冬枯れの古賀志山、馬蹄形スタンダードを歩く。

2019年12月08日(日) 晴れ

12月の初登は前々から古賀志山に決めていた。
「馬蹄形コース」を、である。

古賀志山なら日光から近いのでいつでも行けるのでは、と読者においては思われるだろうが、100本以上あるルートの中で、距離が長くアップダウンが激しい馬蹄形コースは疲労度が大きいため季節を選ばないと途中敗退という結果になりかねない厳しさがある。

馬蹄形コースとは、古賀志山を起点として見たときに、ルートが馬の蹄に似ていることからつけられた名であろうと想像できる。
具体的には、古賀志山から西へ向かって主稜線を御嶽山、赤岩山を経て北ノ峰と歩き、そこで進路を北に変えて日光市との境界線を跨いでP444を経て手岡分岐で南に下って古賀志山に戻る楕円形を縦に半分に切ったようなルートがあたかも馬の蹄に似ている(?)ことから、それを地元の人は馬蹄形コースと呼んでいる。

深い樹林帯と岩場を含んだアップダウンが連続するため春から秋は低山ならではの暑さと湿度によって大量の汗をかき、それだけで体力が消耗する。万全の体調で臨んだとしても結果がわからない。
飲み水は2リットル以上必要だしエネルギー切れをなくすために行動食はいつもの倍の量を必要とするから、ザックは必然的に重くなり、それがまた体力を奪う。
それと、藪だ。
馬蹄形コースを歩く人は少ないので部分的に藪化しているため枝葉を払いながら歩かなくてはならない。それに輪をかけて厄介なのが蜘蛛の糸で、うっかり気づかないでいると顔にまとわりついて不快な思いをすることが度々ある。

そんなわけで広葉樹の葉が散る冬枯れのこのシーズンすなわち、汗をかかない冬場こそ馬蹄形を歩くのに適しているのである。虫たちも活動を休止するし。


馬蹄形は過去8回歩いているので、興味のある方は検索窓に「馬蹄形」と打ち込んで結果をご覧ください。

上に書いたルートを馬蹄形スタンダードコースとすれば問題は、スタンダードコースにするかそれとも鞍掛山コースと抱き合わせたデラックスコースいや、ロングコースにするかの選択である(2枚目の画像)。
前者は15キロ、後者だと20キロと距離が延びる。
ロングコースは手岡分岐を南下しないで鞍掛山へ向かって東に歩き、赤川ダムに戻ってくる長いコースで、全体では累積標高が2000メートルに達するため疲労度も大きいし時間もかかる。
ロングコースは過去3回やったことがあるが、いずれも9時間以上かかっている。
それと、体力への不安である。
スポーツジムに行かなくなった(先月から復帰)ことが原因だと思うが、最後にロングコースをやった2年前に比べると、体力の衰えを身を持って感じている。
不安材料がいっぱいなのである。

まっ、とりあえずロングコースで予定を組んでおき、時間や疲れの具合でスタンダードコースで終わりにしてもいい。
それだけでも達成感はあるしね。

メモ
・歩行距離:14.5キロ(GPSログをカシミール3Dで処理した値)
・所要時間:8時間5分(写真撮影と休憩を含む)
・累積標高:1653メートル(アップダウンのうち、上昇分の累積)

気温5度。
雲ひとつない空の下、古賀志山が美しく映える。
正面と右に見えるこんもりとした色づいている樹木はアケボノスギ(メタセコイヤ)。


馬蹄形コースは古賀志山を起点にするが、古賀志山への行き方はいくつかある登山口のどこからでもいい。
地理院地図にある北登山道は日曜日ということもあり賑わっているので、今日は登山者の少ない東稜コースで行くことにした。
正面に見える崩れた崖、以前はそこに東稜の登山口があったが、わずか220メートルという短い林道を造るために登山口は壊され、その跡がむき出しのままとなっている。
今は林道の終点部分から上り始めるか、石垣の左側から上り始めるかのどちらかである。


