今になって豪雪。前白根を目指すも雪深く、潔く撤退。

2019年3月15日(金)

爽快な気持ちで撤退した。

目標とした前白根山に行くことはできず、さらには通過地点の外山鞍部にさえも到達できないまま、スキー場から歩き始めて3キロ、登山道に乗ってからはわずか1.5キロ歩いただけで撤退することになったが、目標に達することができなかった未練はなく、悔しさもない。
山の厳しさが我々の技量を上回っていたのが事実であり、それにいち早く気づいた我々の判断が正しかったゆえに無事に帰ってくることができたという満足感が今回の山行の大きな収穫であった。
再挑戦の条件は我々が技量をアップするように研鑽するかあるいは自然が牙を収め、もっと優しくなってからにするかのどちらかである。選択肢はもちろん、後者である。

登山ガイドの常連客であるT.Hさんから、今年最初の登山ガイドの依頼があったのは先月の16日。希望日が今日、15日であった。
異例とも言える冬の大雨によって地肌が剥き出しになった山並みは3月になっても変化はなく、これならチェーンスパイクによる残雪登山が楽しめるかもしれないという期待があった。
これまでも数回、T.Hさんには日光の雪山をガイドしてとても満足してもらったことがあるので今回もそのつもりだった。

今月4日、日光市街に降った大雨は山に雪をもたらせたらしく、久しぶりに山並みを白一色に変えてくれた。地元紙のネットニュースによると14日にも山間部で15センチ、平野部でも5センチほどの雪が降るとのことだった。
管理人が主催するスノーシューツアーは雪不足のため先月23日を最後に幕を閉じたので、今さら再開する気にはなれないが、自然界のためにも雪不足を補う例年並みの「雪」は大歓迎である。
とはいえ市街地はおろか管理人が住む標高820メートルの高原に一片の雪も降らなかったことから見て、山間部も大した積雪にはならないであろうというのが管理人の予測であった。

今日のルートは湯元温泉スキー場の外れから登山道が始まり、外山鞍部を経て前白根山に至るのだが管理人、過去にも同時期に同じルートを歩いたことがあって、深い樹林帯の中の登山道は沢筋と違って積雪が少ないというのをそのときの経験で知っている。

4日と昨日降った雪の量がどれほどなのか見当がつかないまま歩き始めたわけだが、結果はすぐに現れた。

行程表(計画時)
湯元温泉スキー場(8:00)~2.68k/150分~外山鞍部(10:30/10:40)~0.66k/50分~天狗平(11:30/11:40)~1.14k/50分~前白根山(12:30/12:45)~1.14k/40分~天狗平(13:25/14:35)~0.66k/30分~外山鞍部(14:05/14:15)~2.68k/130分~湯元スキー場(16:25)

・歩行距離:5.6キロ(GPSログをカシミール3Dで処理した値)
・所要時間:4時間26分(写真撮影と休憩を含む)
・累積標高:703メートル(アップダウンのうち、上昇分の累積)

風が冷たく感じるものの空に雲ひとつなく絶好の雪山日和になった。
湯元から前白根山に行くには湯元温泉スキー場が登山口になる。
ゲレンデ入口には降ったばかりのふかふかの新雪が積もっている。


ゲレンデはキャンプ場にもなっていて、その季節になれば大賑わい、、、ということはなく、テントはまばら。静かなキャンプが楽しめる。
あの三角屋根は炊事場。


登山届けを提出。
予定では16:25にここへ戻ることになっている。
8時間20分の行程は長いが積雪時はこんなもんでしょう。


まだ営業前のスキー場はリフトも稼働していないしスキーヤーの姿もない。
スキー場の奥行きは1.5キロメートル、標高差は210メートルある。
リフトに乗って移動するならこの標高差を意識することはないが、歩くと結構な傾斜であることがわかる。
身体は春の日差しで汗ばんでいる。登山道に差しかかる前に中間着を脱いで身軽にした。


ゲレンデは圧雪されているため雪の厚さがわからなかったが、登山道に変わると膝まで潜ることがわかった。
出かける前、雪の量はせいぜい10センチくらいと見ていたが読みが浅かった。斜面の吹き溜まりには新雪が50センチほど積もっている。
ここでチェーンスパイクだったのをスノーシューに換えた。


登山道は今は使われていない上級者コースの脇を通る。
傾斜は30度くらいあるだろか?


