日光にこんな華麗な滝があるなんて得した気分、野門の布引滝。

2016年7月29日(金) 曇り

野門沢林道ゲート(7:10)~階段(7:28)~鳥居(7:39)~展望台(7:55/8:02)~林道終点広場(8:18/8:20)~布引滝分岐(8:37)~野門沢ロープ(9:29)~布引滝(10:12/10:25)~野門沢ロープ(10:57/11:15)~布引滝分岐(12:09/12:25)~林道終点広場(12:57/13:08)~展望台(13:21/13:35)~林道ゲート(14:10)
※所要時間 7時間
※距離 13キロ


梅雨が明けた。
平年より3日早く梅雨入りし、平年より7日遅い梅雨明けとなった。
しかし、梅雨明け特有のあのジリジリした日差しがない。そればかりか管理人が住む日光霧降は梅雨明け間近に必ずあるはずの雷がなかったし、7月だというのに気温が上がらず、暖房を使うほど寒い日があった。
それでも梅雨は明けた。が、時期が時期だけに無理やり明けさせたといった感じでメリハリがない。
こんな年の夏は短い、そんな予感がする。

さて、本業よりも山歩きに重きを置くようになっている管理人にとっては雨さえ降らなければ山歩きには差し支えないので、はっきりしないもののこの梅雨明けをありがたく受けとめたい。
で、明日から5日続けて本業が忙しいので、梅雨明け初日の今日を有効に使いたいと思う。
いくつかある候補地でプライオリティ1は野門の布引滝と決めてあった。

布引滝の存在を知ったのは、今月20日に常連さんと帝釈山の北尾根で女峰山に登ることになり、その計画を組んでいるときであった。
帝釈山北尾根を女峰山へのルートに設定したのだが、地図を見るとその東側に女峰山から派生する野門沢がある。源頭部は標高1980メートル付近にありそこから鬼怒川まで長い流れが続いている。
帝釈山北尾根から沢のもっとも深いところまで落差400メートルという、とてつもなく深い沢だ。
布引滝は沢の途中、標高1610メートル付近から流れ落ちる落差120メートルもある大きな滝であることを事前の調べで知った。

落差120メートルといえば日光最大の滝、雲竜瀑に次ぐ大きさで、観光スポットとして人気のある華厳滝など問題としない。これはぜひ見ておかなくてはいけないと思った。

常連さんとのツアーを控え、前日19日に帝釈山の北尾根を探すため下見に行った際に、布引滝へも行くことにした。
布引滝はそのルートの途中、分岐を沢に向かって下ったところにあるので北尾根探しとの二兎を追ったわけだ。

布引滝は野門沢に降りた沢の行き止まりにあった。
あったと言うのは正確ではなく、そこで見たものはいくつかの段差にぶつかりながら、角度を微妙に変えて流れ落ちる布引滝の、末端10メートルほどの滝であり、布引滝全体を見るにはその滝の上部に出なくてはならないらしい。
ネットで調べたところ末端の滝の手前にロープがあるのでそれを伝っていけば布引滝本体の滝壺に出られるとあったが、19日は肝心のロープが見つからなかった。
だが、ここを登れば滝壺だと思われる斜面は見つかった。

その斜面は崩落によってガレ場となっていてとても危険そうだ。斜面の取り付き部分は1メートルほどの段差になっていて、管理人の場合は諸事情あって足が届かない。やはり既存のロープで登るのが正しいようだ。
まっ、「二兎を追う者は一兎をも得ず」のたとえもあることだし、19日の下見の本目的は帝釈山の北尾根を探すことにあったので、布引滝を見るためのロープ探しは日を改めることにした。
その方が楽しみを先延ばしにできるではないか、と簡単に引き下がる管理人であった。

登山口となる野門は今でこそ合併して日光市だがそれ以前は塩谷郡栗山村であった。
当時(合併前)、日光の山にしか目が向かなかった管理人にとって市外の山のことにはまったく無知であり、行こうともしなかった。管理人にとって自然を楽しむには日光の山だけで十分なのであった。
それが宇都宮市の古賀志山を知ってからというもの突然、地図にない道をコンパスを使って歩くいわゆるルートファインディングと藪歩きに開眼してしまい、昨年3月から今年にかけて48回も通うといったご執心ぶりであった。とにかくおもしろいですよ、古賀志山は。技術面においても精神面においても鍛えられます。
古賀志山との最初の出合い

その古賀志山に端を発し、日光市に属していても地図に道が描かれていない山をコンパスを使ってルートファインディングしながら歩く楽しさを覚え、道間違いや滑落寸前という危ない目に遭いながらも今日に至っている。
そんなわけなので藪には慣れたし地図に道がない場所を歩くのも平気になった。
だから今は、ピークハントも目的のひとつだがどうせ登るのなら遭難と隣り合わせになるが、そのプロセスを楽しみたい、そんな思いをいだきながら歩いている。

