2018年7月18日 晴れ 行程表
街中から20キロ以上離れた山の中の駐車場だというのに、深夜にもかかわらず車やバイクの出入りはけっこう多く、そのたびにエンジン音やヘッドライトの明かりが車の窓を通して侵入してくるから、無音・真っ暗闇の部屋で寝るのが日常となっている管理人は目が覚めては眠れなくなる。
でも途切れ途切れながら4時間は寝たのであろうか、4時前に目が覚めたものの眠くはなかった。いや、睡眠時間は足りていないが神経が張り詰めているのであろう、きっと。
なにしろ初めて訪れる地の山を20キロ(推定)も歩く計画なのだ。気の弱い管理人などどうしたって緊張する。
さて、なぜ20キロもの計画かといえば一切経山を中心に、半径5キロの範囲に大小いくつもの湿原が点在し、今は花盛りのはずなのだ。一切経山は2時間半もあれば往復できるので、湿原と組み合わせることで磐梯朝日国立公園の魅力を思う存分に味わいたいと思う。
なにしろ日光から片道200キロも走るのだ。ガソリン代の元を取らなくては、と貧乏根性が染みついた管理人は思うだよ。
もとい、その湿原だが、国土地理院の地図にある湿原記号を数えると浄土平から延びる登山コース上に8つもある。これを今日と明日ですべてを見て歩こうというかなり欲張った計画なのである。
湿原には池塘がつきものである。
池塘は火山活動によって噴出した火山灰が堆積、風化して水が染み込みにくい物質に変化し、その上に水が溜まったもので、それらが湿原に点在する光景は実に美しい。美しさは尾瀬の写真を見ればよくわかる(ただし、池塘の成り立ちは違うようだ)。
そして地図には沼と沢がいくつか描かれている。
すなわち、「山と水」が今回のテーマなのである。
それらを巡る旅を計画したところ20キロになったわけだ。
行程表
浄土平(5:42)~酸ヶ平分岐(6:23)~一切経山(7:00)~五色沼分岐(7:56)~兵子(8:56)~ニセ烏帽子山(9:15)~烏帽子山(9:51)~昭元山(10:52/10:59)~谷地平分岐(11:52/11:55)~東大巓(12:13/12:45)~谷地平分岐(13:11)~谷地平湿原(15:24)~姥ヶ原(17:32)~鎌沼(17:37)~酸ヶ平分岐(17:52)~浄土平(18:41)
※距離:23.2キロ
※時間:12時間59分
※累積標高:1454メートル
吾妻小富士の裾野から陽が昇るのが見える。
今日もいい天気になりそうだ。
リクライニングさせたシートからマットと寝袋を片付けるとダイニングテーブルに替わる。
まだ腹が減っているわけではないがお湯を沸かしてカップうどんを食う。
これ一杯で400kcalはあるから3~4時間は保つ計算。
ちなみに今回は長距離を走るため疲労を少しでも軽減できるよう、車はいつものジムニーではなく宿泊客の送迎に使っている1BOXカーにした。
浄土平ビジターセンターに登山届けを投函する。
ビジターセンターは全国の国立公園に存在し、園内の詳細がここでわかるようになっている。
ここの運営は湯元ビジターセンターと同じで一般財団法人自然公園財団。
これから登る一切経山を前にして気持ちを奮い立たせる。
☆☆注意☆☆
2018年9月15日13時より吾妻山(吾妻山という名前の山は存在せず、一切経山を指している)の噴火警戒レベルが2に引き上げられ、火口(画像中腹)から1.5kmの範囲は通行止めになっています。
ここ(浄土平駐車場)も立入できません。
登山口はビジターセンター裏手の駐車場奥、湿原の西側にある。
木橋の両脇に長さ3メートルくらいの竹竿がくくりつけられている。
おそらく積雪時でもここが登山口であることがわかるようにするためのものであろう。
晴天続きのはずなのだがやや湿った道。
湿原の脇なので土壌が水分を多く含んでいるのであろう。
道はここで二手に分かれるがどちらを進んでも1時間ほどで交わる。
明日もここまで来るので今日と明日、違う道を歩こう。
歩き始めて40分で酸ヶ平分岐に差しかかる。
