那須連峰・三本槍岳へ初めてのルートで。

2019年3月18日 快晴

那須連峰の中で栃木県と福島県の境にある三本槍岳はその厳しそうな名とは違って、冬(といっても残雪期のこの時期)でも安全に登れる山だ。
その上、山頂はもちろんのこと、山頂に達するまでの長い稜線からは360度の展望があり、一度でも登ってみれば病みつきになること間違いのない山である。

管理人が初めて三本槍岳に登ったのは2017年6月だった。
茶臼岳、朝日岳、三本槍岳を核に南月山と白笹山、黒尾谷岳を加えた総称を那須連峰というが、火山特有の荒々しい山容に恐れをなしたのを覚えている。
一方では高山植物の宝庫でもあり、花好きにはたまらない。

那須連峰の核となる茶臼岳、朝日岳、三本槍岳を巡る順当なルートはここに書いた順番通りとなるが、冬は朝日岳が厳しくて進路を閉ざされてしまう。
朝日岳に行くことができないのであれば三本槍岳もダメなのか思っていたところ、管理人がメンバーになっているFacebookで、スキー場のゴンドラを利用することで可能であるとの情報を得た。
さっそく地図で調べてみるとなるほど、ゴンドラの終点から三本槍岳に向かって長い尾根(中の大倉尾根)が延びていることがわかった。
尾根の長さは3.7キロ、最大傾斜は20度となかなかのものである。でもこれなら朝日岳を経由しなくてもいい。
さっそく挑戦したのが昨年の3月のこと、下山でゴンドラの最終便に間に合うかどうかと言う一抹の不安はあったが、それは取り越し苦労に終わった→こちら

管理人の性癖というかなんというか、一度味を占めると同じ場所に続けてなんども行く傾向がある。次は時間を気にしないで、すなわちゴンドラを利用しないで三本槍岳に登りたいという一心で、スキー場から離れた場所を起点として三本槍岳に挑戦したのだ。
ゴンドラを利用しない分、距離は長く、時間もかかったが達成感はひとしおであった→こちら

そして今日。
ゴンドラを利用しない三本槍岳の第2弾として考えたのは、中の大倉尾根よりも北に位置し、福島県の赤面山と前岳を経て三本槍岳に達するルートだ。
ただし、不安材料がある。
前岳に登った後、中の大倉尾根と合流するのに30度もある急傾斜を横切らなければならないのだ。30度の斜面では足を滑らせたら止まらないし雪崩の危険もある。
そこで事前の計画では、前岳まで行ってみて、そこから先が地図で想像できるような危険地帯であれば引き返すことを選択肢に入れた。
もしも行けそうならあるいは、回避ルートがあれば先へ進めばいい。
それは現地に行ってみないことにはわからないことだ。

行程表(各地点は地理院地図と昭文社「山と高原地図」に基づく)
白河高原スキー場跡(8:12)~P1316(9:09)~自然の家分岐(10:14)~赤面山(11:13)~前岳(山頂不明)~大岩(13:45)~P1856(14:00)~三本槍岳(14:29)~P1856(15:12)~大岩(15:20)~中の大倉尾根~P1462(16:07)~県境南の尾根~県道290(16:48)~白河高原スキー場跡(17:18)
・歩行距離:15.8キロ(GPSログをカシミール3Dで処理した値)
・所要時間:9時間6分(写真撮影と休憩を含む)
・累積標高:1221メートル(アップダウンのうち、上昇分の累積)

5時45分に車に乗り込んで出発した。
だらだらぐだぐだ暮らしているとわからないが、日の出がずいぶん早くなったことを知る。
厳冬期に比べたら1時間は早い。
10時間を超える山歩きでも日没になる心配はなく、快適に楽しめるのがこれからの時期である。


2時間以上かかって今日の登山口となる旧白河高原スキー場(福島県西郷村)に着いた。
2時間以上の運転は年寄りには苦痛だが、少しでも面白いルートを歩こうとするならこれも致し方ない。


スキー場として稼働していたのは2000年の始めあたりまでらしい。
建物は当時のままで残っている。
しかし、窓ガラスはすべて割れ、荒廃ぶりが凄まじい。
もしも夜、ここを訪れたなら、建物の中から女性のすすり泣く声が、、、、


今日持参した道具はチェーンスパイクにアイゼン、スノーシューといった雪山の3点セット。
なにしろどんな状況なのかがわからないので万全を期したつもり。
ここでの雪は締まっているのでまずはチェーンスパイクを装着した。


リフトはそのまま残されている。


振り返ると西郷村が見えるのだが人家はどこにあるのかと思うほど、山また山である。
遠くに雪をかぶった美しい稜線が見えるがあの白さだと安達太良山に違いない。


2本目のリフト降り場。
人工降雪機もそのままの姿で残されている。


ここで標高1500メートル。
麓が1080メートルだから500メートルほど上ったことになる。
雪も深くなりチェーンスパイクだと潜るようになったのでここでスノーシューに履き替えた。


