奥日光・最新花情報(7月8日)

毎週一度、定例でおこなっているパークボランティアによる開花調査は佳境に入り、花の種類が増えて調査に時間がかかりますが、その分メンバーにとっては楽しめる時期でもあります。
先週、私は本業のペンションが忙しく活動を休んだため2週間ぶりの参加となりました。

奥日光の中でも小田代ケ原と戦場ヶ原は今の時期、一面のお花畑になることで知られていますが、その美しさといったらいくらピントのあった写真といえども表現できないほど。それは花だけの美しさではなく、原の光景と一体となった美しさとでもいうのか、カメラが花を引き立てようとすれば全体が見えなくなるし、景色ごと収めようとすれば花が霞んでしまうからでしょう。
やはり、肉眼で全体を捉えることの美しさにかなうものはありません。

このブログではできるだけ写真を多く掲載して雰囲気を伝えようとしていますが、実際に見ることによる感動をお伝えするのはとても困難。この時期だけの自然の贈り物は自ら足を運んで手に入れるしか方法がありません。

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ハナニガナ
先端が角張り小さなギザギザがある独特な形をしたこの花は、他にも仲間があってひとつはニガナ、もうひとつはヤマニガナという。
これらを見分ける方法として、ハナニガナとニガナであれば花弁の数の違いを見てどちらなのかを特定します。写真では8弁あるのがわかると思いますが、7弁以上あるのをハナニガナというのにたいして、5弁のがニガナ。
さあ、面倒なのは7弁以上あるからハナニガナだと思いきや、地面に近い葉っぱをよく調べてみるとハナニガナと違って大きく裂けているのがあって、それがヤマニガナです。背丈が1メートルくらいあるのも特徴かもしれません。

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ハルカラマツ/カラマツソウ/ミヤマカラマツ
ニガナと同じく見分けが面倒な代表格と言えるのがこの花で、いつも迷う。
ハルカラマツとカラマツソウは見た目は同じなので咲く時期で見分けるというのが定説になっていて、6月に咲くのがハルカラマツで7月になるとカラマツソウ。ではオーバーラップして咲いている場合はどうやって見分けるのか、こうなると私にはさっぱりわかりません(笑)。
ではこの2つとミヤマカラマツとはどうやって見分けるか。
写真を拡大してご覧になるとわかると思いますが、針状の白い花、いや実際には雄しべなのですが、これが根本から先端にかけて”少し”膨らんでいるのに気がつきませんか?
一方、ミヤマカラマツはこの膨らみが大きくまた長さも短いという特徴をもちます。それからもうひとつの違いとして、ハルカラマツとカラマツソウは葉柄から枝分かれする部分になにやら突起のようなもの、これを托葉というのですがこれがあり、ないのがミヤマカラマツ。という分かったような分からないような説明なので、実際には現場を訪れてじっくり観察するしか理解するすべがありません。

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ウマノアシガタ

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ハクサンフウロ
いかにも高原の花といったじつに自然な色合いのこの花は小田代ケ原と戦場ヶ原のどこででも見られます。
どこででも見られるからといって見ないで通り過ぎてしまうような安っぽさはなく、一輪一輪が可憐で緑の草原の中できちんと自己主張しているから魅力なのかも?

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ニッコウキスゲ
ここ数年でめっきり数が増え、問題視されているのがこの花。
小田代ケ原と戦場ヶ原は国立公園特別保護地区に指定されていて、植生の保護に力を注いでいます。特に増えてしまった野生のシカから守るために原全体をネットで囲んでシカが侵入しないようにしたり、マイカーが入れないようにしたりと、関係者の努力は並大抵のことではありません。
その苦労のおかげでシカの食害によって姿を消したと思われる植物が復活し、ここ数年は花の種類も数も往時並みになったと、古くから携わっているパークボランティアが語っています。
しかし、シカの食害とは無関係に、小田代ケ原と戦場ヶ原には元々なかった植物が増え他の植物を脅かすようになったのは問題であり、その典型がニッコウキスゲです。その地になかった植物が見られるようになる原因はいろいろ考えらます。実を食べた鳥がやってきて糞を落とす、風で種が飛んでくる、人の靴に付着した種が別の地に芽を出す、人が植える、人が種を持ち込んで蒔くなどが考えられますが、誰もその現場を見たことがないため原因を特定することができません。
言えることはニッコウキスゲのような繁殖力の強い植物は、一度入ってしまうと手のつけられない勢いで増殖し、他の植物に取って代わるすなわち自然の生態を破壊するということです。
あと数年後には小田代ケ原が黄色いニッコウキスゲで覆われるのは明かで、そうなるとニッコウキスゲ見たさで訪れる観光客が増え、それによってさらに自然が破壊されるという悪循環となりそうです。
国立公園を管理している環境省も暗中模索と行った状態で、方針がはっきりすれば私たちパークボランティアになんらかの協力要請があると思いますが、今のところは手をこまねいている状態。

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木道の上に集まったフタスジチョウとコチャバネセセリ
もちろん植物ではありません(笑)。
動物の糞や死骸に群れをなして集まっているのをよく見かけます。

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アヤメ
初夏の小田代ケ原と戦場ヶ原を象徴する花、アヤメは和名の「文目」の通り白いきれいな模様があるのが特徴です。
この自然な色と見事な形はまさに女王の風格があります。