潜る潜る。
登り始めるとすぐ、苦戦が始まった。
ゲレンデと登山道との境目では膝までの雪だったが、登山道だと膝上まで潜る。
足を前に出そうとして片足に体重がかかるとさらに深く潜る。
スノーシューで周りの雪をかき集め、踏んで圧雪する。これを何度も繰り返しながら潜らないよう足場を固める。それで初めて足を前に出せる。
そんな動作の連続なので、足を一歩前に出すのに雪が深い場所では数分かかる。遅々として先へ進めない。
管理人が先頭に立って歩いたので雪は踏み込んであるが、それでもT.Hさんは苦戦している。


傾斜はさらにきつくなった。35度はある。
外山鞍部へ向かうこの尾根は至る所に段差があって、無雪期でも歩きにくい。
段差は大きいので1メートルくらいある。今日は新雪がその段差を隠している。段差にはまってしまうと抜け出すのに大変な労力を必要とする。
そのためポールを挿して段差の大きさを確かめながら歩かなくてはならない。
スノーシューも限界になった。ここでアイゼンに換えた。


再び歩き始めてみたものの、35度もある傾斜は厳しすぎた。
時計を見ると歩き始めて3時間が経過した。
歩き始めてからの距離はまだ3キロメートル。
登山道の始点からだとわずか1.5キロ歩いたに過ぎないが、2時間20分も費やしている。500メートル進むのに1時間弱かかる超スローペースである。

前白根山は諦めざるを得ないと判断したが、せめて外山鞍部までは連れて行ってあげたいものだ。
現在地から外山鞍部まであと1キロ。標高差で言えば310メートルしかない。
傾斜はきついが無雪期であれば40分といったところだ。
しかし、今日これまでの状況から計算すると2時間あるいはそれ以上かかるのは明かである。
13時には着くとしても、この重労働を2時間もT.Hさんに強いれば体力を使い果たしてしまうだろう。
外山鞍部まで行けたとしても、次は余力がない状態で下山しなくてはならないことを考えると、これ以上先に進むのは無謀といえる。
余力をたっぷり残して安全に下山する、その鉄則は譲れない。
ここで撤退を決めた
管理人の判断にT.Hさんは笑顔で頷いてくれた。
自然の厳しさには抗えないことを知っているのだ。


下りは上りよりも慎重にならなくてはいけない。
段差だらけの斜面を下るため、安全第一を考えて上がってきた踏跡に忠実に歩んでいく


ようやく登山道の始点まで下ることが出来た。
これから先はスキー場になるので何の心配もいらない。
とはいえ、吹き溜まった雪の上にアイゼンを乗せると太ももまで潜ってしまい、身動きがとれなくなることが度々であった。


朝と同じようにゲレンデ内を歩いて行くがアイゼンは外した。


ゲレンデの下部まで来ると正面に男体山その手前に湯ノ湖が視界に入る。


自らの判断で撤退したのでその判断の正しさに気分は晴れやかだった。
時間が余った。
晴れやかな気分のまま蓼ノ湖に行ってみることにした。
車の置き場所を移してランチタイム。
T.Hさんは定番のカップ麺、管理人はランチパックで空腹を満たした。


温泉の源泉まで行き、そこから金精道路へ上る。
ここから冬道を下って蓼ノ湖に向かう。


厳冬期は水の流入部分を除いて結氷する蓼ノ湖。
気温の上昇で氷もだいぶ解けて水面が広くなった。

蓼ノ湖に佇むT.Hさん。
神秘的な光景にきっと感激しているのだろう、微動だにしない。
とはいえ、あまりにも長い時間、同じ場所に佇んでいるので不審に思って声をかけてみた。
「私、泳げないし、水が怖いんです」、こと山に関しては果敢に挑むT.Hさんから意外な言葉を聞いて驚く管理人なのである。
ちなみに蓼ノ湖は深いところで膝までの水深(見た感じ)なのでおぼれ死ぬことはありませ~ん。