ミズバショウが咲き始めた大江湿原と尾瀬沼へ、七入から新緑のブナ林を歩く。

2019年5月24日(金) 晴れ、暑い

福島遠征から戻り、水が浸入するようになった靴の手入れや歯医者への通院、行政機関への顔出し、粗大ゴミの解体処理など、靴の手入れ以外、管理人にとって登山とは無関係な雑用といえる業務が重なった。
加えて、それらの合間に5日間に渡る山行のブログ記事を書き上げたわけだが、ブログは過ぎ去ったことを薄れ行く記憶と画像で振り返りながら書くので大変といえば大変なのだが、次に行くときの貴重な記録になるし管理人の人生帳にもなっているわけで、多大な時間がかかりはするものの、自分で言うのは憚れるが、これだけは手を抜かずに真面目に取り組むようにしている。

今年のブログを振り返ると年始めのスノーシューツアー関連の次は、管理人のライフワーク(というにはスケールが小さいが)とも言える古賀志山探索が続き、5月に入ってからは福島県の山歩きが続いている。
そろそろ地元日光の山に戻らなくてはと思うものの、肉体は日光にあっても精神は福島県にあるという分離状態となっていて、かつてあれほど熱心に登っていた女峰山でさえ遠くなってしまっている。

これは管理人の性癖とも言えてまさに病気のようなものである。
何かに熱中すると右も左もなく、真ん中しか見えなくなるのだ。
現在、真ん中にあるのが福島県の山なのである。
福島県の山は2016年に日光との境にある田代山と帝釈山に登ったのが最初で、会津駒ヶ岳は田代山がきっかけで登るようになった。

福島県の山に登るようになってまだ日は浅いが、福島県の山と日光の山との際だつ違いは展望の良さと湿原の存在にあると感じている。
湿原は多様な植物を育み、日光では見ることのない貴重な花と出合えるなど、毎年訪れても飽きさせない。湿原に池沼があればなおさらである。
福島県には日光白根山より高い山はないが、山頂からだけではなく、途中からの展望がいいので必ずしも山頂を目指さなくても十分な満足が得られる。

このように管理人は現在、福島県の山しか視界に入らないが、この傾向はまだ当分の間、続きそうだ。そして今回も福島県の山なのである。
日光の山の情報を求めてこのブログを訪れた読者には期待を裏切ることになるが、当分の間は福島県の山の記事にお付き合いいただきたいと願っている次第です。

行程表(各地点は地理院地図と昭文社「山と高原地図」に基づく)
七入(7:02)~沼山峠(10:33/10:56)~大江湿原(11:44)~尾瀬沼(12:13/12:45)~沼山峠(13:52/14:20)・・バス・・七入(14:55)

メモ(バス乗車区間を除く)
・歩行距離:15.2キロ(GPSログをカシミール3Dで処理した値)
・所要時間:6時間45分(写真撮影と休憩を含む)
・累積標高:1094メートル(アップダウンのうち、上昇分の累積)

福島県側から尾瀬を歩く場合、御池までマイカーあるいは路線バスで行き、御池でシャトルバスに乗り換えて沼山峠へ、沼山峠から歩き始めるのが一般的である。
今日、管理人は沼山峠のずっと手前、七入(なないり)から歩き始めることにした。
七入にも駐車場があり御池が満車になったときに限り、シャトルバスはここからも運行されるが、そのようなことはトップシーズンでもないらしい。
したがってここが満車になることはなく、何時に着いても駐車場が利用できる。

車で御池まで行けば尾瀬は近いのになぜわざわざずっと手間のここ七入に車を置いて歩くのかと言えば、その昔、檜枝岐村から群馬県の大清水、さらには沼田へ抜ける交易の道として利用されていた「沼田街道」を歩いてみたいと思ったからだ。
街道と名がついているくらいだから今の時代は車が走れるんだろう、と早合点してはいけない。
昔利用されていた街道が危険なく歩けるように整備されてはいるが、山道なのである。

沢の流れに逆らうようにしてブナ林を歩いて標高を上げていくとやがて沼山峠に着く。沼山峠は大江湿原を経て尾瀬沼そして尾瀬ヶ原へ行くハイキングコースの入口であり、福島県側から尾瀬沼へ行く場合のもっとも標準的な登山口になっている。
広い意味の尾瀬へ行くには他に燧ヶ岳に登って降りる方法と三条ノ滝を経由する方法があるが、いずれも難易度が高く、もっとも簡単な沼山峠からのルートが選ばれている。