ところどころにシャクナゲが。
ここのはたくさんの花芽をつけていた。


お~、那須連峰が見えてきた。
中央が茶臼岳でその右に朝日岳が見える。


毎日強風、時おり烈風が吹くことで名高い茶臼岳。


尖った山は朝日岳


間もなく赤面山というところへ来て右(北)を見ると雪を抱いて真っ白な旭岳がすぐ目の前に見えた(ズームで)。


赤面山山頂
標高1701メートル、三等三角点がある。


ここからの展望は素晴らしいのひとこと。
那須連峰はもちろんのこと、安達太良山に磐梯山、旭岳がよく見える。


安達太良山
ここで地元のハイカーと出会ったので20分ほど話をして分かれた。


磐梯山をとらえたつもりがカメラを構える位置が悪く、左隅にきてしまった。
なにしろ天気が良すぎてカメラの液晶画面が見えないのだ。


次に目指すのはあの大きな斜面のピークだが地図によると尾根を上ってピークに立つのではなく、斜面の中腹を左へ横切って中の大倉屋根に出て、それからピークを目指すようになっている。
といってもなぁ、あの斜面を横切るのは怖くね?
ここは地図に道が描かれていないが安全策をとり尾根を上ることにしよう。
なお、事前の計画では赤面山の次に前岳という1702メートルのピークを通過するようになっているのだが、ここから見る限り、ピークらしきものは見つからない。
等高線で見ると1690メートルラインと1700メートルラインの間に閉じた等高線1700メートルがあって、そこが前岳なのだが見つからないのだ。
人の身体でいえば蚊に刺されて少し腫れている、という程度の起伏なので見つからないのだと思うが、国土地理院がなんでそんな小さな起伏に名前をつけたのか解せないところだ。


平坦部が終わって斜面に差しかかったが傾斜は35度くらいある。
スノーシューからアイゼンに替えた。


根を上げるほどの急傾斜。
その上、雪の下にはハイマツやシャクナゲが埋もれているので雪はブカブカ。潜って先へ進めない。
なるほど雪があるから歩けるようなもので無雪期は完全な藪であろう。
地理院地図に登山道がないわけだ。
ハイマツとシャクナゲをアイゼンで痛める結果となってしまった。


大岩に到着。
ここでマウントジーンズから続いている中の大倉尾根と交わる。


ここまで来れば三本槍岳はもうすぐ。
でもその前にこの大斜面を上らなくてはならない。
BCスキーのシュプールが付いている。
管理人、福島県の山に登るようになって知ったのだが、それはBCスキーの愛好家が多いと言うこと。この斜面に見るとおり、じゃまになる木々がないし雪崩の心配もない斜度なのだ。
スキーヤーが滑っている姿を見ると実に爽快そうだし快適そうだし、なんだか羨ましく思えてくる。


三本槍岳山頂を捉えた。


ふ~、やっとこさ登頂しただよ。
歩き始めて6時間17分は長かった。
女峰山でもこんなに長い時間かからない。


すぐ脇に流石山、大倉山、三倉山の山塊がそびえている。
ここでも飯豊連峰に磐梯山、安達太良山、白根山に男体山、女峰山など日光の山並みが見えた。


山頂は少し風があるものの三本槍岳特有の烈風ではない。
春の日差しの下、コンビニで買ったおいなりをほおばる。


25分という長い休憩をとった。
間もなく15時。日没にならないよう下山するとしよう。
厳冬期の名残で木々の枝には氷の付着、「海老の尻尾」があちこちで見られた。


この時期の三本槍岳は、マウントジーンズスキー場からゴンドラで1400メートルまで上がって、そこから中の大倉尾根を歩くのが一般的だ。
しかし、それではあまり面白くないし、ゴンドラの運行時間が決まっているので時間の制約をうける。
そこでゴンドラを利用しないで三本槍岳まで行くことはできないものかと思って挑戦したのが昨年3月である。→こちら
そして今日はそれとは別のルートを探し当て、挑戦した次第だ。
道標にあるスキー場の方へ少し歩いたら、尾根を下って県道に降り立つことができる。


尾根を下りながら県道に向かっているのは間違いないのだが、昨年歩いた尾根とはなんとなく違っていることに気がついたのはずいぶん歩いてからだ。
まっ、いっか。方角に間違いはないし。
いや、実は方角を修正するなどという気持ちの余裕がなかったのだ。
下山を始めて30分くらいして、GPS代わりに使っているスマホがないことに気がついた。おそらく山頂で休憩したときだと思うが、ザックの腰ポケットに入れておいたスマホがないのだ。
探しに戻ろうとすれば往復1時間半はかかる。日没は間違いない。
葛藤した挙げ句、今日のコンディションであればスマホは雪に埋もれることはない。
明日だ、明日もう一度くれば必ず見つかるはずだ。
そう無理やり納得させて帰路についたのだが自分の不甲斐なさに無性に腹が立ち、疲労感がどっと出てしまったのだ。


こんなところへ降りてしまった。
計画していた場所より1キロも離れているではないか。
県道を1.5キロ歩くつもりだったが1キロ余計に歩くことになってしまった。


ここは栃木県と福島県の県境。


無事に戻ることができ、ひと安心。
これからまた2時間以上かけて日光に戻ることに。