那須はすっかり雪景色。那須裏街道で三斗小屋宿跡を訪ねる。

2019年11月29日(金) 冬の不安定な天候/歩き始めの気温は零度。強風。

先月21日、那須山麓の三斗小屋宿跡(さんどごやじゅくあと)を訪ねるつもりで沼原(ぬまっぱら)から歩き始めたところ、目的地手前で増水した川に行く手を阻まれ、にっちもさっちもいかずに引き返すことになった。
きっと台風の影響で増水したのであろう、であれば渇水期を狙って行くことにしよう、とそのときは思った→こちら
しかし、ここに大きな問題があることをすっかり忘れていた。
渇水期とは雨の降らない冬のことである。
その冬は前回起点とした沼原への道路が冬季閉鎖となり、行きたくても行くことができないのだ。

三斗小屋宿跡への熱が冷めないうちに行ってみたいのだが冬季閉鎖が解かれる頃には、今度は雪解け水で増水するはずだから、それを考えると次に訪れるタイミングを計るのは非常に難しい。
川を渡渉しなくても三斗小屋宿跡に行く手立てはないものかと地図を仔細に眺めていると、これまで気にもとめなかったルートが目についた。
前回、起点とした沼原の西に深山湖というダム湖があり、湖に沿って北上すると増水して渡渉できなかった川、その川を渡った場所を通過する、と地図(最下段に掲載)で読める。
沼原を起点にした場合よりも時間は長くかかるが、渡渉できるかどうかの心配をしなくてもいいので気持ちは楽だ。
それに深山湖畔には水力発電所とその管理棟がある。
県内各地の林道が軒並み冬期通行止めになる冬でも管理のために職員が詰めているはずだから、深山湖への道路は通行止めにならないはずだ。

昭文社「山と高原地図」にある区間ごとの所要時間を積み重ねると深山湖から三斗小屋宿跡まで片道1時間45分、同じ道を往復すると3時間15分なので軽ハイキング程度。
それにくらべて車での移動時間は往復で4時間弱。
う~ん、なんともバランスが悪い。
せめて移動時間の倍の時間を歩いてガソリン代の元を取りたい、と貧乏根性丸出しの管理人は思うのだ。

地図を眺めていると三斗小屋宿跡の先、三斗小屋温泉まで行けば次に南下して沼原湿原に行き着く。沼原湿原と深山湖は近い。しかも、「鬼が面山」という魅力的な名の山を通過して下山する。
なによりも素晴らしいのは同じ道を通らないで元の場所に戻れるという、完璧な周回コースが構築できるのである。
もうこれしかないな!!

行程表は次のようになった。
鬼ケ面橋(8:00)~湖を北上~沼原湿原分岐(9:25)~三斗小屋宿跡(9:45)~三斗小屋温泉(11:05)~沼原分岐(11:25)~姥ケ平下(11:55)~日の出平登山口(12:45)~沼原湿原(13:05)~鬼が面山(13:50)~発電所(14:30)~鬼ケ面橋(15:05)
※各名称と時間は昭文社「山と高原地図」に基づく。
※三斗小屋温泉から沼原湿原の区間を除いて他は管理人未踏のルート。
※実績は最下段に。

休憩なしでの所要時間は7時間5分と計算されるが、足の遅い管理人のことだ、プラス1時間半みておく必要がある。
いずれにしても初めて歩く道なので日没は避けたい。
日没にはならないにしても樹林帯の中は昼間でも薄暗いから、足元の石に気づかず躓き、顔面血だらけなんてことになりかねない。16時半には下山したいものだ。

前回のように途中で引き返すことのないよう、祈りを捧げて歩き始めた(笑)。


文中、「沼原」と「沼原湿原」とを使い分けていますが、両者は徒歩10分と離れていてまた、そこからの行き先も異なります。
厳密にとまでは言わないまでも一応、使い分けるようにしています。

南北に細長い深山湖の中間に位置する鬼ケ面橋の手前に車を駐めて歩き始めた。
ここから先は山間部を走る林道によくある冬期通行止めになっている。
ただし、人が通るには差し支えないようだ。


鬼ケ面橋
沢の上に掛かる橋で落差は20メートルくらいある。
風が強く、寒い。
今日の管理人のいでたちは長袖Tの上にハーフジップシャツ、その上にフリース、さらに雪山用のジャケットを着ている。頭はニット帽とジャケットのフードをかぶっている。
下半身はもちろん、タイツを履いている。
ズボンは中厚手の生地だが防風防寒ではない。といって雪山用のだと汗をかくことになるだろう。この時期のボトムは何を履いたらいいのか迷う。


