日光・山王帽子山。これまで撤退のたびに悔しさが残ったが今日の撤退は気持ちが清々しい。

2015年3月12日(木) 奥日光・山王帽子山(2075M)
天候:目まぐるしく変化

ルート設定のミスや道迷い、転倒によるケガなどでこれまで多くの撤退を経験してきた管理人だがそもそも、地図に道が描かれていない場所に好んで行くのだからそれらは悪業といってもいいくらいで、撤退も致し方ない。いや、自分の意志で退却を意味する撤退と言うよりはむしろ、敗退と言うべきであろう。遭難せずに帰って来れたことをありがたく思わなくてはならない。

自宅に戻り写真やGPSの記録でその日の山行を振り返ってみるとどうも釈然としないものがあって、ああすればよかったとかこうすればよかっただとか、とにかく自分の未熟さを責める日が数日、続く。そんなことがあると悔しくて、数日おいて同じ場所へ行っては前回の溜飲を下すのが管理人の山行スタイルとなっている。

今日のスノーシューツアーに参加したのはTさん母娘である。
Tさん娘とは4年ほどのお付き合いがありその脚力は管理人が熟知している。Tさん母とは昨年、刈込湖にご一緒し、Tさん娘ほどではないにしても健脚ぶりを 証明している。
Tさん母は若い頃、競技ダンスをしていたというから運動神経の良さと脚力の強さは当然かも知れない。しかし、30代40代の女性ではない。健脚であることはわかるが最大傾斜35度しかも、深い雪ではどうなのかという、一抹の不安をかかえてのスタートであった。

目的とする山王帽子山へ行くには光徳をスタートし、山王林道のカーブを舐めるようにして歩き、最後に峠の手前で山王林道上に乗って登山口まで歩く、机上ではそんなルートを設定した。それを実行に移すためにはGPSに表示される緯度経度と地形図そして、コンパスが頼りである。
光徳から山王帽子山の登山口までの道のりは事前に設定したルート通り歩けばなんら問題はなかった。
ただ、雪が深すぎて道路なのか地形の一部なのかよくわからなかったのと登山口にあるべき標識さえも雪に隠れて見えず、100メートル過ぎて間違いに気づいて戻ったので10分ほどのロスが生じた。

さて、登山口から山王帽子山を見上げると目の前にあるのはコメツガやシラビソなど針葉樹の枝ばかりで、私たちの進入を阻んでいる。どこから入ったらいいものやら見当がつかない。無雪期であれば木々の枝が頭上、数十センチにあるのだがこの日は顔や身体、膝の高さに集中し、それは進路のどこを見ても同じで開放されている部分などなく、強行突破するしかない。
枝を押し退けたり、跨いだり、かいくぐることを余儀なくされ、これが多くの時間を費やすとともに体力を消耗させる原因となった。無雪期の藪こぎと同等いや、それ以上の厳しさだった。

深い藪に行く手を阻まれて、13時を回っても昼食はまだだ。Tさん娘は母の動きが鈍くなったのを見逃さなかった。空腹により力が発揮できないいわゆる、しゃりバテを起こしていたのだ。
母を気遣うTさん娘の声を聞き、それは管理人の手落ちであることにハッと気づく。朝早く千葉の自宅を出発したTさんは、管理人より2時間くらい早く朝食を食べた はずであり、おまけにこのハードな歩きだ。お腹を空かした状態にもかかわらず管理人について登ってきたので体力の消耗は管理人以上であったはずだ。
それにしても母の窮状をぴたっと言い当てたTさん娘、肉親とはこういうものなのかと我が家庭を省みることになったw

では一体どこで食べればいいのか。前傾姿勢をとっていないと後に転倒するくらいの傾斜だ。せめて畳1枚分でいいから平坦な場所がほしい。藪をのぞき込むと向こうにわずかだが傾斜が緩んだ場所を見つけたので、足場だけ確保してようやく昼食にありつけたのは13時40分であった。

山は午後になると気温が急激に下がる。昼食を食べ終えさあ、これからどうすると三者で協議した。現在地の標高は1930メートル、山頂まで標高差はあと137 メートルだから推定時間は60分だ。
時間はすでに14時を回っている。現在地から先、傾斜は緩むがそれでも20度の斜面を登らなくてはならない。協議の結果、ここまで来れたことに満足すべきとだという結論に達した。

撤退である。

Tさん母、体力はまだ十分残っているが下山に使うために残しておくべきことを多くの山行で知っているのだ。最終目的地までの標高差と距離から時間を割り出し、残りの体力と相談の上で進退を判断する、これは遭難しないための必須の術である。実に潔い(いさぎよい)決断ではないか。

もしこれが管理人の単独行であったならば時間のことなど考えず、山頂を目指していたことであろう。最近でこそ低山歩きの楽しさがわかってきたというもの、やはり山頂を目前にするとどうしたって頂の上に立ちたいという、身の程知らずの欲望が湧き上がる。
Tさん母娘の決断はそんな管理人を戒めているかのように思えた。


IMG_0223光徳からの出足はこのような、おとぎの国の景色で始まる。
樹木の埋まり具合から、積雪は1メートルはあるだろうか。それにここ数日の奥日光、霧降高原と違って、ふかふかの新雪である。

IMG_0225山王林道のカーブにさしかかった。雪がない季節なら頭上にあるカーブミラーが今はこんなところに。
楽しそうにのぞき込むTさん母娘。

IMG_0227おとぎの国の景色はまだ続く。
雪のない季節だと鬱陶しいだけだが。

IMG_0229天然林を過ぎるとカラマツの人工林に変わる。葉が茂っていると陽も差さないようなカラマツ林だが、葉が落ちた冬は実に開放的だ。

IMG_0236ここで山王林道の上に乗る。
東に大真名子山が見える。

IMG_0237カラマツ林の後方に見える斜面が今日の目的地。山王帽子山だ。
この位置から山王林道を歩いて登山口へと向かう。

IMG_0241登山口に着いたもののさて、どこを見てもこんな具合だ。入り込むすき間がない。
強行突破するしかないな。

IMG_0251それにこの雪の深さと急傾斜である。時間ばかり過ぎて距離をかせげない。

IMG_0256苦戦するTさん母だが足は着実に進んでいる。

IMG_0260苦しさの中にこんな光景を目にするとホッとする。
コゲラかアカゲラか?
高さは管理人の膝下だが雪がなければ当然だが頭上にある。

IMG_0265撤退を決めて下山開始だ。
上から見下ろすと登りではわからなかった開放部分が見つかる。

IMG_0264再び藪。こんなことの繰り返しである。

IMG_0266山王林道に近づいたがここは登山道ではない。往きは登山道に忠実に従ったために藪こぎとなったが、ここを登ってくれば楽だったはずだ。あとの祭りだが。

IMG_0267開放部分を下ったためか登りで90分かかったのに山王林道への下りはなんと30分しかかからなかった。

IMG_0272男体山がよく見える。

IMG_0276往きに歩いた尾根を振り返る。
実はこの尾根には巻き道があることを発見。といっても帰りでだが。
次回は時間が短縮できそうだ。

IMG_0284
スタート地点の光徳に無事に到着したのはちょうど15時半。もしも山頂を目指していたら日没必至だったことであろう。