鹿沼市の岩山。事故が多くて悲しすぎる。

2017年2月15日(水)

またしても岩山(328メートル)で事故が起こった。
しかも今回は死亡事故だ。
下山時によく利用されている猿岩から落下して死に至ったらしい。
8日(水)に入山して11日(土・祝)に発見されたというから、丸三日も同じ場所に横たわっていたことになる。もしかすると、落ちた当初は意識があったのかもしれない。
しかし、ふだんでも訪れる人が少ない岩山だ。平日なので他に登山者がなく発見が遅れたのであろう。救助要請もできないほどのダメージを受け、発見されるのを待ちながら息を引き取ったのかもわからない。
冷たい地面の上にひとり、横たわっていたというのはさぞかし寂しかったことだろう。
下山時によく使われる猿岩。地面が見えないほど急な岩を鎖で下る。

岩山での事故は絶えない。
正確には山頂の北北西100メートルにある岩壁、「猿岩」を下山に使う場合の事故だ。
鎖の始まりから終わりまで30メートルある。すなわち、落差が30メートルということだ。傾斜は60度ほど。感覚的には垂直に近いといっていい。
両手で鎖をしっかり握り、靴を岩に接して降りていくが、下に引かれる力が強くて鎖を握る両の手がしびれてくる。だがここで手を緩めるわけにはいかない。必死で鎖にすがるがやがて限界が訪れる、、、そんな岩なのである。

管理人は山が好きだから、山での事故に関する新聞記事やニュースは関心をもって読む。
管理人が初めて岩山を訪れたのは2015年の8月だったから、それほど前のことではない。2週続けて通ったのだが、以後、訳あって今日まで遠ざかっている(理由は後述する)。
自分が登った山だから関心がある。岩山での事故に関心をもつようになったのもそれ以後、今日に至る一年半のことである。
岩山は鹿沼市にあるので事故は地元紙、「下野新聞」に詳しく載る(管理人はもっぱらWEBニュースで)。

以下、下野新聞WEB版「SOON」に掲載された岩山での事故を引用しておく(日付は掲載日)。

2017年2月12日(日)
滑落か女性死亡 鹿沼の岩山
11日午後0時5分ごろ、鹿沼市西鹿沼町の岩山(328メートル)で東京都足立区神明2丁目、無職女性(72)が倒れているのを登山者の男性が見つけ、110番した。女性は全身を強く打っており、間もなく死亡が確認された。
鹿沼署によると、倒れていたのは山頂北側の鎖場となっている岩場下の雑木林。岩場の最上部から発見場所までは約100メートル、斜度約60度の急斜面。途中に靴や登山用ストックなどが落ちており、滑落したとみて調べている。
所持していた手帳などから、8日に単独で入山したとみられるという。

2016年4月29日
鎖場で滑落事故 鹿沼の岩山
29日午後0時25分ごろ、鹿沼市西鹿沼町の岩山登山道で、埼玉県草加市、医療事務男性(47)が足を滑らせて約10メートル滑落した。
鹿沼署によると、現場は岩山の「一番岩」から西鹿沼町の登山口に至るルートの鎖場。男性は一番岩に登頂後、下山中だった。
同署で、男性のけがの程度などを調べている。

2015年12月4日
山で滑落、女性骨折か 鹿沼
4日午後0時50分ごろ、鹿沼市西鹿沼町の岩山の登山道で東京都小平市、無職女性(68)が滑落した。鹿沼署によると、左足を骨折したとみられる。
同署によると、女性は午前10時半ごろ、仲間3人と入山。北側の登山口に向け下山中、鎖場で手を滑らせ、約30メートル滑落したという。

2015年10月9日
鎖場で滑落、男性がけが 鹿沼の岩山
9日午後1時20分ごろ、鹿沼市西鹿沼町の岩山の登山道で、茨城県石岡市、無職男性(72)が足を滑らせて約10メートル滑落した。男性は胸椎を折るなどのけがをした。
鹿沼署によると男性は午前9時半ごろ、仲間2人とともに入山。その後、下山のため鎖場を降りていたところ、足を滑らせたという。

管理人が岩山に登った2015年8月以後、一年半の間に新聞に載った事故は4件もあることから、おそらくそれ以前にも事故は起こっていたものと推測される(古い記事はネットから削除されるため検索できない)。
新聞に載る事故は警察や消防のレスキューが出動するほどの重傷、重体、自力では下山できない例なので、上に紹介したものは氷山の一角なのかもしれない。
標高わずか328メートル。一般的には注目に値しない山ゆえに登山者は少ない。それにもかかわらず、一年半の間に同じ場所で4件もの大きな事故が起こっている事実、これは重くうけ止めなければならないと思う。

町外れにある、標高328メートルの危険な山、「岩山(猿岩)」

管理人の二度の経験で、岩山は古賀志山の岩場をはるかに凌ぐ危険な山というのが印象である。心技体のどれかが欠けると事故を引き起こす怖い山なのである。
先ほど、訳あって今日まで遠ざかっていると書いたのは心技体のうち、この山に挑戦する「心」が欠けているからだ。