林道はここで分岐する。
左がメインだがここは右へ行く。
なんとなくそれらしいから(笑)


この林道名は昭文社「山と高原地図」にも地理院地図にも描かれていないが、進む方角から判断するとこれしかない。
ちなみに道標にある「1,700M起点」とはここの標高を指しているのではなく、林道の長さのことらしい。標高は800メートルに満たない。


ほら、大丈夫(笑)。


ここは山と高原地図に「ゲート」と描かれている場所で、この奥に発電所の設備があると案内板に書かれている(地理院地図にはそれらを表す記号はない)。
なお、冬期通行止めが解除されている期間はここまでは入ってもいいらしい。手前に数台の駐車スペースがある。


風花舞であろう、雪がちらついている。


ここで道は分岐して三斗小屋宿跡は道なりに左へ進む。
右は前回渡渉できなかった「湯川」に行く。
せっかくだから湯川のその後を見てみよう。


湯川には5分とかからずに着いた。
水量は前回10月21日とほぼ変わりなく、勢いも衰えていない。
前回の再挑戦のつもりで沼原から歩きだしたらやはり引き返す結果となった。


前回とは異なるルートを選んだことに満足し、元の林道に戻って三斗小屋宿跡へ向かう。
そういえばこの道は幅が広く、明らかに車が通る林道である。
車の轍も見られる。
ところが地理院地図では破線(登山道)となっていて、整合がとれていないのが不思議だ。道はかなり古いが地理院地図はさらに古いのだろうか?


標高が千メートルを超える辺りになると雪が目立ってきた。
三斗小屋宿跡は標高1100メートルに位置するのでもうすぐのようだ。


おぉ、ここだ、三斗小屋宿跡は。
常夜灯が数基、道に沿ってある。
建物の跡は窺えないが、かつては道の左側の広場に建っていたのであろう。
建物の基礎なんかが残っているかと期待したがそれはなかった。


ずいぶん由緒ある宿(しゅく・じゅく)らしいが数奇の運命を辿って廃村に至ったらしい。


林道から外れて100メートルほど入ったところに神社があった。
朽ち果てそうになっていたのを地元のボランティアグループが復元したと、説明板にある。
男神と女神が合祀されているとのことだ。
女神は祠の中に祀られているらしい。
そのすぐ脇に長さ2メートルもありそうな木彫りの「男根」が添えられている→画像はこちら
二体セットで子授け、安産の神として村民が祈願していたものと見られる。


林道はほどなく尽き、普通の登山道に変わった。
右へ下っていくと川と出合った。
湯川の上流部で那珂川の源流になっているらしい。


川を渡って今日の折り返し点となる三斗小屋温泉に向かっていく。
この後、すぐ悪路に変わった。


悪路の樹林帯を抜けると視界が開け、いい感じで歩けるようになった。


ここで左から来る道と合流。
左は福島県境の大峠から続いている。
カメラを構えていると左の道から来た青年と出会った。
峠の茶屋を出発して三本槍岳に登ってきたとのことだ。
人と出会ったのは後にも先にもこの青年ひとりだけだった。


おぉ、見えた。
三斗小屋温泉の「大黒屋」だ。
管理人が経営するペンションの常連客で山好きの女性がいて、ここをなんどか利用したことがあるらしい。木造の古い建物だが館内はよく手入れされていて心地よく過ごせると言っていた。温泉もある。
一度は泊まってみたいものだ。


表に回ってみると玄関に休館中という札がかかっていた。
北西の方角に福島県境の山並みがよく見える。


時間が迫ってきた。
日没にはならないと思うものの足が急く。
車を置いた場所までまだ10キロもあるのだ。
沼原と沼原湿原へはこの分岐を右へ行く。
青年はここを直進して峠の茶屋へ向かった。


快適に歩けるのは分岐して200メートルほど。
その後はアップダウンの連続となる。


姥が平下分岐点。
左へ行くと牛ヶ首を経て茶臼岳に行く。


雪が積もったフィールドはそこに野生の生き物が生息していることが一目瞭然。
この矢印状の足跡はたぶん大型の野鳥だと思う。カケスだろうか?