東稜コースは地理院地図に描かれていないことから登山者は少なく、静かな環境で歩ける。
登山者が少ない理由として岩場を2つクリアしなくてはならないため、それを知っている登山者は敬遠するのだろうと思う。


南から来る、これも岩場をクリアしなくてはならない東南陵と交わると、右手に落差3メートルほどの岩場が待ち構えている。
鎖は下がっているがここを鎖を使わず(基本は鎖で)に上った。振り返るとそこには大展望が広がっていた。
筑波山がきれいに見えた(ズームで)。


もうひとつの岩は落差2メートルほどの垂壁。
じつはここで古賀志山に初めて来たと思われる男性3人組が躊躇っていた。
戻るにしてもこの下の岩を降りなくてはならない。
そこで岩を回避して古賀志山に行くルートを教え、管理人はこの岩の上にある東稜見晴台に向かった。


岩を2つクリアすると展望が開けた見晴台の突端に出る。
広場になっていて地元の人の憩いの場になっている。


見晴台から古賀志山へは数分の距離。
その鞍部を直進すると古賀志山、右に行くと富士見峠を経て赤川ダムに戻る。
左は先程の3人組に教えた、岩を回避して古賀志山に行くルートなので、3人組が現れるまでここでしばらく待ってみることにした。
10分ほど待っても姿を見せないので心配になり、確認するため左へ下って行った。


一周して3人組と別れた岩の下まで来たが結局、出合うことはなかった。
管理人が教えたルートは行かずここからもうひとつの岩を下って帰ったのかもしれない。
他人にルートを教えるというのは難しい側面がある。
古賀志山のように地理院地図に描かれていない、いわゆるバリエーションルートの場合など、説明のしようがない。親切心から教えても相手が理解できなかったら道迷いを誘発させるようなものだ。といって困ってる相手を無視することはできまい。
今回は東稜直下の岩を安全に上れるよう、管理人がそこにいて見守ってあげるかあるいは、回避ルートを一緒に歩いてあげるといった配慮が必要であったのかもわからない。
いずれにしても事故の情報はなかったので安心はしたが、時間を40分ほど消費したため予定していたロングコースはこの時点で諦めることにした。


再び東稜見晴台に出、先程の鞍部を通り古賀志山に到着。


古賀志山では写真を撮っただけで長居はせず、御嶽山に向かった。
古賀志山から御嶽山へ行くには2つの大きな岩をクリアする(回避ルートもある)。
気になったのは2つ目の岩にかかるトラロープだった。
どういうわけか岩を横断するように取り付けられている。
上るにしても下るにしてもロープに足が引っかかって転倒する恐れがあるのが気がかりだ。
岩のトップから下がっていれば利用する意味があるというものだが、なんの目的でこのような配置にしたのかがわからない(なんらかの意図があってのことだろうが)。


御嶽山は多くの登山者で賑わっていた。
日光連山は山頂付近に雲がかかり、全貌を見ることができないがそれでもまずまずの展望。


男体山の左奥に白根山が見える。
もうすっかり白くなっていた。


白根山の左(南)には先鋭的な姿の皇海山とその左隣には庚申山がそびえているのが見える。


登山者がいるのも御嶽山までで、そこから先は細尾根といくつもの岩場が連続するため行く人がいない。
古賀志山主稜線を歩く醍醐味がそこにあるように思えて管理人には面白いが。


実にきれいに染まったヤマツツジ。


二尊岩を通り過ぎて見上げる。


赤岩山のすぐ手前に今は使われていないパラグライダーの離陸場がある。
展望がいいので少し休憩し行動食として干納豆を口に入れる。
朝食からすでに5時間経っているが昼食にするには時間がもったいない。
距離が長いだけにある程度の目処がついたら昼食にすることにして、それまでは行動食で済ませるつもりだ。


赤岩山を通り過ぎ、、、


古賀志山から続いた主稜線はここ、北ノ峰で終わる。
馬蹄形コースの核心はここから始まる。
いえ、これまでも岩を上り下りして怖わ楽しいを味わったが、これからが本番なのである(笑)