直進すると鎌沼だが一切経山から離れてしまうのでここは右へ折れることにする。
避難小屋内部。
スペースの大部分は土間になっていて就寝するためのスペースは壁際に寄せられている。
一切経山の噴火に備えるための避難小屋といった方が適切。
個室の中を拝見。
驚いたことに水洗なのである(笑)。しかもトイレットペーパーまで備え付けられている。
といってもここに水道が引かれているわけではなく、下水も通じていない。水は雨水を溜め、さらに流した汚水を浄化して再利用している。
壁にパイプが2本、片側にポンプがつけられレバーを引くとタンクから水を吸い上げ、押すと吸い上げた水を便器の中に送り込む仕組みだ。
小屋から鎌沼を見下ろす。
あそこへは帰りに立ち寄る計画である。
避難小屋から先へ進むとなだらかではあるが実に荒々しい光景に変わる。
地図に砂礫帯として描かれた場所だ。
歩き始めて1時間18分で一切経山に到着。
大小の石が積まれ数本の木柱が埋め込まれている。
「空気大感謝塔」なる柱もある。
麓から見上げると山頂に卒塔婆のようなものが見えたのはこれらの柱であった。
山頂を示す柱はここから数メートル離れてあった。
今日のお目当てのひとつはこの五色沼。
通称「魔女の瞳」としてここを訪れる人に愛されている、かなり大きな沼である。
昨日のブログに書いた、「福島の山を歩きたい」というFacebookにメンバーがよく投稿するのでぜひ、行ってみたいと思っていたのだ。
霧で少しかすんで見えるが晴れたら緑がきれいそうだ。
また、冬は厚い雪に覆われるが雪解けの時期になると沼が少しずつ見えるようになり、その様を”魔女開眼”と称してFBで話題に上がる。
ゴゼンタチバナ
当ブログでゴゼンタチバナを取りあげることは多い。
注意してみると花が咲いているゴゼンタチバナの葉っぱは必ず6枚ある。
4枚のはまだ未成熟で花芽がつかない。じっくりと成長していくのだ。
五色沼に沿って北上するとさっき登った一切経山を北側から見る場所に出る。なかなかいい眺め。
上りきると標高1700メートル、ケルンのあるガレた場所に出る。
しかし家形山ではない。山名板もない。
ケルンのすぐ近くに三角点と同じような石柱がある。
「主図根」と刻まれている。
これまで管理人が見たことのない石柱である。
帰宅して調べると、三角点だけだと測量が不正確となるため、主図根なる基準点を設ける場所があるそうだ。そのひとつが家形山近くらしい。
では家形山はどこだ?
国土地理院地図を見ると家形山はこの近くに存在するのだが、登山コースは家形山の少し南を通過するようにつけられていて家形山には登らないのだ。
ここにケルンがあるのもそんな理由からのようだ。
主図根を少し進むと泥濘が始まる。
ドロドロではないが足は沈む。
そこからさらに歩くと石畳が出現した。
おそらく泥濘を避けて歩けるようにとの配慮なのであろう。
しかし、このような場所までどうやって平石を運んだのか、管理人の関心はもっぱらそこに集中した。
石畳で驚くのはまだ早い。
石畳の両脇にはなんとミズバショウが、、、
見ごろは終わっているので気づかず通り過ぎてしまうが、この大きな葉っぱと緑色の実。間違いなくミズバショウだ。尾瀬だけの植物ではないのだ。
このルートのミズバショウは谷地平湿原まで点在していた。
なんと、ここが家形山であることを示す木柱がある。
これはおかしい。
GPSで現在地を調べるとここは国土地理院地図に描かれた家形山から340メートルも北西に位置している。
登山者を惑わす謎の木柱なので無視することにして先へ進んだ。
シラビソにつけられた看板。
注意してみると「米沢市」とある。
そうなのだ、ここは福島県と米沢市(山形県)との境から、ほんの少し山形県に入り込んだ登山道なのである。
管理人は現在、福島県よりも北の山形県の山を歩いているのだ。そう考えると感無量である。
標高1836メートルのニセ烏帽子山。
なぜ「ニセ」なのかはよくわからない。
この先に43メートル高い烏帽子山があってそれと間違いやすい山だからニセと名付けたのだろうか?
