常連さんと行く日本百名山・安達太良山(二日目)。

2019年分8月2日(金) 晴れ

Wさんの初スノーシュー

管理人が経営する宿にWさんが最初に訪れたのは2005年のことだった。
痩身で長髪、長い髭を蓄えた、「いかにも」という風貌の人だった。
管理人、初めてのお客さんとはそれほど多くの話をすることはなく、Wさんもまた寡黙だった。
翌年2月、Wさん二度目の来訪があった。
管理人がガイドを務めるスノーシューツアーに参加するのが目的だった。
聞くと一度目は宿の雰囲気と管理人の客に接する態度を見極めるのが狙いだったそうだ。

昔は積雪150センチが当たり前

案内したのは刈込湖。
刈込湖は今でこそ訪れる人が多く賑わうが、当時は雪深い上に距離が長くなおかつ、気温がマイナス15度以下になる日があることから、心身ともに頑強な人向きのコースとして位置づけていた。
ちなみに当時の日光の積雪は今では考えられないほど多く、この日は刈込湖で150センチほどあった。

スノーシューツアーに初めて参加するお客さんには距離が手頃な小田代ケ原と戦場ヶ原コースあるいは金精沢コースを案 内(当時。今はほとんど実施していない)しているが、Wさんをいきなり「精神・身体ともに頑強コース」に案内したのは、初めてのスノーシュー体験なのにスノーシューを持参して訪れたからではなかったか、と当時を振り返って今はそのように思っている。
参加者の期待にプラス・アルファで応える、それが管理人がガイドを務めるにあたってのポリシーである。
雪の上を快適に歩くという非日常の体験が出来るだけで期待に応えられることもあるし、参加者の冒険心、探究心に応えることもある。Wさんは後者のタイプであると判断した(その風貌からね)。

その後の長い付き合いの中でわかったことだが、Wさんは大学で教鞭をとる立場にあり、探究心旺盛な学者なのだ。冒頭「いかにも」と書いたのは第一印象として間違ってはいなかった。
ツアーの結果は本人の名誉のためにも書かないでおくが、散々であった。
スノーシューが靴から外れること数回、そのためにバインディングの締め直しをしなければならないわ斜面のトラバースでは足の踏ん張りが効かずに滑り落ちるわで、手のかかる生徒だった印象は拭えない(あっ、書かないつもりだったのにw)。

その後も管理人とWさんとの付き合いは続く。
Wさんにとって自然の中は未知のものが溢れているのであろう、知識も技量もまたたく間に向上していった。よほど性に合っているのであろう。
当ブログにWさんと同行した記録を残してあるが、ご覧になってわかるとおり、管理人が撮るWさんの写真は後ろ姿が多い。
これはWさんが先頭に立ち管理人が後を追うというスタイルに他ならない。

2006年におこなったスノーシューツアーから13年たち、管理人とWさんはもはやガイドと参加者という位置関係ではなく、信頼のおけるパートナーとしての位置づけにあることを否定のしようがない。
知識と技量で刺激し合ったり、物理的には、東京住まいで車を持たないWさんのために、管理人が遠方への移動の足になるなどWさんにできないことを補う役割を担うといった関係を続けているが、管理人にとってそれを負担に感じることなくおこなえるというのは信頼の証であろう。

さて、福島県の山に傾倒し頻繁に通うようになってからというもの、福島県の山の素晴らしさを事あるごとにWさんに吹聴してやまない管理人である。
昨年は日光では見ることのできない貴重な花がたくさんあるからと言って会津駒ヶ岳に誘った。
今年も週を変えて会津駒ヶ岳や燧ヶ岳、磐梯山、安達太良山を予定していたが長引く梅雨でどれかひとつに絞らなければならなかった。それが安達太良山である。