これから書くことは管理人の心の弱さを晒すようだが、あえて書く。
2015年9月、管理人が岩山に登った翌月の出来事だ。
台風18号と17号がからんだ記録的な雨(平成27年9月関東・東北豪雨)により、岩山の登山口がある日吉地区の斜面が崩落し、斜面下の住宅3棟が巻き込まれてその家に住む女性が亡くなるという痛ましい災害があった。
登山口のすぐ近くに住宅があることは知っていたが、そこが被害に遭うとは思いもよらないことだっただけにショックをうけた。見ず知らずの土地で起こったことであればお気の毒という言葉ですんだのかもしれないが、二度登り、これからも頻繁に通おうと思っていた山のすぐ近くで、自然災害によって人が亡くなったことで心が痛んだ。

管理人、信心深いわけではない。神の存在を全肯定するような性格でもない。せいぜい困ったときに神頼みをする程度だ。しかし、岩山の登山口と隣り合わせの住宅で人が亡くなったことで、その方を悼む気持ちが心の中にある。
その気持ちを、当分の間は岩山に足をかけないことで表すつもりでいた。
あれから一年半が経過する。
その間に相次ぐ事故だ。気持ちがさらに萎える。こんなときは岩山に近づかないに限る。

まぁそれはメンタルの問題なので横に置いて技術的な話。
垂直に近い岩壁を、鎖を頼りに下る際にやってはならないことは、鎖を握る手の力を抜かないことだ。当たり前のこととはいえ、しかし、自分の意志に反して力は抜けるものなのだ。

公園の鉄棒に両手でぶら下がっていると、数分もすれば手の力が抜けて砂場に落ちるはずだ。
手のひらはかなり汗をかく。そうすると鎖と皮膚との摩擦が弱くなり、鎖を強く握っていても滑る。
下降中にバランスを崩して肘を岩に打ち付けたりすると、その瞬間に手のひらが開いて片方の腕だけで体重を支えなければならなくなる。だがそれは実際には不可能である。
加齢によって腕力、とくに握力が本人が思っている以上に衰えていると考えなければならない。

それらを前提に、自分に見合った万全の対策で望まない限り、岩山は難しいと思う。
岩山に臨む際の管理人の対応策は次の通りだ。
・心技体のどれかひとつでも不安に思うときは岩山はやらない。
・荷物の軽量化に努める。
・真夏にはやらない(体力の消耗が著しい)。
・雨の日はやらない(鎖は間違いなく滑る)。
・綿密な登山届を作成し、特に身内に説明しておく(息のあるうちに発見される確率が大きくなる)。
・事前に古賀志山の安全な岩場で練習しておく。
・事故に備えてヘルメットは必須とする。
・鎖との摩擦を増やすため、手のひらがゴムでできている手袋をはめる(※1)。
・ハーネスとスリング、カラビナを装着し、手の力が抜けそうになったら自己確保をとる(※2)

それから岩山(猿岩)のように垂直に近くまた、足をかける凹凸のない一枚岩を下降する際の基本技術で大切なことは、岩に対して靴底全体を直角に接して岩との摩擦を最大にすることだ。靴の置き方はリンク先の動画をご覧ください→こちら
※1、ヘルメットと滑り止め手袋(ホームセンターで売っている作業用のもの)

たとえ数メートル上からでも落下すればケガは免れない。せめて頭部を守るためにもヘルメットは着用すべきだと思う。といっても管理人、古賀志山では被っていないが。
画像の手袋はホームセンターで買った作業用のもの。作業用手袋の中では500円と高価だが使い勝手がいい。薄手なので鎖を握る際、手の感覚を損なうことがなくまた、力が直接加わる。手のひらはゴムの皮膜になっていて、鎖を直接握るのに比べるとおそらく数倍もの摩擦力があると思う。


※2、腰にハーネスとスリングを着けいざというときの自己確保に備える。この日は胸にも簡易ハーネスを着けた。

ハーネスは信頼できるメーカーの製品が1万円前後で買えるのでもっていて損はないと思う。これにスリングとカラビナを取り付けておき、腕がしびれてきたり握力が弱まってきたときはカラビナを鎖にかませば、鎖から手を離しても落下することはない。その間に腕を休ませて回復に努めればいい。
ただし、この作業は片手を鎖から離すため細心の注意を払う必要がある。単独行動ゆえのイレギュラーな方法ではないかと思っている。
パートナーと組んでロープによる確保をうけながら下るのが正しい方法ではないだろうか。

以上、手前勝手に書いてきたがこれだけ備えたのだから事故など起こるはずがない、とはいえない。
事例に挙げた4人の方だって備えはしてあったろう。しかし、落ちた。
なぜ落ちたのか、それを知って自分の血肉とするのが事故を未然に防ぐ近道だと思うが、わずか数行の記事から落ちた原因を知るのは無理というものだ。

とにかく命に関わることだ。
最悪の出来事に備えて、細心かつ最大の備えで臨むことが重要だと思う。
岩山での事故をこれ以上、繰り返してほしくない。心が痛む。

参考(過去二回の山行記録です)
2015年8月04日→こちら
2015年8月11日→こちら