前白根山の予定が白根山まで。3月にしてこれは夢のようで罰があたりそう(笑)

2016年3月8日(火) 天候:快晴
07:20/湯元温泉スキー場~07:55/リフト降り場~09:08/外山鞍部~09:54/天狗平~10:37/前白根山~11:14/避難小屋~11:34/白根山東斜面取り付き~13:00/山頂~14:31/避難小屋~15:14/前白根山~15:41/天狗平~16:05/外山鞍部~16:51/リフト降り場~17:12/スキー場

参考:当初の予定(登山計画書より)
7:30/湯元スキー場~9:30/外山鞍部~10:30/天狗平~11:30/前白根山~13:00/天狗平~14:00/外山鞍部~16:00/スキー場

前白根山、標高2373メートル。
百名山として人気がある白根山(別名、奥白根山)の東に位置し、麓からゴンドラで一気に2千メートルまで登れてしまう白根山に比べると、いくつかある登山口のどこから登ってもアプローチが長く、それに急登が避けられないという、じつに厄介な山である。
白根山の人気に隠れて登山者は少ないが、この山頂に立つとそこからは群馬県や新潟県、福島県の山々が目に飛び込んできてハッと息をのむ。
すぐ目の前に猛々しい白根山が、眼下には深い藍色の五色沼が広がり、登山者を釘付けにしてしまうほどの展望だ。管理人ならずとも、一度登ると病みつきになる山である。

7月の白根山と五色沼

今日は無雪期を含めて4・5回、歩いたことのある湯元スキー場から外山鞍部、天狗平を経由して山頂に至る、夏季であればもっとも一般的なルートを選んだ。
ただし、2日に下見を済ませてあるとはいえ、外山鞍部から先は未知であり不安はぬぐえない。

春特有の目まぐるしく変化する天気に翻弄され1週間先の山歩きの予定を組もうにもそれができない。この季節の週間予報は当たらないのでやむなく、前日の予報で翌日、山へ行くかどうかを決めることにしているのだが、ネットの天気予報ふたつを見比べても8日は晴れるのは間違いないらしい。そして9日以後 は再び雨マークが続いている。
管理人がよく利用する奥日光・三本松茶屋の気象観測計によると気圧が上昇している。晴れる兆候を示している。
よし、8日がチャンスだ。
8日を逃したら数日、山登りの機会はやってこないと思え、そう自分に言い聞かせた。
その機会が訪れた。
予報によれば天候の急変はないようだ。気温も上がりそうだ。
今の雪質であれば雪崩の心配はない。

今月2日、前白根山登頂を目的に、下見のために1.3キロ手前の外山を訪れて雪の感触を確かめたのだが3月初旬すなわち、奥日光では真冬、とは思えないほど雪が少なくそれは5月の残雪レベルと言ってもいいくらいで、これなら前白根山も不可能ではないと確信を得て帰ってきた。

管理人、いわゆる屈強な山男とはほど遠く、どちらかといえば虚弱かつ非筋肉質(^^)なので、腰まで潜る新雪をラッセルしながら前進するなどといった重労働向きの身体ではない。雪の上を足取り軽く、ピクニック気分で歩くのが好き(^^)。
2日の下見の通り、5月の残雪のように雪が締まってスノーシューで歩いても潜らないくらいであれば、ピクニックができるかも? そんなに甘くはないか(笑)

もしも今日、うまい具合に前白根山に登頂できたら、、、、来週はこの冬の最終課題となる白根山に挑戦する、そんな目論見をいだいての出発であった。


06:37
いろは坂、明智トンネル入口付近から眺める朝日。日の出からずいぶん経過している時間だが、雲海上の太陽は今日の管理人の気力を引き出してくれそうだ。


中禅寺湖の湖面は波ひとつなく、立ち上る水蒸気の向こうに朝日に照らされた社山(しゃざん)がじつに美しく映る。


07:20
前白根山の起点となる湯元温泉スキー場に着いた。雲ひとつない青空。
正面に見える山は湯元の別の登山口から五色山に至る「中ッ曽根」でその左に見える白い山が五色山の稜線。


登山道はスキー場のゲレンデの中に敷設されている。スキー場はまだオープン前なので誰もいない。
五色山がはっきり見えてきた。


荒れたゲレンデを圧雪、平らにならす作業がおこなわれている。


ゲレンデも終わりに近くなり、登山口が見えてきた。人の姿がふたつ。
ここから目指す山は前白根山か白根山、五色山しかないので狙いは管理人と同じなのかもしれない。
追いついたので挨拶すると、なんとガイド仲間のMさんであった。非番を利用して白根山に登るそうだ。もうひとりはMさんの山仲間で那須在住のAさんであることを知った。
前白根山まで同じルートを歩くことになるが、単独行動を基本とする管理人は先に行かせていただいた。