その沼山峠へはマイカーとバスを乗り継いで行くのが効率の観点から一般的であり、その方が尾瀬で過ごす時間が長くとれる。
バスを降りて1時間ちょっと歩けば “あの花の宝庫、尾瀬”と出合えるのである。

具体的に書くと、七入を起点に御池までバスで20分、御池から沼山峠までバス20分、沼山峠から尾瀬沼まで歩いて1時間。計1時間40分のところを3時間プラスして、4時間40分かけて歩こうというのが今日の計画である。

ちなみに画像の奥に見えるのはキャンプ場で建物は管理棟。


村の駐車場に車を置いて入口の方へ少し戻ると、林のすき間に見落としてしまいそうな細い道があり、そこが沼田街道の入口である(ということを、前の日に村の観光案内所で聞いてあった)。


七入山荘を左に見ながら緩やかな傾斜を上って行く。


ほどなく沼山峠への案内が見つかった。
入口にロープが張ってあり、そこに「お知らせ」が書かれたラミネート板が下がっている。
お知らせとは、増水時の危険性についてのもので、今現在が危険だから立ち入ってはならないという内容ではなく、山によくある一般的な注意喚起であった。
昨日、沼田街道の情報収集のため村の観光案内所(道の駅内)に立ち寄って職員に話を聞いたところ、21日に降った大雨の影響で沢は増水しているはずであり、決して勧めることはできないとの注意をうけた。
注意の受け止め方は人それぞれの感性と想像力によって異なると思うが、管理人で言えば、謙虚に受けとめ、決して無理はしないタイプである。
危険を感じたらその場で引き返し、七入からバスに乗って沼山峠に行くつもりだ。その時間は十分ある。


ロープ越しに見る沢の流れ。
ここを渡渉するのかなと思って降りていくとすぐ脇に木橋が架かっていて問題なく渡れた。


木橋を渡ると木の階段になっていて深いブナ林の中へ導かれる。


セントウソウ


地図にある送電線をくぐる。


ニリンソウが咲き始まっていた。


ブナの林だ、すごいな!


エンレイソウ
こうして画像で見るとわからなくなってしまうが、葉っぱが3枚、輪を描くようにしてあり(輪生)、その上に花を咲かすが、葉っぱに比べると花はとても小さい。
茶色に見えるのが花、、、ではなく萼片といって普通の花であれば花弁の裏側にある小さな萼が肥大したもので、花はその中央の色のついた部分を指す。


沼田街道は始めに硫黄沢(いおうさわ)を渡り、次に赤法華沢(アカホッケサワ)を渡り、それからは道行沢(みちぎさわ)を遡上していく。
沼山峠の手前まで渓谷美を眺めながら歩いて行ける(画像は道行沢)。


これまで木橋をいくつか渡ってきたが、ここへ来て流れが橋を乗り越えるほどになった。
この橋を渡らなければ先へ進めないのだが、問題は流れが強いことと木が濡れて滑りやすくなっていることだ。
これまで使っていなかったポールからプロテクタを外して石突きを剥き出しにし、木橋の上にしっかり突いて身体を安定させ、靴を滑らせるようにして足を前に出す。
このとき、足を持ち上げて片足立ちになると強い流れに圧されて身体が不安定になり、転倒の恐れがでてくる。両足を接地させたまま前進した。
なんとか無事に渡り切れた。