その前に麓の古賀志町を通して日光連山が望める。


北ノ峰から先、急で長い下りが続くと今度は薄暗い桧林に突入する。
ここを下り切ると日光市との境界で以後、しばらくの間は日光市を歩くことになる。


馬蹄形コースのランドマークともいえる今は使われていない作業小屋。
斜面はつかみどころのないほど広いので、この小屋を見つけられないとヤバイことになる。今日は無事に見つけることができたので建物の左を通過して先へ進む。
余計なことだが、ここで立ち止まって小屋の中を覗いたりしないほうがいい。
耳を澄ますとなにやら人の話し声が聞こえたり窓越しになにかが動く気配を感じることがある。いつだったか、覗こうとしたらガラス窓から透き通るほど白く細い腕がニュッと出てきて金縛りにあったことがある(これらはあくまでも管理人の妄想です)。


今日もなにかの気配を感じたので小屋の脇を足早に通り抜けて左へ曲がり、次に桧の大木を右に曲がる。


ふ~、やっと明るい場所に出た。
ここに出ることができれば正解。
この道は地図に反映されていない新しい林道。
この林道を突っ切り、水路(白石川)を突っ切り、もう1本の林道(内倉線)と出合ったところが馬蹄形北コースの入口になる。


堰堤工事中の白石川。
2015年の豪雨でピーク444の南斜面が大きく崩れ、土砂はこの水路を埋め尽くし、さらに進路を西に変えて県道沿いの民家に達するという大きな災害があった。
今はここに新しい水路と土砂を止める堰堤工事が行われている。


林道内倉線と交わったら突っ切ると馬蹄形北コースの入口。
小さな案内板が地面に埋め込まれているのでそこを右へ入る。


緩やかな尾根を上ると最後に岩混じりの急登になる。


腰掛岩直下の急登。
この辺りも歩きやすくするための整備が進んでいるようだ。岩に建設用の鉄筋が埋め込まれ、足場になっている。


これもランドマーク的存在の「腰掛岩」。
時間の目処がついたので椅子に腰掛けて昼メシでも。


管理人の最近のお気に入り。
炭水化物たっぷり(笑)の海苔巻き弁当。
ラベルの内訳にはエネルギー459kcal、タンパク質11.9グラム、脂質15.4グラム、糖質67.3グラムとある。タンパク質が意外と多いがおそらく玉子焼きだろう。脂質が多いのはマヨネーズと玉子焼きによるものかもしれない。
エネルギーは「11.9×4+15.4×9+67.3×4」で計算できる。
午前中に消費したエネルギーはこれでまかなえるが、これから下山までのエネルギーは行動食でまかなうつもりだ。


次の目標は腰掛岩からすぐのところにあるピーク444。
崩落した斜面の上に当たる。


ピーク444は「鳥屋山=とややま」というのが正式な名であることが最近の調べで判明したらしい。
さっそく山名板が取り付けられていた。


鳥屋山の先に真新しい鎖が取り付けられた。
前はロープが下がっていたが2年前は悪意ある何者かによって外されていた。


設置者はNPO法人「古賀志山を守ろう会」で、設置(2019/7)してまだ間もないことがタグからわかる。2020.7とあるのは設置後におこなう安全確認日を指している。


いくつかの尾根の分岐を地図を読みながら進むと正面に送電線が見えてくる。
送電線をくぐるようにして進むと下り斜面となる。
ここは夏は藪となるところで、枝を払いながら歩かないとトゲにやられるから注意。


さ~て、ややこしくなってきたぞ。
尾根は分岐を繰り返す。


これまで8回歩いたといっても覚えられないのが馬蹄形である。
尾根の分岐がたくさんあるため道間違いをよく起こす。
印刷した地図に間違いやすい尾根の分岐をマーカーで示し、コンパスを使って正しい尾根に乗るよう、細心の注意を払って進んだ。
男体山や女峰山、白根山といった名高い山は地図など持っていなくても、そこに見える1本の道を進んで行けば山頂に到達するが、古賀志山はそうはいかんのだよ。


今日はこんな足場のある岩を2箇所、通過した。


急な傾斜を登りきると道は左へ直角に曲がる。
左へ曲がるとピーク559(班根石山)に行く。右へ行く道はないが弁天岩という巨大な岩が構えている(ロープがあって岩の上に行ける)。