07:55
標高1680メートルの登山口。
いよいよこれから外山鞍部まで、標高差480メートル、斜度30度の急登が始まる。
この斜面で疲れてしまうようではその先に進めなくなってしまうので、足に負担をかけないようゆっくり登らなければならない。
今夜の晩酌はなににしようかな、そんなプラス思考(ぜんぜんなってない・笑)で登っていく。


先週2日はアイゼンで登ったがそれから1週間後の今日、雪は間違いなく少なくなっているはずなのでチェーンスパイクで登ることにした。


雪解けはずいぶん進んだ。
雪に埋もれていたガレが露出している。


木の根も地肌も、笹も露出している。


7月の開花を待つイワカガミ。


シャクナゲも蕾を付け、開花を待っている。


相変わらず急登が続くが考えることと言えばやはり今夜の晩酌(笑)
いや、冗談で言っているのではなく、このような単調なルートを歩くような場合、山と関係のないことを考えることで苦しみから逃れるのがもっともふさわしいのだ。
あまりにもハードな行動ゆえに自分のしていることが馬鹿らしくなって、笑い出してしまうことがある。これも苦しみから逃れるためのヒトの生理だ。


直登からトラバースに変わって外山鞍部に近づいたことがわかる。


09:08
ふ~、着いた~。
標高2160メートルの外山鞍部だ。登山口から1時間13分、前回は1時間50分かかったから大幅な短縮。
理由は雪解けが進んだから、という単純なもの。チェーンスパイクにして身軽に歩けたという理由もあるかな?
ここで倒木に腰をかけて行動食を口にしているところにMさんとAさんのご到着。


外山鞍部から眺める前白根山への稜線。積雪期に眺めるのはこれで三度目。なだらかで美しく、我が憧れの稜線だ。
しかし、ここを歩くのは今回が初めて。心踊る一瞬であった(と、過去形で書いておく)。


ここまでの雪とは異なりやはり2千メートル超えの雪は深い。
積雪量でいえば1メートルくらいだろうか、寒暖を繰り返しながら雪質は劣化していき、足を乗せると膝まで潜る。それはまったく予測できないので困る。体力を奪われる雪である。


葉が落ちたダケカンバの林の中を開放的な気分に浸りながら歩いて行くと間もなく、天狗平だ。


09:54
外山鞍部から33分。天狗平に到着した。
少し間を置いてMさん、Aさんが到着。
前白根山まで残り850メートル。天気の急変や大きな雪崩でもない限り、前白根山は確実となった。


天狗平は地図ではわからないが広い平面になっていて、樹間から五色山がのぞける。
MさんとAさんにはここまで亀足の管理人が前にいることでさぞストレスになったことでしょう(^^)


天狗平からMさんとAさんが先を行き、その数メートル後ろを歩く。


前白根山に近づくにつれて白根山が全貌を現す。
それにしても雪が少ない。すでに山肌が見えてしまっている。5月の白根山かと見間違えるくらいだ。


ここを乗り越えると前白根山山頂。
斜面は南に面し雪解けが早いのと、常に強い風に晒されているために山肌に雪が着かないのであろう。


これだものなぁ。
一方向から強い風が吹きつけるのがわかるというもの。


10:37
前白根山山頂に到着。
整理してみると、登山口~1:13~外山鞍部~0:33天狗平~0:37~前白根山という具合で、所要時間は休憩を除いて2時間13分だった。
実は当初、ここまで4時間の計画を組んでいたので、山頂到着は11:30を予定していたのだ。
無風、快晴、温暖という好条件に恵まれたとはいえ、予定より1時間も早く到着したことに満足するとともに、気持ちに大きな余裕が生まれた。


前白根山山頂から眺める白根山と全面、凍りついた五色沼。噴出した溶岩で成り立つ白根山の山容は荒々しく、雪が少ない今年は特に、これぞ山、という感じがする。
管理人の目的はこれで達した。ここまで来られたことに大いに満足すべきだ。
だが、これからあの白根山に挑むというMさんとAさんを横目に、単独行動を基本とする管理人の精神が破綻した。お願い、アタシも連れてって~、と(笑)


というわけで、この時期に白根山に登れるという好条件など二度はないはずだし、冬山をなんども経験しているMさんとAさんがいることの安心感もあって、果敢というか無謀にもおふたりの後ろについて、管理人も白根山に登ることにした。
とはいえ、Mさん、Aさんとは二回りも違う高齢の管理人ゆえ、おふたりの足を引っ張らないようそこは十分に心しなければならない。
それにこの雪の深さだし、ついて行けるだろうか?(笑)