きちんと整備され眺めもいい道を歩くよりも、日差しも入り込まないほど鬱蒼とした樹林帯の中を地図とコンパスを手に、道迷いという恐怖と闘いながら歩く方が管理人の性に合っている、そんな気がする。やはり性格暗いか、俺って?
あ~、いや、そうではなく探求心旺盛ということにしておきたい(^^)
帝釈山北尾根で女峰山に登ったのもその延長であるし、もちろん今日の布引滝探訪も。

栗山村が日光市栗山となって早10年。もしも合併がおこなわれなかったすれば、管理人は今でも布引滝の存在を知らなかったかもわからない。帝釈山の北尾根を歩く計画の過程で偶然見つけた布引滝の存在を、ずっと大切にしたい。
でわでわ、そろそろ出発しましょうか。


7:10
県道23号線を川俣へ向かって走ると鬼怒川に架かる橋を渡る。
橋を渡ると左に折れる道があり、「家康の里」と彫られた黒塗りの大きな門が待ち構えている。
門をくぐってしばらく走ると小さな集落があって数件の民宿と栗山東照宮がある。この栗山東照宮が家康の里と密接に関係しているらしいが、管理人にそこまでの知識はない。
集落を抜けて先へ進むと道は写真のゲートで行き止まる。
この道と並行して流れる野門沢に堰堤を建設する工事がおこなわれ、そのために敷設された道路(林道)らしい。


7:12
ゲートから先、林道の終点までこのアスファルト道路(林道)が続くが、道は大きく蛇行を繰り返しながら斜面を上っていくため距離が長い。
そこで林道をショートカットすることで距離を短縮したい。ここが第1番目のショートカット開始点。
ガードレールの切れ目を入り、斜面をトラバースしながら標高を上げていく。


ただ闇雲に林道を近道しようとしても狙った地点に出なくてはショートカットの意味をなさない。
開始点と終了点をコンパスにセットして、コンパスの指示通り進んで行く。


蛇行を繰り返す林道をショートカットするので当然だが深くて急な林の中を歩く。
傾斜が急な上、落ち葉が堆積しているので滑落に注意しながら歩いたのはもちろんである。
本来、雪山の軽登山を目的とするチェーンスパイクは、滑り止め効果と駆動力アップに優れているので管理人は無雪期でもよく利用する。


ただいまショートカット中。
けっこう厳しいですよ。すでに大汗でシャツはぐっしょり。


狙い通りガードレールの切れ目に出た。
ここで林道を少し歩いて第2番目のショートカット開始点を探す。いえ、19日と20日にすでに歩いているから今日で3回目だ。
地図を見るとこの少し先に登山道が描かれている。その登山道を進むのがもっとも近道なのだが、、、


ここが地図に描かれている登山道。ということなど、わかるはずもない。しかし、尾根であることは一目瞭然だ。
つまり昔はこの尾根が、野門から富士見峠を経て日光まで交易の道に利用されていたのである。やがて交通の発達によって道は廃れさらには、林道ができたことで用無しになったのである。と勝手に推察し断定するが地図から何を読み取るか、それは読み手の想像力次第で無限に広がるというものだ。だから地図はおもしろい。


7:28
曲がりくねった林道を歩く時間を短縮するためにも、どこかショートカットできる場所を探さなくてはならない。
地図に描かれた登山道のすぐ先の擁壁に階段が設けられている。
地図の登山道の位置とは異なるがなんらかの意味があってのことだろう。
ショートカットするには都合がいい。ここを2回目のショートカットの開始点とした。


階段を上るとこんな感じ。
1番目のショートカットと同じく、セットしたコンパスにしたがって進んで行く。


7:39
2回目のショートカットが終わると林道脇に丸太で組んだ素朴な鳥居と石の祠のある場所に出る。
先ほどの階段はここに至る参道の名残だったことがこれではっきりした。
ちなみにこのような林道は一般車は入ることができないが、地権者や神仏を管理する人、工事関係者であればゲートの鍵を所有していて車の通行ができる。
例の階段から鳥居まで、昔は樹林帯の斜面を歩いたが参拝する人の高齢化によって車に頼らざるを得なくなり、車で行き来するようになったのであろうと思う。それが廃道になった原因、とこれも地図からの推察。


最後のショートカットは鳥居の前を真南よりほんのわずか西へ向かって進んで行く。
ここは地形が少し複雑なのでセットしたコンパスに忠実にしたがって歩かないとロスが生じる。
白樺が茂る自然林の中を登っていくのだが3つのショートカットの中でここがもっとも気持ちがよかった。帰りはこの斜面ではなく尾根を歩いてみた。


