山でバテないために山での食事について考える・・・その1(山で消費されるエネルギー量について)

師走で忙しいのは師だけではないようで、凡人たる管理人も忙しい。
金策に走り督促の支払いに走り薪集めに走り館内の掃除で廊下を走り、週明けには積雪の状況を見に奥日光まで走らなければならない。あわよくば金精道路閉鎖前に白根山にも行きたい。

そんな具合なのでいい天気に恵まれた今週、山歩きもできず悶々としている。だからせめて、頭の中だけは山のことで満たそうと思って細切れの時間を利用してブログを書いている。今年、空腹で生死の境をさまよったことを反省しながら(^^)

自動車は燃料のガソリンが空になった瞬間にまるで故障でもしたかのようにパタッと止まって動かなくなるけれど、人間の場合は食べ物を口にしなくても水さえあれば1週間くらいは生き延びることができるそうだ。
ただし、その場に身じろぎせずじっとしていること、身体の保温に努めることといった条件の下でだ。

それくらい生きられるなら山歩きの際に食事なんかしなくても大丈夫じゃないの、といったお馬鹿な人がいて(管理人のことね)、これは別に意図してやったことではないのだが見事に“ハンガーノック=しゃりバテ”を起こして、ガス欠した自動車のようにその場で身動きできなくなったことがある。
いや、自動車のようにまったく動かないというのではなくて頑張ればなんとか身体は動く。ただ、足がふらふらと千鳥足状態でまっすぐ進めない。2・3歩、歩いてはまた動けなくなる、それの繰り返しだ。歩き始めて20キロを超えた登り斜面でであった。
このままここで野垂れ死ぬのかという危機感に襲われたが、ここは戦場ヶ原から2キロと離れていない、奥日光で唯一の低山、高山なのだ。人目に付くから空腹で野垂れ死ぬなどというみっともないマネはどうしても避けたいと思った(^^)

あれこれ考えを巡らせたところ、エネルギー不足が原因であることに気付いた。そういえば朝は出発までの時間を惜しんだため食事はシリアル50グラムに牛乳200ミリという粗食だったし、昼食は菓子パンを1ヶ半しか食べていない。摂取エネルギーでいえば朝昼と合わせて900Kcalと少ない。
前夜の夕食分のカロリーが体内に残っているとはいえ、当日、900Kcalだけで20キロを歩き通せばエネルギーが枯渇するのは当然である。
怪我による空白から復帰するとそれまで溜め込んでいた欲求が爆発したかのように長距離、長時間の山行が多くなり、エネルギー消費も大きく増えた。ハンガーノックは起こるべくして起こった、そのように考えている。でも食べたら元気になって山を駆け下りましたよ(^^)
そのへんの経緯はこちらで。

冒頭に水だけで1週間くらい生き延びられると書いたのは、飢餓状態にあって命をつなぐための身体の機能が働いたためであり、その機能は生きるか死ぬかの瀬戸際という、非常時に限って働く。そのときになって初めて、何も食べていなくても脂肪が命をつないでくれる。
通常なら脂肪をエネルギーとして使うにはそのための栄養素が必要なので、その栄養素が枯渇してしまっては脂肪はエネルギーに変換されない。
健康な人が運動もせず、食事の代わりに脂肪をエネルギーにしようと思っても、そう簡単に非常時の機能は働いてくれない。

DSCF5838山ではどれくらいのエネルギーを摂ればバテないのか。本を引用しながら考えてみることにした。
山を、苦しまずにもっと楽に登りたいという気持ちは誰にも共通しているはずだ。そのためには体力作りはもちろんだが体力を有効に利用するための知識も必要だと思う。
知識は本から吸収するのがもっとも手っ取り早いと思うのでこの種の本はけっこうな数、持っていて、風呂場やトイレに持ち込んでは拾い読みしている。

結論を急ぐと、山で必要なカロリーは次の式で算出できるとある(カッコ内は単位)。
式Ⅰ
消費エネルギー=運動強度(メッツ)×時間(h)×体重(kg) ・・・山と渓谷社・芳須勲著「もっと登れる山の食料計画」から
※山登りの運動強度は7.3メッツ(荷物の負荷も含む)に固定、時間はガイドブックを参考にする。

昨年の10月、管理人が初めて古賀志山を歩いたときはガイドブックにも紹介されている一般ルートを利用して4時間15分(4.25時間)かかったので、式Ⅰによって消費エネルギーは、7.3×4.25×55=1706Kcalと計算できる。オニギリ1ヶが180Kcalとすれば9.5ヶ必要。1ヶ300Kcal(1袋で)の菓子パンだと5.7ヶ必要ということになる。
ただし、1706Kcalをすべて山での食事で補わなくてはいけない、とは言い切れない。
朝食は登り始める前に食べたし食事をしっかり摂れば脂肪がエネルギーに換わる。家に帰ったら風呂に入って旨いビールを飲みたいので下山終了時は空腹でもいい。だから1706Kcalすべてを山で食べる必要はないと思っている。
実際に必要とされるのは上式で計算された消費エネルギーの7~8割くらいということになるのだろうか。仮に8割だとすれば1706Kcal×0.8=1365Kcal(オニギリ7.6ヶ、菓子パン4.6ヶ)が実際に山で食べる分、ということになろうか。が、ここでは計算上、それは考慮しないことにする。