前白根山山頂から白根山に行くには一度、ガレ場を降りて白桧岳への稜線を登り、それから避難小屋へ向かって急降下してようやく、白根山に取り付くという難行だ。
振り返ると中禅寺湖が視界に入り、多少の慰めになる。手前の稜線がこれまで歩いたところで、稜線右の出っ張りが先週登った外山(2204M)。
先ほどは外山の少し下からこちらに向かって歩いてきた。


白桧岳への稜線に避難小屋へ導く道標があり、ここから急降下して避難小屋、避難小屋を左に見ながら進むと、白根山の取り付きになる。
ちなみに道標から先、地図に道はないが白桧岳まで素晴らしい展望が得られ通好みの歩きができる。
管理人の今年最大の目標は白桧岳の先に聳える、錫ヶ岳だ。


11:14
前白根山から30分で避難小屋に到着。正しくは五色沼避難小屋と呼ぶ。
管理人、ここまでMさん、Aさんと相前後してきたが、それはここまでは単独行のつもりだったからだ。だが、ここから先はこれまでと違って、Mさんのリードで歩く。
そのためチェーンスパイクをアイゼンに換えた。チェーンスパイクの可能性を試すためにこのまま白根山に登ってみたい気もしたが、なにかあったらMさんとAさんに多大な迷惑をかけてしまう。アイゼンに換えたのは妥当というか、当然の判断であろう。


1階の出入口は雪に閉ざされて開かないので、2階の窓を開けて中を覗く。内部はきれいとは言えないがきちんと整頓されていて利用者のマナーの高さがうかがえる。
天候がいつ急変するかわからない冬山にあって、炊事設備も寝具もトイレもない無人の小屋だが、その存在は欠かせない。
先週2日は吹雪で白根山を断念して、この小屋で一夜を過ごしたという男性と出会った。
管理人も今年はここにお世話になるかもしれない。


避難小屋をあとに白根山の取り付きへ向かうMさんとAさん。その後ろをノコノコとついていく管理人。
避難小屋前のこの道は地図には凹地の記号として表されている。
白桧岳や錫ヶ岳に行くには元の稜線に登り返して先へ進むより、ここをまっすぐ歩いて行く方が手っ取り早い。
管理人、ずいぶん白桧岳や錫ヶ岳にこだわっているが、こうすることによって今年の目標に向かって自分を追い込んでいるつもり(笑)


白根山山頂を見上げる。
白根山には過去10回くらい登っているが、こちら側から登るのは実は初めての経験。
なぜなら、一般的な登山口となる「菅沼」から登った方が楽だからという理由。こちら側は急登なのだ。


山頂から吹き下ろす強い風により、幼木の頃から幹が斜めに成長したダケカンバ。
自然の驚異を目の当たりにしているようですな。


35度を超える傾斜に、安全のために雪が浅い岩場側を歩くMさん、Aさん。


岩場から離れるとご覧の通り、膝まで潜る雪に悩まされる。ところによっては太腿まで埋もれてしまう。
管理人はおふたりと比べれば体重が軽いとはいえ、ザックを加えると65キロは超えるからやはり潜る。


顔から汗が滴り落ちるほどの気温に、雪解けも加速がついて山肌に流れができている。


斜面の急登が終わると火口に達する。
森林限界も超え、生えているのは草のみ。


山頂へは火口をぐるりと回って到達する。山頂らしきピークが見えてきたが、山頂はあれではない。
それほど複雑な地形が白根山の特徴なのだ。


火口にある奥白根神社。
ここからガレ場を下って登り返してようやく頂上。


最後の急登。
あと数分といったところ。


山頂、とらえた!


13:00
歩き始めて5時間半。ついに3月の白根山山頂に立てた。まるで夢のよう。
好条件に恵まれたと同時に、偶然出会ったMさん、Aさんの後押しがあったとはいえ、まさかこの時期に白根山に登頂できるとは思ってもいなかったので感無量だ。
ここまで来られたことに、おふたりには大いに感謝いたします。


見慣れた燧ヶ岳が今日はやけに近くに見える。これも気分のせい?