道行沢にかかる抱返ノ滝(だきかえりのたき)
これをぜひ見てみたかったが、雪の斜面だったため近づくことができず遠望するしかなかった。


標高が上がったらしく振り返ると会津駒ヶ岳が見えるようになった。


傾斜が緩くなり沼山峠が近いことをうかがわせる。


根の周りがえぐれたオオシラビソで積雪を計ってみた。
まだ1メートルはある。


前方に建物が2棟見えてきた。
沼山峠の休憩所とトイレである。


建物に近づくと階段になっていて上がるとそこはシャトルバスの発着所であった。
ふ~、歩き始めて3時間半もかかった。
予定より30分オーバー。


村の管理による休憩所。
職員が常駐し相談に乗ってくれる。
土産物や山で必要な小物類の販売、飲食も可能。


苦難の3時間半をクリアし、これから尾瀬沼へ向かう前に腹ごしらえとする。


チェーンスパイクと木道専用の滑り止めを持参したが今のところ出番はない。


だいぶのんびりしたのでいざ、尾瀬沼へ。


シラビソの林の中はまだ雪がたっぷり。
雪が消えれば1本の木道が出現し、迷わず尾瀬沼に着くのだが、今はご覧の通りだ。


沼山峠展望台。
昔はここから尾瀬沼を眺めることができたそうだが、いまは木が茂って眺めはない。


消えては現れる木道を進んで行くが、露出部分はまだ全体の1/3ほど。
雪の上を注意して歩くのが必至。


林の先に見えるのは大江湿原だろうか。キラキラ光っている。


歩き始めて4時間40分、大江湿原に着いた。
ここまで来れば尾瀬沼は目の前だ。


小淵沢田代への分岐。
大回りになるが、ここを左へ行っても尾瀬沼に出る。


咲いたばかりのワタスゲ


いいですな~、湿原の中を歩く気分は。爽快そのもの。


右前方に燧ヶ岳が見える。
11日にはあの頂からこの大江湿原と尾瀬沼を見下ろした。


尾瀬沼北岸への分岐。
木道を右へ行くと沼尻を経て尾瀬ヶ原に行く。


尾瀬沼が迫ってきた。
今月11日、燧ヶ岳山頂から見た尾瀬沼はまだ凍りに覆われていたがそれもすっかり解けた。
21日に降った大雨で尾瀬沼も凍りも大江湿原の雪もなくなったのだ。


大江湿原のミズバショウが咲き始めていた。
昨日23日、檜枝岐に到着したその足で御池まで行き、御池に一番近い湿原の状況を見てきた。
もちろん、今日のお目当てのミズバショウの咲き具合をである。
大江湿原よりも標高で150メートルほど低い御池田代の状況を見れば大江湿原のおおよその様子がわかると考えたのである。
昨日の御池湿原は、11日に比べれば雪は少なくなったとは言えまだ残っていて、ミズバショウは咲き始まったばかりだった。
この分だと大江湿原はまだ厚い雪に覆われミズバショウは雪の下で出番を待っているのではないかというのが正直な気持ちであった。
だから雪がまったくない大江湿原とミズバショウの開花には思わぬ贈り物を得たわけだ。
これも21日に降った春の暖かい雨の賜であろう。


尾瀬を訪れるハイカー憧れの山小屋、長蔵小屋。
今年は数日かけて尾瀬ヶ原を探索する予定でいるので、一日はここに泊まりたい。


長蔵小屋の裏手、尾瀬沼東岸からの燧ヶ岳の眺め。
左のこぶが赤ナグレ岳、中央が柴安嵓、右が俎嵓で燧ヶ岳はそれにミノブチ岳と御池岳を加えた総称である。
ここらで今日2回目の食事としよう。


尾瀬沼のビジターセンター。
建物内外に休憩スペースがたくさんある。
チップ制だがトイレがあることも尾瀬のいいところ。


尾瀬沼に注ぐ水路。
春の小川の風情を感じさせるいい雰囲気。


花が終わりかけ間もなく穂になろうとするワタスゲ。
6月半ばになると一面、真っ白になるはず。


まだ背丈10センチほどのミズバショウ。
これで大江湿原ともお別れ。


雪がなくなればここに木道が現れ歩きやすくなる。


沼山峠の休憩所に出てお終い。


ミズバショウが咲きだしたもののまだ見ごろには遠く、訪れる人は少ない。
本格的な人出は雪が完全になくなってミズバショウやワタスゲが見ごろを迎える6月半ばになるのかも。


帰りは車を置いた七入まで路線バスに乗ることにした。
この時期は一日に数本だが会津田島を始点とする路線バスが御池を経て沼山峠まで運行しており、さらには御池と沼山峠をシャトルバスが運行されるのでそのどちらかに乗ってここまで来ることができる。
マイカーで来ても東武電車で来ても、交通の便はいい。


車を置いた七入でバスを降り、これから村の温泉に入って疲れを癒し(というのが定型句だが少しも疲れていない・笑)、缶ビールで乾杯といこう。