福島県に行くのに、東京と日光との時間差を考慮すると、日光で待ち合わせてから向かうには時間にロスが生じる。
それを最小にするには往路、Wさんには電車を利用してもらうことが望ましく、待ち合わせ場所を安達太良山山麓のくろがね小屋にした。
そうすることで一日目はお互いに自分の基本スタイルである単独行動がとれる。
管理人は沼尻登山口をスタート、Wさんは奥岳登山口をスタートし、二日目にWさんは管理人が車を置いた沼尻登山口に降りることが出来るわけだ。
Wさんにとって安達太良山の東から上って西へ下るという、変化に富んだコースを歩けるし、管理人は上りも下りも同じ登山口を利用することになるが、周回コースを歩くという安達太良山の魅力を味わうことができる。

一日目、安達太良山山頂を降りた管理人はWさんより少し早くくろがね小屋に到着し、Wさんを待った。合流の後、いつも管理人の宿でしているように作戦会議と称する飲み会を終えて床につき、二日目の朝を迎えた。

行程表
くろがね小屋(6:10)~峰の辻(7:00)~矢筈森(7:23)~鉄山(8:05)~胎内くぐり(11:10)~硫黄川河原(12:03)~沼尻登山口(13:15)

メモ
・歩行距離:11.6キロ(GPSログをカシミール3Dで処理した値)
・所要時間:7時間5分(写真撮影と休憩を含む)
・累積標高:853メートル(アップダウンのうち、上昇分の累積)


5時に朝食を食べ始め、くろがね小屋を後にした。
今日の予定は鉄山に登り沼ノ平の北側を通ってこのルートの醍醐味である硫黄川に降りることである。


鉄山に向かう前にWさんの要望で湧き水に立ち寄った。
奥岳登山口からくろがね小屋に至るルートの、くろがね小屋の手前に湧き水がふたつある。
画像は小屋から5分と離れていない湧き水で、さらに進むと昭文社「山と高原地図」に記載された「金明水」がある。
昨日のブログで沼ノ平の硫黄ガスのことにふれたが、安達太良山の地下水、沢水には硫黄性分が含まれていて口に含むと舌がしびれるような刺激がある。
ところがこの湧き水は水源の違いから酸性味はなく、甘みを感じる山の湧水そのものだ。


さて、これからあの頂へ。


まずは峰の辻を目指す。


火山特有の砂礫と大小の石が入り混じった斜面を上がっていく。


峰の辻に着いて安達太良山を眺める。
Wさんも管理人も昨日、登頂しているので今日はパスしてここから鉄山に向かうことにした。


ヒメクロマメノキの花と実
ブルーベリーの仲間で熟すと甘い。


矢筈森へのルートは砂礫帯なので踏跡がつきにくくわかりづらい。
とにかくあの大きな岩へ向かって進んで行く。


おそらく花後のネバリノギランだと思うが、、、


矢筈森
左へ行くと安達太良山、鉄山はここを右へ行く。


このルートはどこからでも沼ノ平がよく見える。


くろがね小屋を俯瞰。


鉄山が近づいてきたがここからピークを見極めるのは難しい。
昨年の経験だとあの尖った岩の直下で岩の裏に回り込み、低木の間を縫うようにして進んで稜線に上がったところが山頂、そんな記憶がある。


目の前に立ちはだかる鉄山。
全体が黒光りした「鋼=はがね」といった雰囲気がたっぷり。


初めて見るツガザクラの実。


鉄山避難小屋が見える。
距離はまだだいぶある。


先程見た大きな岩を左に回り込み、低木の間を進む。


シラネニンジン


オトギリソウ


鉄山山頂
全体がのっぺりしているがケルンと、その脇に三角点(四等)があることでここが山頂であることがわかる。


三角点の先に沼ノ平に向けて設置された監視カメラがある。
地震観測計とともに沼ノ平の変化を監視しているのであろう。


やがて鉄山避難小屋に到着。
北に箕輪山が見える。
安達太良山が初めてのWさんはあそこまで行ってくると、管理人を置いて出かけた。
往復約90分。その間、管理人はここでひとり、ボーッとしながら時間を潰すことにした。昨年行っているしね。