13:57
火口部分から離れて避難小屋に向かって、往路で踏跡の付いた上を慎重に下る。


下っている途中で横を向いたところ。この斜度、40度くらいあるだろうか?
いまこの急傾斜を下っていると思うと怖くもありまた、充実感もある。
ただし、そのような感じを得られるのも雪山を上り下りするための装備を整えているからだし、数少ないとはいえ冬山経験があってのことだ。
実は山頂をあとにしてこの斜面の始まりまで来てすぐ、20代と見られる男性ふたり組が登ってくるのが見えた。ハイキングシューズだがアイゼンを付けていない。滑落を防止するための重要な道具であるピッケルも持っていない。服は防水ではないのでびしょ濡れ。手袋を着けていない手は真っ赤になっている。
山の雑誌から飛び出したかのような若い人が多い中で、このふたり組は異色であった。街を歩く格好と同じなのだ。
山は多少、難易度が高くても頑張れば登れてしまうのが怖いところだ。若さゆえ、恐怖感など抱いていないのかもわからない。しかし、無防備でこの斜面を下ろうとすればどうなるか、目に見えてわかる。といって、私たちに手助けできることはなにもない。Mさん、Aさんがしきりに説得をしている。この斜面を下るのは死を意味する。下るなら傾斜の緩やかなゴンドラ駅に向かいなさい、と。
そこで別れてふたりは山頂へと向かったがなんだか気にかかる。何ごともなかったことにしておきたい。


無事に避難小屋を通過して次に前白根山への稜線に出たところ。
しばし快適な稜線上を歩いて最後にガレ場を急登すると前白根山に戻る。


今日、二度目の前白根山山頂。
振り返ってもう一度、白根山を見る。あの猛々しい山に登って、降りてきたのだ。


山頂にある「界甲」。数字は四五二と読める。
界甲の石柱はここが旧宮内省の御料地だったことを表していて明治期に敷設されたらしい。数字は標高を示すものではない。
4年前、管理人が白桧岳を目指したとき、界甲の所在を調査しているというお役人と出会ったことがあり、そのとき初めて界甲の意味を知った。日光には多くの界甲が存在するらしいことも聞いた。
興味があるなら、管理人が出会った人とは別人とは思うが次のホームページが参考になる→こちら


15:41
天狗平の道標を左に見て、、、


16:05
外山鞍部まで順調に来た。
あとはここからスキー場までひたすら急降下する。


登りではそれほど厳しく感じなかったが疲れた身体にこの急傾斜はきつい。


17:12
ゲレンデに辿り着き、10時間近い山行が無事に終了した。
Mさん、Aさんに厚くお礼を述べてここで別れた。


前書きの続き
いつもならここに山行の印象やら感想を書くところ、前書きに書き足りないことがあるので分割して記載。

今月2日に前白根山への通過点となる外山鞍部まで来て、前白根山への感触を確かめた。この雪の量と雪質であれば前白根山までなら日帰りが可能であろうというのが、そのときの印象であった。
その実行日が今日8日であった。「晴れ」の週間予報は数日前から変化なく、その前後は雨マークだった。

4時半にかけた目覚まし時計の通りに起き昨夜のアルコールが残っていないかどうかを血圧計で確かめ、問題ないことがわかると昨夜のうちに作っておいたチャーハンを電子レンジで温めて食べ、それから歯を磨いて顔を洗い、トイレを済まし着替えて家を出るといった、日頃の山行となんら変わらない行動ができたのは気持ちに焦りがない証かもしれない。
2400メートルに近い山へ登るのに気負いは禁物である。パッキングは昨夜終わっていて、積み残しがないかどうかの再確認も済ませてある。食料は昨夜コンビニで調達し、これもザックに収まっている。
体調は悪くない。前回の山行は先週4日だったから休養に3日充てその間、体力も気力も、今日に照準を合わせて調整してきた。

精神論になってしまうが、ハードな山に安全に登るには強靱な体力と冷静な判断力が求められるのはもちろんだが、体力と判断力を十二分に引き出すには気力が大切だと思っている。
萎えた気持 ちで山に挑戦すると体力をうまく引き出すことができないし、間違った判断をしてしまう。体力と判断力と気力とは密接な関係があり、どちらか一方が欠けても山では命取りになる。もともと体力に劣る管理人は、気力を大切にしている。

朝日が昇るのを見られたのは幸いだった。今日これから、管理人が山を登るのを暗示するかのような明るさであった。中禅寺湖の向こう岸の、朝日に映し出された社山は実に美しかった。
今日の山行に合わせて気力を蓄えてきた上に、自然の美しさを得て、十分な気力が備わったのはいうまでもない。
こんな日を自分で選べるなんて、そしてこんな日に山に登れるなんて幸せ者としか言いようがない。年をとって、自分でもいい人生を歩んでいるように思う。これも自然のおかげ、山があるおかげ、と今日の管理人は妙にspiritual。年とってとうとう精神世界の境地に入ったか(爆)