ショートカットがうまくいくと林道脇に設置された構造物の下に出る。


7:55
構造物の正体は林道脇の展望台だ。
南面にこれから向かう布引滝そして滝の源頭部がある帝釈山や女峰山が見渡せる、、、天気のいい日なら。


一瞬、霧が晴れて帝釈山から女峰山へ続く稜線の一部がのぞいた。


展望台から先はもう時短の方法はなく、林道の終わりまで緩やかなアスファルト道路を歩く。
林道脇に太いウリハダカエデを見つけた。紅葉の季節はいいだろうなぁ。


林道とは思えないほど整備された道だ。一般車に開放してほしいくらい。


8:17
林道終点の広場にはテーブルが1卓、ポツンと置かれている。
これから山道へ入るが、一段高くなっているのが尾根の部分で、帝釈山そして富士見峠へと続いている。


遊歩道という名に欺されるな!!
理由はこれから先の説明で(^^)


8:37
遊歩道入口から20分弱で分岐に着く。直進して丸太の階段を下っていくと布引滝。
右へ曲がると富士見峠と帝釈山の北尾根に至るがそのへんのことは前回のブログに書いておいた。
7月20日、帝釈山北尾根で女峰山へ


分岐を数歩、歩くと布引滝がよりはっきり見える場所がある。
ここがそう(^^)


丸太で組んだ階段は足を乗せる部分の土がえぐられ、足を大きく持ち上げないと先へ進めない。そればかりか丸太の多くは朽ち果て、もの悲しい雰囲気が漂う。
造ったらそれっきり、そんな遊歩道だ。ここまで荒れると遊歩道などと侮ってはいけない。怖いし危ないです(笑)


丸太の急階段を下っていくと斜面の上部から水が勢いよく流れている場所に出る。
水は苔むした石を避けるようにして流れている。
地図に水の流れは描かれていないが布引滝へ行くのに4つか5つの沢を横切るようになっているので、この流れはそのうちのひとつのようだ。


地面をスギゴケが覆い隠しその上にシャクナゲ、コメツガ、シダが茂っている。霊気漂う場所である。


流れのある沢を3本渡ると道は登りに転じる。丸太の階段はまだ続いているからここはまだ遊歩道として設計されている場所なのであろう。
とはいえかなりの荒廃ぶりにこの先はどうなってしまうんだろうという雰囲気だ。でもこういう異界に導かれるような雰囲気って管理人、大好きなのだ。


遊歩道はとうとう異界に突入した(^^)
どういう作用からなのか周りは岩だらけだ。岩は長い年月の経過で苔むして自然の美というものを感じる。
はっきりした道ではないし不用意に岩の上に足を乗せると滑るし、これを遊歩道と称していいものかどうかわからない。ここまで来て引き返してしまうハイカーもいるんじゃなかろうか。


9:26
岩を通過すると布引滝の流れ、野門沢の河原に下りる場所に来た。
斜面に河原に降りるためのトラロープがある。ロープを使わなくては河原に降りられないので、ここはもはや遊歩道とは呼ばないだろうなぁ。
ロープを下る場所から布引滝の全貌が見えるので遊歩道としての機能はここまででしょう。


河原に降りた。
砂利の歩き易い河原とは違って大きな岩がゴロゴロしている。
岩の上に乗っては下りの繰り返しで上流へと進んで行く。シロヨメナの藪の中を歩くこともある。


前方に布引滝が迫ってきた。
いい形をしている。
全長120メートル、180メートルの雲竜瀑に次ぐ長さだ。


幸いなことに岩の多くは乾燥していて乗っても滑ることはなかった。
だが、岩と岩の間に靴が挟まったり足首がカクンとなったり、なんどかは危ない目に遭った。


進行右手(左岸)にこんな斜面がある。
19日の下見のときはこのガレた斜面を登れば滝壺に出られるのではないかと見当をつけておいたのだが、その後、ネットで調べたところロープが垂れている斜面があるらしいことがわかった。ここにはロープはかかっていない。


9:47
19日と同じようにとうとう河原の行き止まりまで来てしまった。布引滝の末端部分だと思う。
ロープは見つからなかった。
ネットの情報が古く、ロープはなくなってしまったのかもしれないと思った。


末端の滝は落差10メートルはあろうか、これだけでも十分な見応えがある。
だが、布引滝の全貌を見るにはこの滝の上部に出なくてはならない。
今日は布引滝を間近に見るためのやってきたので、諦めることなく斜面を登るロープを探すことにした。