ピーク559の手前の分岐。
直進するとすぐピークだが古賀志山へはこの分岐を右へ行く。


今度は中尾根との分岐。
古賀志山への案内にしたがって行けば手前の富士見峠で北登山道と交わり、赤川ダムは近い。
が、ほんの少しだけ近道をするため中尾根方面(案内板の文字が読めない方向)に進むことにした。


これまで何度も見たがあまりにもきれいなのでもう一枚。


ケルンを見つけたらここを右へ行くとゴールが気持ち近くなる(あくまでも気持ち)。
ただし、踏跡不明瞭で道間違いを起こすだろう。
ちなみにこの分岐を直進すると中尾根の岩場だが下りはお勧めできない。


落ち葉が積もってズルズル滑る急斜面を下っていくと地元の人から広場と呼ばれている場所に出る。
持参した700ミリのドリンクは途中で飲み干して喉が乾いている。
この先すぐのところに水場があって旨い水を飲めるのだが待ちきれず、予備として持ってきている水をザックから取り出し干からびた体に流し込んだ。


その水場。
備え付けのプラスティックカップに並々注いで一気に飲み干した。
汗は日差しが強かった午前中だけかと思っていたが、それなりにかいていたらしい。


無事に歩き終えて駐車場へと戻るところ。


断面図でわかるように登山口の標高214メートルにたいして古賀志山山頂は583メートル。
その差は369メートルと、これぞ低山の典型といっても語弊はないはずだ。
しかし、、、
最初の目標地点である東稜見晴台に行くには岩場をふたつクリアしなければならないし、急斜面もある。侮れない。

特筆すべきは岩場を含んでアップダウンが多いことである。
山の厳しさの指標になる上り累積標高は1653メートルに達し、これは上に書いた標高差369メートルのなんと4.5倍に達する。
早い話が標高ゼロメートルにある登山口から標高1653メートルの山に登るのと同じなのである。
急傾斜ばかりで苦しいといわれている男体山は、1286メートルの登山口から標高2486メートルの山頂に登るわけだが、アップダウンがないので累積標高は標高差と同じ1200メートル。
数値だけで見ると古賀志山(今日の馬蹄形コース)は男体山に登ってさらに453メートルも余計に登らなければならないという計算になる。
これは疲れますよ。

年を追うごとに体力が低下していくのを自認する管理人が馬蹄形歩きを続けるのは、現在の体力を知り、これ以上の低下を食い止めるための改善策へとつなげたいからである(女峰山に登り続けるのも同じ理由から)。

厚生労働省・2016年発表の健康寿命は男性で72.14歳(女性は74.79歳)とある。
これを1年でも2年でも先に伸ばすこと、管理人でいえば登山を続けられることを目標に、そのために何をすべきかが大きな課題といえる。
この辺りのことは昨年2月、「登山での疲労の原因について考察してみた。」のタイトルで考察し記事にしてみた。
その中で、解決策は筋トレと結論づけた。すなわち、過負荷の原理である。
  山歩きでの負荷 < 筋トレでの負荷

数年前になるが自宅の空き部屋に有酸素運動のマシンを2台(トレッドミルとエアロクライム、いずれも家庭用の安価なマシン)と、1台で複数の筋トレができるこれも家庭用のマシンを設置して取り組むようにした。
とはいえ、雑用や電話といったなにかと制約のある家トレは身に入らないため、今年になって、近くに24時間営業のスポーツジムがオープンしたのを幸いとばかり通うようにした。
狙うところは、筋力と持久力をつけ、いくつになっても「馬蹄形そして女峰山に楽に登れるようになること」である。

健康寿命まであと半年と迫ったが平均寿命である81歳まで馬蹄形を歩き、女峰山に登ることができれば言うことなしである。
山で死を迎えることができれば、いや、それはいろんな人に迷惑をかけることになるから望まないが、81歳の誕生日に女峰山から元気に下山して、翌朝、布団の中で天寿を全うしていたなんてのが理想かな?