今年初の会津駒ヶ岳は大戸沢岳まで残雪の縦走を楽しむ。

2018年5月11日(金) 快晴 気温20度

滝沢登山口(6:55)~水場(8:14)~駒ノ小屋(9:30)~駒ヶ岳(9:51)~大戸沢岳(11:30)~駒ノ小屋(13:25)~水場(14:20)~滝沢登山口(15:33)
※歩行距離:15.4キロ
※所要時間:8時間50分(休憩多数)
※累積標高:1386メートル

残雪と新緑と花が5月の自然界のキーワード。
これをどのような順序で巡るかによって満足度が決まってくる。
管理人がいま、もっとも欲しているのは残雪なんである。
陽光降り注ぐまだ厚く積もった雪の上を歩く、あの独特の感触は、一度味わってしまうと身体に忘れることができない快感をもたらす媚薬といえる。

この時期、日光の山で残雪を楽しめるのは白根山と女峰山だが、欠けているものがある。
それは樹林帯が長くて陽光降り注ぐというわけにはいかないことだ。木々に遮られて景色が見えないのはいただけない。それと、傾斜が厳しい。傾斜が20度もあるとすぐ目の前に見えるのは地面であり、景色を眺めながら歩くという体勢をとることができない。

あぁ、快感を得たい! 癒されたい!
という強度の欲求によって突き動かされ、好展望を得るために今年最初の会津駒ヶ岳を目指した。一昨年の10月から数えて6回目、檜枝岐に行くのはこれで通算9回目。日光の山を歩くよりも密度が濃い。
一点集中主義の管理人としては古賀志山にも那須にもそして、檜枝岐にも住まいを構え毎日、山に登りたいほどだ(^^;)

管理人にはすっかりお馴染みになった会津駒ヶ岳の入口にある階段。
ここが登山口になっていて登山届けはここにあるポストに投函する、、、はずなのだが、あれれっ、ポストがない。撤去されている。理由はどこにも書いていない。
山開き(6月30日)前なのでまだ取り付けていないのかそれとも、別の理由でもあるのだろうか?
まっ、ポケットに入れておけば万一のことがあっても身元はすぐにわかるだろう。


階段を上がるといきなり急登になるのが会津駒ヶ岳の厳しいところ。
ウォーミングアップの余裕を与えてくれない。
しかし、これも少しの辛抱である。


ここは標高1550メートル。
ブナの新緑が美しい。


ムラサキヤシオでしょう、たぶん。


タムシバ。
田虫葉と書くそうです。


現在地を国道からの距離と山頂までの距離で表す木の柱がいくつもあって、おぉ、もうここまで来たか。なに、まだこんな所を歩いているのか、とその日の体調によって感じ方が違ってしまう。


うむ、雪だぞ。
だが残雪ではない。ここ数日のうちに降ったものらしい。
それにしても雪が少なくないか、昨年は12日に来ているから一日しか違わないがもっとあった印象だ。


標高1640メートルの水場まで来てようやく、雪らしい雪になった。


ここでチェーンスパイクを装着しこれからの傾斜に備えることにした。


水場を過ぎると広い尾根になる。
先ほど見たブナの新緑から標高で100メートル上がっただけなのにここのブナは芽吹いたばかりだ。


ネズミかなぁ?


雪が締まって歩きやすい季節ということもあって登山者もそれなりにいて踏跡はしっかりついている。迷うことはあり得ないのだがときどき、地図とGPSに表示される緯度経度で現在地を確認するのが管理人の登山スタイルになっている(赤い×印)。
こうすることで地図上の傾斜(等高線の詰まり具合)が実際にはどれくらいなのかが体得できるようになる。すると今度は実際の地形から現在地がなんとなくわかるようになり、好循環が生まれる。


樹林帯を抜けるとルートの北に会津駒ヶ岳から続く緩やかな稜線が顔を出す。
稜線の端は大戸沢岳、今日の縦走の折り返し点である。


はるか南に白根山が見える。


傾斜は一段と緩くなり、残雪歩きの醍醐味が楽しめる。
尾根は広くとても歩きやすい。
アップダウンばかりで危険が伴う女峰山とは大違い。会津駒ヶ岳は実に安全でいい山だ。


南に群馬県の山並みが見える。
中央に見える左が切れ落ちた特徴的な山は、机上で調べると四郎岳らしい。


尾瀨を象徴する燧ヶ岳。
その先鋭的な姿はどこからでもよく見える。



50メートル間隔で赤いポールが立っている。
実はこれ、ホワイトアウトになったときの目印となっている。
昨年はこのおかげで助かった。
昨年5月12日の同じ場所。
霧で10メートル先が見えなかったがポールを辿っていったら無事に駒ノ小屋にたどり着けた。→昨年の様子


この斜面を登り切ったところが山頂直下の駒ノ小屋。
雪が消えるとここに湿原が出現する、って別にダジャレているわけではありませんが、その美しさは格別なものがある。
画像は昨年8月のもの。ほぼ同じ位置。