おっ、あった。
河原の行き止まりからロープを探しながら引き返すと、草むらに隠れているロープが見つかった。
ロープは古く、退色して岩と同じ色をしているので19日は見つからなかったのだ。今日は時間をかけて探して正解だった。
ロープの行く手は先ほどのガレた斜面と一致しているから、19日の管理人の勘はあながち間違いではなかったようだ。
ロープはクライミングに使われる10ミリ径で、引っ張ると伸びることから古いとはいってもその機能はまだ損なわれてはいないようだ。


河原に垂れていたロープは、岩に打ち込まれたピトン、それに結ばれたスリングが支点になっていた。
スリングとロープは長い間、野ざらしの状態が続いて養分を含んだのであろう苔が生え、ナイロン製とはとても思えない見栄えだ。
布引滝がいつの頃から探求されだしたのか、スリングとロープへの苔のつき方から察してその歴史は古いようだ。


上の画像のロープの支点を右へ追うと、さらに上へとロープが続いている。うっすらとだが踏跡もある。


古いロープと並行して新しいトラロープが取り付けられている。
この辺りはロープに頼らなくても歩けた。


ひょ~、センジュガンピだ。しかも群落になっている。


ノリウツギに、、、


ソバナに、、、


タマガワホトトギスも盛りだ。


布引滝の河原が間近に迫った。
ここまでロープは6本かかっていた。


河原を目の前にしてシロヨメナの群落に突入。

10:12
ついに布引滝の滝壺に降り立った。
いや~、とてもいい形をしている。きれいだ。雲竜瀑にも劣らない美しさ。
日光市に存在する48の滝を紹介している書籍があるが出版当時、布引滝は日光市ではなかったので紹介されていないが、第2版が出るとすれば間違いなく採りあげられるであろう。
水量が少ないということはないのだが不思議なことにとても静かだ。
この距離まで近づいても水しぶきがかからない優しさがいい。

独り占めする贅沢。得した気分になれる。
次回は椅子と文庫本を持参し、この水でいれた珈琲を飲みながら時間を過ごそう。あっ、でも帰りは日没になるな。


マルバダケブキ


滝をあとに帰路につくことにした。
遊歩道は往路とはまた違った趣がある。苔むした大きな石がゴロゴロしていて自然の美しさのような風情を感じる。


この丸太の階段の上りはずいぶん厳しい。
ステップ間の土がえぐれているので足を大きく持ち上げないと上のステップに届かない。
階段ではなく斜面である方が管理人には楽だ。


シロヨメナ
地味な夏の花だ。


12:09
急階段に疲れたがなんとか富士見峠への分岐まで辿り着くことができた。
ここから先は下りになるが、ひと休みして息を整えることにした。
振り返ると布引滝が見える場所なのだが滝は相変わらず霧の中。


この美しく開放的な林をスマホで撮ろうとザックをまさぐったところ、、、ない。スマホが。
そうか先ほど分岐で休憩したときにザックから取り出して写真を撮り、しまい忘れたのだ。
やれやれ、また登りかよ。


12:57
スマホは無事に回収でき、登山道を歩き終えて林道終点に着いた。
これから約900メートル、この林道を歩いて布引滝の展望台まで行くがここで今日、3回目の食事とする。


13:21
林道終点から布引滝展望台までは10数分と近い。
ここで帰りのショートカット、第1回目をおこなう。
左カーブの部分にガードレールの切れ目があるのでそこから笹原に踏み込む。


13:49
展望台から鳥居までのショートカットはルートを少し変化させてみた。
往路は鳥居の奥へ歩いて行ったのだが帰路は尾根を利用して画像の左隅に見える踏跡から林道に降り立った。


14:07
最後のショートカットが終わって林道が視野に入った。
駐車地まであと5分。今日はすべてがうまくいった。

登山口までのアクセスが非常に悪いので訪れる人は少ないと思うが一応、地図を掲載。
林道終点までの道のりが長いため管理人はショートカットで距離を短縮したが、地図とコンパスが必須になるのと急斜面を登るため、距離の短縮イコール時間の短縮になるかどうかはわからない。

林道終点から富士見峠との分岐点までは緩やかな上り斜面。地理院地図と実際の道にズレはあるが、これはGPSを携帯していなければわからないことなので気にすることはない。道は明瞭なので迷わない。

分岐点から布引滝へは丸太を組んだ急な階段を下っていくが丸太がじゃまして足を引っかけることがある。それと丸太の上に靴を載せると滑るから、ここが最大の難関だったりして(^^)

野門沢の河原に降りると大きな岩がゴロゴロしているのでつまずいたり、岩で滑ることがある。ここで転ぶと痛い目に遭う。

河原の行き止まり付近に布引滝の滝壺へ上がるロープがかかっているが、それはご自分で探してください。それも楽しみのひとつです。