ところで、上に紹介した計算式だと歩く距離や高低差が考慮されていないような気がして、管理人には少し物足りないと感じた。平坦な道を6時間歩くのとアップダウンの激しい道を6時間歩くのとでは疲れ方が違う。その場合、運動強度を7.3よりも大きくして計算し直せばいいのかもわからないが、その指標がわからない。

もう少し実態に即して細かく計算する方法はないものかと探したところ見つかったのが、地球丸・安藤真由子著「登山体をつくる秘密のメソッド」だ。
消費エネルギーの計算式として次が紹介されていた(項目名は少し変えてある)
式Ⅱ
消費エネルギー=(体重+靴などを含む携行品の総重量)×(1.8×行動時間+0.3×水平歩行距離+10.0×累積上昇距離+0.6×累積下降距離)
なるほどこれはいい。ちゃんとアップダウンが考慮されている。
が、、、水平歩行距離やら累積上昇距離やら累積下降距離といったものをあらかじめ把握しておかなくてはならず、電卓だけでできる計算ではない。
そこで本の巻末には山ごとに計算された値(本ではルート定数)が一覧で掲載されている。
が、、、ここで悲しいのは本には信州の山しか出ていないのだ。信州以外は自分で計算するしかない。

管理人はカシミール3Dという地図ソフトを使っているので予定とする山の歩行距離も累積上昇距離も累積下降距離も、わずかな操作で算出できるが、ソフトを使っていない人にとっては厳しい作業ではないかと思う。といって、著者に代わって計算して差し上げるというのは無理なので興味のある人にはカシミール3Dの利用を強くお勧めします。フリーソフトですが素晴らしい。
参考までにカシミール3Dはソフトも無料だけど国土地理院の地図も無料で使える。

151216-2初めて歩いたときの古賀志山のGPSデータをカシミール3Dに落としてみると、往復距離9.3キロ、所要時間4時間15分、累積標高(上昇)749メートル、累積標高(下降)749メートルなので、これを式Ⅱに当てはめて計算してみた。
その結果、
式Ⅱだと消費エネルギー=65×(1.8×4.25+0.3×9.3+10×0.749+0.6×0.749)=1195Kcalと計算された。

式Ⅰの1706Kcalに比べてずいぶん低い値となった。これだとオニギリ6.6ヶ、菓子パン4ヶになる。
式Ⅰと式Ⅱ、どちらが正しいのかは、それぞれの計算根拠が異なるのでなんとも言えない。どちらか一方を信じて使い続けるのが最善であろうと思う。管理人は経験上、式Ⅱに1票。
1195Kcalのうち、山で補う分として式Ⅰと同じように8掛すると956Kcal(1195×.8)だからオニギリ5.3ヶ相当だ。

上に挙げた実例は昨年10月27日の管理人の古賀志山初体験のデータだが、この日の昼食は古賀志山山頂で食べた。時刻はちょうど12時30分だったから自宅での朝食が終わって4時間後の昼食ということになる。
で、ここで考慮すべきは古賀志山は近いので登山口に着いたときは朝食で摂ったエネルギーがまだ十分残っていて元気よく歩き始めることができたのだが、大切なことは昼食までの間にエネルギーをどれくらい消費したかであろう。
そのときのGPSデータをカシミール3Dで見ると、古賀志山山頂に着いたときは歩き始めて2時間、スタート地点からの距離は4.5キロ、標高差364メートル、累積標高(上昇分)574メートル、累積標高(下降分)210メートルだった。山頂に向かって登っているのに累積標高で下降が出てくるのは、登りながらも若干のアップダウンがあるからである(上図参照)。

これらの数値を式Ⅱにあてはめて計算してみると、
消費エネルギー=65×(1.8×2.0+0.3×4.5+10×0.574+0.6×0.21)=703Kcalとなった。
先ほどと同じように食べ物に換算するとオニギリ3.9ヶ、菓子パンだと2.3ヶ分だ。
いま思い出してみるとまさに菓子パン2ヶとスポーツドリンクの昼食だったような気がするので、計算式と合致していたようだ。

ところで、ひとは寝ている間にもエネルギーを消費している。
息を吸って吐く、心臓を動かす、内蔵を働かせる、体温を維持する、寝返りを打つ、寝言や歯ぎしりさらにはヨダレを垂らす(あっ、これは管理人のこと)、夜中にトイレに行くなどなど、要するに日常生活におけるエネルギー消費のことである。
個人差はあるがそれら合計で一日、1000Kcal以上になるそうだ。これを基礎代謝エネルギーといって、要するにひとが生きるに必要な最低限のエネルギーである。
一日中、家でごろごろしていてもお腹が空くのは、人が生きるのに必要な、基礎となるエネルギーを消費しているからだ。
基礎代謝エネルギーに仕事で使うエネルギーを加えればもっと大きくなって2000~3000キロカロリーになる。成人が一日に必要なエネルギーは2500キロカロリー、とよく言われるでしょ、あれである。
山歩きでは基礎代謝エネルギーと合わせて2000~5000キロカロリーあるいはそれ以上に達する。それを食事で補うのが山での実際の食事計画といえる。

では、必要とされる量の食料を、どのようなタイミングで食べれば最後までハンガーノックを起こさずに歩けるのだろうか。いや、ハンガーノック以前の問題として、山で疲れることなく快適に歩くには何をどのように食べればいいのかを考えてみた。

・・・その2に続く