駒ノ小屋に到着。ここまでゆっくり歩いてちょうど3時間だった。
2棟の建物のうち右が宿泊棟で左は有料のトイレ。
雪の厚みのせいでここからだと小屋の屋根しか見えないが雪のない時期、木道の両側に広がる湿原の向こうにこの小屋が見える場所まで来ると、その景色の美しさに感動する。


山小屋の前から会津駒ヶ岳を見上げる。
雪があるうちはあの斜面を登って山頂に達するが、夏道は左斜面の樹林帯を行き、途中で山頂に向かって急登するようになっている。
なお、手前の雪原の下には駒ノ大池という実に良い感じの池塘が雪解けを待っている。
そして、ここに至るまでと会津駒ヶ岳、その先の中門岳一帯は湿原で花の宝庫なのである。


視線を右に転じるとこれから向かう大戸沢岳へのなだらかな稜線が目に入ってくる。
実に美しく歩きやすそうな稜線である。


目を左(南)に向けると燧ヶ岳が堂々とした姿で構えている。


駒ノ小屋で眺めを楽しんだのでこれから冬道(雪原)であの山頂へと向かうことにする。


夏道は木道が敷設されているが、木道は段差があったり傾いていたりで歩きにくい。それに濡れていると滑って転倒の危険があるが、直登可能なこの時期は実に楽だ。20分弱で到着。


山頂のコメツガに雪が付着して海老の尻尾が見られた。


ゆっくりしている間もなく今日の折り返し点、大戸沢岳へ向かう。
ここから見ると3つのピークが目に入る。
右はピーク2098、中央が大戸沢岳、左は三ッ岩岳である。
管理人がメンバーになっているフェイスブックで知り得た情報によると、会津駒ヶ岳からあの三ッ岩岳まで縦走できるそうだ。ただし、夏道はなく雪が積もっている期間だけらしい。それに距離が長いため、よほどの健脚でないと無理とのことだ。ピストンすると距離が倍になるため、三ッ岩岳から先は夏道を辿るのが常とう手段になっているらしい。
管理人、今日はとりあえず大戸沢岳を往復してみて、来るべき三ッ岩岳縦走への足がかりとしたい。


コメツガの樹林帯の間を縫うようにして進む。


樹林帯から三ッ岩岳を見上げる。
地図から推定すると大戸沢岳から直線距離で3キロもある。
アップダウンが緩やかなのが幸いで、1時間から2時間と見た。
登山口から会津駒ヶ岳まで3時間半、会津駒ヶ岳から大戸沢岳まで60分として、登山口から三ッ岩岳まで5時間半から6時間半というのが管理人の見積もりである。三ッ岩岳から先は約5キロ。下る一方なので2時間として合計7時間半から8時間半。
日帰りでやってやれないことはない。
しかし、相手は自然のこと、どんな困難が待ち受けているかわかったものではない。
あと1・2回は調査を兼ねた山行が必須だと思う。


なるほど、雪が積もっている間にしか歩けないという理由がはっきりわかった。
この雪が消えるとどうなるか、想像できる。
木々の枝は地面に近いほど長い。笹も茂っていることだろう。雪が消えると歩けないほどの藪と化すのだ。


藪の南を踏跡に沿ってトラバースしながら山頂へ向かったが、実はここは怖い場所だ。
尾根上ではなく右側に谷が見える斜面を歩いているのだ。木々がないから足を滑らせたら谷底まで止まらない。
なぜこんな危険な場所を歩くのかというと、左に見える樹林帯が密であるため歩くことができないのであろう。

昨年の1月、ここから北東2.5キロ地点でBCスキーヤーが斜面を滑落して行方不明になっているという事故を地元のWEBニュースで知った。→福島民友のスクリーンショット
滑落したと思われる地点を地図で確認すると、中ノ沢が流れる辺りで登山道には絶対になり得ないほど厳しい斜面だ。それだけに新雪の上を滑るのは格別の面白さがあるのだろう。
その後の5月、登山口に近い民宿に世話になった際に事故のことを聞いたところ、滝壺で亡くなっているのが発見されたとのことだ。


危険地帯を脱してなだらかな場所に出た。
地図の通り広いピークになっているのでここが大戸沢岳(2089m)であろう。
会津駒ヶ岳から約50分。大きなアップダウンもなく苦労なし(危険はあったが)で来てしまった感じ。
コメツガが茂ってはいるものの広い山頂をぐるっとひとまわりしてみたが、眺めは会津駒ヶ岳に匹敵するほど素晴らしい。山名板は見つからなかった。


ここからも燧ヶ岳がよく見える。


これは日光連山なのかなぁ?


