い去り、さらには管理人が見どころを見落として通り過ぎてしまうという結果になろうとは、、、、過ぎたるは及ばざるがごとし、を地でいく管理人であった(トホホ)。


宇都宮市森林公園に車を置き、地図にある北コース入口に行くとそこにすでに枝道が待ち構えている。
地元の人の間で東陵コースと呼ばれている、岩場が連続する道だ。
急斜面を20分ほど登っていくとまず初めに、5メートルほどの大きな岩が出迎えてくれる。鎖がある。


まず、KJさんが取り付いた。
こうやって離れて眺めると、岩には大小の凹凸があることがわかる。だが、取り付いている本人の目には全体が見えない。落ち着いて行動するに限る。


ついに鎖の支点に達することができた。
ここで鎖から手を離すことになるが事故は意外とそんなときに起こるから、鎖を離した手で木の枝や岩をつかんで身体を確保することが大切だ。


続いてKAさんが取り付く。
見た感じ、まったく問題ない。


ふたつ目の岩は構造がやや複雑で、右左へとジグザグに登っていく。


先に登ったKJさんは岩のトップで待っている。あとへ続く人は気持ちが焦りがちとなるものだがKAさんはまったく問題ないようだ。落ち着いてゆっくり登っていく。


東陵コースを無事に歩き抜けて御嶽山に着いた。
続いて御嶽山から赤岩山へ続く主稜線の岩に取り付くことになる。
同じ規模の岩がふたつあり、登って下る。


御嶽山から赤岩山へ向かって歩くと間もなく、カミソリ岩と呼ばれる複雑な形状をした岩と出合うので乗り越える。


先頭が入れ替わってKAさんが取り付いた。


少し大股になってしまったけれど十分、安定している。鎖を離した左手はしっかりと岩をつかんでいる。


今度はKJさん。
この人は慎重派だ。といって怖がっているのとは違う。
もしかすると岩場をいくつか経験しているのかもしれない。


古賀志山の岩場にはコメツツジが多い。
つぼみがたくさんついているから咲き始めかな。


今度は7メートルほどの岩を下る。
ロープは太くコブが作ってあるから握りやすい。ロープを握っている限り落ちる心配は皆無だ。


苦行は岩だけではなかった。
木の根が露出した急斜面を木の根をロープの代わりにしてよじ登っていく。このような斜面も古賀志山でよく出合う。
上にいるのがKAさん。下にいるKJさんとの高度差がわかるだろうか。


着いた。
今日の折り返し点となる猿岩である。猿にしか登れない岩あるいは、猿でも落ちる岩にたとえてつけられた名称であろう、急峻である。
この岩の上に乗って昼食としよう。


猿岩からの眺めは抜群だ。
鹿沼から日光、塩原方面まで見渡せる。
赤岩山の山頂付近を離陸場とするパラグライダー基地があり、いい気流の日には多くの愛好家で賑わう。


昼食が終わってその離陸場に来てみた。
ちょうどこれから飛び立とうとする絶妙のタイミングであった。


離陸場を下方に向かって走ったと思うと、あっという間に足が離れ上昇気流に乗って舞い上がっていった。
ちなみにこのパラグライダースクールは当ペンションと提携していて、宿泊者は体験フライトが割り引きになる。どうか鳥になった気分を味わってみてください。


主稜線から岩下道へ降りる。起伏に富んだ古賀志山山域はいくつかの滝がある。
これは荒澤滝。水量が少ないため乾燥が続くと流れが途絶えてしまうことがあるが、その細い流れもまた美しい。


滝を見たあと、最後にモアイ像とヒカリゴケを見てもらうつもりだったのに、どうしたわけか岩下道から枝道に入り込んでしまい気がついたときには手遅れとなっていた。
歩き始めて6時間を過ぎていたのでビールの味が恋しくなったのかもしれない。戻る気持ちにもなれずそのままゴールへと突き進む管理人であった。
この頃、KAさんとKJさんにも疲労感が見えていた。集中力を持続させる限界を超えてしまったようだ。