おぉ~~~!!
足跡は登山道の上を50メートルほど続き、沢へ向かっていた。
とはいえまだ新しいから近くにいるのかもしれない。
ザックにくくりつけたホイッスルを鳴らしてこちらの存在を知らせた(効果の程は不明だが)。


シカ


リス
この他にノウサギも見た。


沼原への道と分岐して沼原湿原に到着。


休憩所で遅い昼メシとする。
ここなら見通しがいいので食べ物の匂いに誘われて姿を現す心配はないはず。
朝食は5時半に済ませ、それからこれまでエナージバーと豆大福を食べただけだ。ご飯物が恋しかった。


沼原の駐車場はここを左に分けて10分ほど。
三斗小屋温泉からここまでのルートは数回、歩いたことがあるが、起点はいずれもここを左に入った駐車場だった。これから先、深山湖への道は初めて歩く。


湿原を一周する木道と深山湖へ行く木道に分岐する。
深山ダム(深山湖)はここからまだ6キロもある。
すでに17キロも歩いているので果たして体力が保つのでしょうか?


初夏には多くの花が咲く湿原だが、水溜りには氷が張り荒涼とした景色が広がっている。


湿原を通してみる福島県境の山並み。


湿原と別れて深山湖へ向かう。


稜線に出るとそこは北から吹き込む強い風に体が揺れる。


ヤシオツヅジですね。
かなりの本数があるので春はいいのかも?


進路はこれで合っているようだがこれでも道かというほど荒れている。


木々を通して眼下に深山湖が見えてきた。


つづら折りの最後に階段があった。
これを降りれば深山湖にぐっと近づくのであろう。


階段を降りるとそこは林道になっていた。
ところがこの林道ときたらほとんど平坦で、標高を下げることなく長い距離が続いている。
不思議に思って地図を見ると、道は等高線に沿ってつけられているためカーブを曲がってもせいぜい5~10メートル下がるだけなのだ。なるほど、足下に見えている深山湖との距離が縮まらないのも納得がゆく。
斜面を削って登山道にすれば10分とかからずに湖に降りられそうだが、、、


階段を降りて40分かかってようやく駐車地に着いた。
高度に変化のない林道歩きは管理人を疲れさせるのに十分だった。
カメラが勝手に明るくしてくれたが実際には間もなく暗闇になる一歩手前といった具合。
歩き始めたのが8時15分だったから撮影や休憩込みの所要時間は8時間25分だった。
計画の1時間20分オーバーは想定内であり、鈍足の管理人としては上出来。無事に下山できたことに満足すべきであろう。


茶臼岳や朝日岳、三本槍岳といった著名な山を有す那須連峰(那須岳)は訪れる人が多く、シーズン中は登山者と観光客で賑わうが、起点を連峰の南西に位置する沼原にすると人の数はぐっと少なくなる。高速のICから近い表那須(峠の茶屋登山口)にくらべて車でのアクセスが悪いのがその理由であろう。
今日は沼原よりにもさらに西に位置する深山湖を起点にして三斗小屋温泉まで行って南下したが、同じ起点からもしも那須連峰を登ろうと思えば30キロ以上の行程になるため日帰りでは困難になる。
それほど那須山麓は広い。
今日は那須連峰の核心部から外れるルートを歩いたが、とはいえ三斗小屋宿跡や三斗小屋温泉、福島県境の山並み、登山道を横切って流れる多くの沢、真冬の様相と化した沼原湿原と出合えるなど、日帰りでも那須の趣を十分に味わうことができた。

そういえば計画では沼原湿原から深山湖へのルート上にある鬼が面山(1271M)を通過することになっていた。
ところがどうしたわけか山名板を見ることなく、ある地点から道は深山湖に向かって一方的に下っていった。
もしかすると疲れていて見落としてしまったのだろうか?
帰宅してGPSデータを地理院地図に投影してみると、管理人が歩いた軌跡は鬼が面山山頂を外れてほんのわずか南に描かれている。管理人の見落としではなかったのだ。
沼原から鬼が面山に至る間には4つのピークを通過し、5つ目のピークが鬼が面山になっている。
そのことを意識して歩いていたら見つかったのかもわからない。
ヤシオツツジが咲く頃に再訪して確かめようかな?
でも高度を稼ぐことのできないあの林道歩きは避けたいものだ。


実際の行程表
鬼ケ面橋(8:15)~湖を北上~沼原湿原分岐(9:46)~三斗小屋宿跡(10:25)~三斗小屋温泉(12:16)~沼原分岐(11:44)~姥ケ平下(13:26)~日の出平登山口(14:10)~沼原湿原(14:35)~鬼が面山近く(15:30)~鬼ケ面橋(16:40)

・歩行距離:23.5キロ(GPSログをカシミール3Dで処理した値)
・所要時間:8時間25分(写真撮影と休憩を含む)
・累積標高:1669メートル(アップダウンのうち、上昇分の累積)