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アヤメとノハナショウブ
アヤメから少し遅れて咲く同じアヤメ科の植物で、濃い紫色をしているのでこうして並んで咲いていると違いがよく分かります。
模様がないのもアヤメと異なります。

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間もなく咲くノアザミ
小田代ケ原と戦場ヶ原に咲くアザミはいくつかの種類がありますが、違いがはっきりしているから名前の特定も簡単です。
ノアザミは花柄の上にひとつだけ花を咲かせます。花を包んでいる総苞に粘りがあるので触ってみるとおもしろい(蕾にダメージを与えないよう優しくね)。
ノアザミの他にニッコウアザミ、トネアザミというのがあって、ニッコウアザミは花が複数個付き、トネアザミは背丈が1メートル以上もある巨大なアザミで、葉っぱは早くから出ますが、長い時間かけて養分をたっぷり蓄えてから咲くので8月になります。

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ジシバリ
花弁の数がとにかく多く、遠くから見るとタンポポのように見えますがタンポポほど多くはありません。
葉は丸っこく葉柄はツルのように地面を這い、それが地を縛るように見えることから名が付いたようです。

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クマイチゴの実
ひとつの株がこんもりとした小山のように見えるアジサイを想像するとクマイチゴを見つけやすいと思う。
林の中に熊が潜んでいるように茂らしその姿からクマイチゴ、というわけではなく、熊が出没しそうな場所に生えるからというのが正しい由来らしい。
葉は大きく、3~5に分裂しているので見分けはつくと思う。

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クリンユキフデ
九輪雪筆という実に優雅な名を持つこの植物はなるほど命名者のセンスが生きてるな、と思わせます。

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タニギキョウ
まだ蕾ですが咲くとまさしくキキョウ科の植物の特徴であるラッパ型の花になります。
花はとても小さく数ミリ。背丈も小さいのでよほど気をつけて歩かないとわかりません。
小田代ケ原展望台から時計方向に歩くと木道と木道の間にたくさんあります。

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ミヤマタニソバ
三角形をした葉の表面に黒く「へ」の字の模様が入った変わった特徴をもち、タニギキョウと同じく木道と木道の間でよく見かけます。
花は数ミリで葉の大きさとのアンバランスがおもしろい。

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オニシモツケの蕾
小田代ケ原展望台から時計回りに歩くとやがて泉門池に行く分岐に出ますが、その500メートルほど手前にたくさん見ることができます。
とにかく大きいのです。背丈は1メートルを超えるでしょう。背丈も大きければ葉っぱも大きく、それらが「鬼」を連想させるのかも知れません。
しかし、花は結構地味で小さいのですが、いっせいに咲くと綿帽子のように見えます。

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ミヤマイボタの蕾
「深山水蝋」と書くので昔はこの木からロウソクでも作ったのでしょうか?
枝から柄のない葉を出し、先端に小さな花を数個つけます。花は葉と離れて咲くのでよく見えます。

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キクムグラ
見分けの難しい植物の一種で、クルマムグラ、オククルマムグラ、ヨツバムグラなどの仲間があります。
この中でキクムグラはもっとも小さくそして、クルマムグラの葉は6枚なのにたいしてキクムグラは4枚(まれに5枚)。
また、小さな花のすぐ下に苞があるのが特徴ですが、写真ではよくわかりませんね。

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イブキトラノオ
小さな花が集まって穂状になり、それが虎の尾っぽのように見えることから名が付いたようです。
まあ、それは命名者の主観ということになりますが、昔の人はいろんなことを考えたものです。

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イケマ
大きくて長いハート型の葉っぱで、なおかつツル性という特徴をもちます。
葉っぱの形がなにかに似ていると思ったらイモ(ガガイモ科)の仲間でした。

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ノイバラ
小田代ケ原と戦場ヶ原を歩いているとほのかにいい香りを感じることがあります。
その正体がこの花で、その名の通りバラなんですね。どおりでいい香りがすると思った。

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ヤマオダマキ
ハクサンフウロと同じく群れを作らず高原を象徴する孤高の花といった感じがして、私はこの花が好きなんだなぁ。
しかし、決して控え目ではなく、人が歩く足下に咲くといった自己主張も忘れてはいない花でもあります。

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アヤメの群落
パークボランティアの開花調査はいつもだと小田代ケ原の西側を歩いて次に戦場ヶ原へ抜けるのですが、この日は小田代ケ原を一周するという変則的なコースになりました。
小田代ケ原の東側遊歩道すなわち「貴婦人」の裏側はアヤメの群落と化していて、中にこれから咲かすノハナショウブもありました。

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クロイチゴ
熟すと黒い実になりますが、小田代ケ原と戦場ヶ原全体でも数は少なく、このように花が咲いているから見つかるといってもいいくらいです。

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ミヤマウグイスカグラ
えんじ色の花は漏斗状で5月から咲き始め、夏になると真っ赤なグミになります。
この実を食べたウグイスが、あまりのおいしさに踊り出してしまったことから名がついたそうですが、なるほどと思います。

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レンゲツツジ
これもここ数年でシカの食害から復活を果たした植物で、朱色の花は緑の中にあってよく目立ちます。

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バイカウツギ
梅の花を思わせるような白い清楚な花が特徴です。梅の花にたとえた名前の花は他にもたくさんあることから、梅は昔から日本人の心に宿した植物であることがわかります。
「梅」を冠した植物は他にもバイケイソウ、バイカモ、ウメバチソウなどがあります。