景色を眺めながらゆっくり昼メシを食べ折り返すことにした。
まず目に入ったのが会津駒ヶ岳から中門岳に向かう、こちらもなだらかな稜線である。稜線の脇すべて湿原という、素晴らしい環境を携えている。


そこだけ雪が地面に吸収された一帯があった。
おそらく湿原なのであろう、ワタスゲの花が咲いていた。


雪に埋もれたシャクナゲ。
想像だが、雪が消えるとたくさんのシャクナゲが出現するのであろう。
ちなみにシャクナゲは藪として手強い相手の代表である。


会津駒ヶ岳へと向かう上り斜面。


会津駒ヶ岳の山頂が見えてきた。
傾斜は10度前後と緩い。
が、ここで邪(よこしま)な考えが頭をもたげた。
大したことのない斜面だが山頂まで行かず、ここを左に巻いて駒ノ小屋に向かってみてはどうだろうか、と。
決して時間を短縮したいわけではなく、会津駒ヶ岳の山頂を通らずに駒ノ小屋へ行ってみるのも面白い、ただそれだけの理由である。


50メートルほど歩いただろうか、滑ったときに受けとめてくれる木々はなくなり、谷底が見えるような場所に来た。なんとまぁ、けっこうな急斜面ですこと。万一、滑ったら止まらないこと必至。
樹林帯の最後の木のところでチェーンスパイクをアイゼンに替えて、2・3回キックしてはステップを作るを繰り返しながら慎重に歩いたのはもちろんである。
あ~、怖かった!


危険地帯を通り抜けると尾根は広くなり、駒ノ小屋が見える位置まで来た。
自ら墓穴を掘り、時間がかかってしまった。


小屋前の露出した木製ベンチに腰をかけ、下山の準備に取りかかった。
来たルートをそのまま戻るだけのことなのだが一応、地図で地形の変化を確認しておく。
すると、あぁここは地図のあそこ辺りだなということがわかってくる。


水場まで下ってアイゼンを外した。
気温の上昇で雪解けが進み、登山道を雪解け水が流れている。水は地面とその上の雪のすき間に吸い込まれていき、雪を解かす。それを繰り返しながら次第に地面が露出する。


オオカメノキ


ムラサキヤシオ


ハウチワカエデの若葉。
遠目に見るとまるで紅葉しているかのようで美しい。


終わりに近いトウゴクミツバツツジ


登山口の階段に到着。


駐車場にはまだ6台ほど駐まっているがこの時間に下山する登山者はおそらく管理人が最後であろう。
他は小屋泊まりの人の車である。


オマケの写真

御池湿原のミズバショウ

翌日、栃木県境の帝釈山と田代山に登るつもりで林道を馬坂峠へ向けて走らせていたところ、カーブに雪が堆積していて先へ進めず、馬坂峠のすぐ手前で引き返す結果となった。
う~ん、読みが甘かった!
ではどうしよう?
時間も遅くなってしまったのでどこか軽く歩ける所へ行って時間をつぶそう。
実は今日、12日は村の祭事である檜枝岐歌舞伎が上演されるのだ。
今回の檜枝岐入りは会津駒ヶ岳に登るほかに歌舞伎を観るのも目的だったのである。
15時には下山して温泉でサッパリして、夕食を済ませて18時の入場開始に間に合わせたい。

代替えとして選んだのが尾瀬御池の湿原めぐりである。
尾瀨は尾瀬ヶ原に代表される湿原の宝庫である。
地図で見ると名前のついている湿原が20ほどある。名前のついていない湿原もたくさんある。
これらのうち、もっとも手軽に回れる場所として御池から三条ノ滝へ向かう登山道に点在する湿原を歩いてみようと考えた。


ミズバショウのアップ


田代湿原のワタスゲ


この時期、重装備必須の尾瀨を歩くにはまだ早いのだろう、御池駐車場は週末にもかかわらずガラガラだった。
登山靴やスパッツを地面に広げて乾かす。
昨日、村の売店で買ったロックアイスが溶けないうちにと、持参したポーションタイプのアイスコーヒーを作って2杯、続けて飲んだ。昨日の喉の渇きがまだ続いていたらしい。
10日からのゴミを車内から集めてルーフボックスに移動。温泉に行くのに着替えを用意するなどして1時間が過ぎた。
これから燧ヶ岳に登るのだろうか、山スキーをザックにくくりつけた10名ほどの団体が登山口を探していた。昨年よりも雪が少ないようだがスキーの出番はあるのだろうか?

さて、檜枝岐歌舞伎が始まる前に夕食を済ませておく必要があるのだが、今夜はなにを食べようかな?


檜枝岐歌舞伎が上演される舞台への参道。


その昔、お伊勢参りに行った村人が歌舞伎をみて、これを村で上演できれば村人が喜ぶであろうと始め、270年以上も受け継がれている伝統芸能である。以来、村の娯楽として、年に3回上演される。
演出と演技は村民および村民OBによるものだそうだ。県指定の重要無形民俗文化財になっている。


午後8時半を回って参道を戻る人々。
地元の人はそれぞれ家に、観光客は旅館や民宿へ帰っていく。