小屋の裏手にハクサンフウロの小群落があるのを見つけた。


ヤマハハコ


小屋の周りをうろついたり、中に入って休んだり。


Wさんがご満悦の様子で帰ってきたので小屋の中で昼食とし、低木林の中の一本道を進んで行く。
低木林なので見通しはいい。
日光で言えば前白根山から白桧岳に向かう稜線に似ていて開放感がある。
安達太良山にしても磐梯山にしても会津駒ヶ岳にしても、遠くまで見通せる道を歩けるのは気持ちのいいものだ。


進行方向に見えるウサギの耳。


「石楠花の塔」と刻まれたプレートが取り付けられている。
1958(昭和33)年12月10日に自衛隊の航空機が消息不明となり、17日に箕輪山近くの山腹に墜落しているのが発見されたが、搭乗者2名はすでに亡くなっていたらしい。
プロペラは実際の遭難機のもので、搭乗者の慰霊とともに道迷いが多いこの場所での道しるべの目的で造ったそうだ。


安達太良山山頂に人の気配があったので思い切りズームして撮ってみた。
数人の姿が見えた。


沼ノ平から続いている硫黄川沿いの源泉と湯の花の採取場を見下ろす。
これからあそこへ降りることに。


道は前方に見える岸壁の上についていてさも恐ろしげだが、実際には岩の上という意識などせずに歩ける。


道はこんな感じね。
岩から身を乗り出して下を覗かなければ大丈夫。


暫く進むと道が途切れる。
予備知識なしで来ると、ここで道を探して右往左往するであろう。昨年の管理人がまさにそうであった。


足元をよく見ると行き止まり部分に下へ降りる道が鋭角についていて、その先にいくつかの大きな岩が組み合わさった洞窟のようなものが見える。
それが胎内岩である。
ザックを下ろし身をかがめてくぐり抜ける。


胎内岩をくぐり抜けて振り返ったところ。
ビール腹の管理人でも抜けられたのでよほどの巨漢でなければ大丈夫でしょう。


胎内岩をくぐり抜けると硫黄川に向かって急降下となる。


ズルズル滑る砂礫の道を踏跡をたどって下っていく。


硫黄川が流れる川床へ降り、流れに沿って進む。
水は無色透明だがこれがとんでもなく辛い。硫黄性分のためだ。


斜面から水が流れ落ちているのを発見したのでこの水も試したがやはり刺激がある。
土壌が強い酸性になっているため地中を流れるうちに硫黄性分を吸収するのであろう。
あっ、管理人、別に飲料水が不足しているのでも喉が渇いているのでもない。
沢水や湧き水を見つけると味を確かめたくなるのである。


振り返って沼ノ平の方向を見ると全体が白く変色した山が見える。
季節が秋であれば早くも冠雪したのかと見間違えそうだがあれも硫黄ガスによって山肌が変色したもの。


麓の旅館に温泉を供給する木桶が見える。


無色透明だった流れはこのあたりまでくると温泉が交じり白濁している。


木桶の中を勢いよく流れる温泉。
60度もある源泉なので開放された木桶に流して湯温を下げると同時に硫黄性分を放出しているのだと思う。


ゴールとなる沼尻登山口へは2つの行き方がある。
硫黄川に沿って行く方法と左岸から斜面を上って一般ルートを歩く方法である。
昨年管理人は硫黄川に沿って歩いたが快適な道とはいえなかったし、一部危険な場所があった。
今日はこの斜面を上がって地図にある一般ルートに合流する方法にした。


硫黄川左岸から下を見る。


下草はきちんと刈られて歩きやすい。


昨日、往路でも見たツルリンドウがここにもあった。
細いツルで懸命にマイヅルソウに絡みついている。
数は少なくここで3株。やはり貴重な植物なのであろう。


蔓は細く、自立できない。
写真を撮るにも手で支えてあげなければならないほどだ。


コケモモの実


往路で歩いたコースと合流した。
左は船明神を経由して安達太良山へ、右へ緩やかな斜面を下っていくと沼尻登山口。


リョウブ


昨日も見た白糸ノ滝。


下山するには早い時間だがこれから日光に帰らなくてはならない。
18時には到着したい。
それから風呂に入って、反省会を兼ねた飲み会を行うつもりだ。
お相手はもちろんWさんだが。


二日目のルート


スタートからゴールまでのルート