笹藪は限りなく続く。
笹の葉を通して道は見えるので迷うことはないが、泥濘だったり枝が横たわっていたりするので注意しなくてはならない。
いい眺めだ。
次の目標、昭元山その右前方には折り返し点の東大巓が見える。
烏帽子山から昭元山へは大きな石が積まれた尾根を下らなくてはならない。
二足歩行だとふらつくので注意して下っていく。
足にチクッと痛みが走った。
全体にトゲのある植物、ハリブキである。
いきなり視界が開けるとそこは湿原だった。
名前はないが国土地理院地図に湿原の記号が描かれている。
ネバリノギランが多い。
チングルマの果穗
あの花がこんなに様変わりするんだと妙に感心する→チングルマの花
広く開放的な湿原と出合うことができ、ここまで来てよかったと思う。
木道から20メートル脇に入るとそこが今日の折り返し点となる東大巓。展望はない。
標高1927メートルと書かれているが国土地理院地図によると1928.3メートルだ。
木道まで戻って昼メシとし、次の目標の谷地平を目指すことにした。
ここまで戻ると木道は分岐するので、右へ入る。
直進すると元来た烏帽子山へ。
国土地理院地図には湿原の記号があるだけで名前はないが開放的。
このルートは「大倉新道」と呼ぶらしいが谷地平までいくつもの沢を渡っていく。
シナノキンバイ
後で知ったのだが花に見える黄色の片は実は花を包む萼片で、本当の花は雄しべよりも内にある裂けて見えるのがそれだ。
視界が開けて湿原のような場所に出た。
地図を見ると谷地平湿原に隣接する、名前のない湿原である。
遠目にはクガイソウかと思ったが背が低く穂は垂れていない。
エビネチドリであった。
渡渉
これまで数回、沢を渡ったがいずれも水深浅く危険はなかった。
しかし増水時はこんなものではないだろうな。
ほう、体育館の床のようにツヤツヤだ。
ゴミひとつ落ちていないし、日光の避難小屋のように利用者が置いていった寝具やペットボトルもない。実に整然としている。
水は近くを流れる沢で足りる。場所もいいし利用する価値大といった印象。
鎌沼に近づいてもう一枚。
いやぁ、実に素晴らしい! 美しい!
鎌沼に沿った木道を歩くと酸ヶ平分岐。
左へ行くと避難小屋。ここは直進して朝、歩いた道を戻る。
時刻は18時を過ぎた。11月なら日没間違いなしだ。
火口をぱっくり開けた吾妻小富士が見える。
歩き始めてちょうど13時間。
初めての山ながらなんとか無事に戻ることができた。
駐車場に誰もいないことを確かめて汗だくの身体を濡れた手ぬぐいで清めた後、一切経ならぬ独り言を唱えながら乾杯!!
クーラーボックスに入れて持ってきた缶ビールは炎天下の車中でもまだ冷たかった。
GPSには歩行距離21.9キロと表示されているが、これを地図ソフト「カシミール3D」で処理すると23.263キロメートルとなる。管理人はそれを記録として用いている。
浄土平から90分もあれば登れ、山頂から雄大な景色が眺められるので一切経山はとても人気があるらしい。また、山頂からは五色沼を見下ろすことができ、それを目当てに登る人が多いと聞く。
手軽に登れる山だけに管理人のように早朝から登る人はいないようで、この日は山頂を独占してしまった。
さらにはその先、東大巓までそれに東大巓から浄土平まで人っ子ひとり出会うことなく戻るという、貴重な体験をさせてもらった。
かなり前、季節外れの白根山で同じ贅沢な体験をしたことがあったが、今は登山シーズンのまっただ中だ。こんなことがあってもいいのだろうか、罰は当たるまいな(^^;)
花が咲く湿原をひとりで歩くのは実に気持ちよかった。山の中に湿原や沼、沢があるのはいい。気持ちが安らぐし疲れを感じない。
福島の山がますます好きになった。