古賀志山の馬蹄形ルート、遭難状態ながらも無事に生還。

2017年9月10日(日) 薄日、30度を超える。

天候が安定するのを待つうちに今度は仕事が忙しくなって前回の山行から遠ざかるばかりで、その間に脚は衰えるわビールの飲み過ぎで体重は増えるわ腹は出てくるわでおよそ山歩きができる身体ではなくなってしまい、気が急く日々を過ごしていたが、この土日は幸か不幸か仕事が休みになったので出かけることにしたが、日曜日なので日光の山は混むはずだからここしばらく訪れていない古賀志山にご挨拶と思うものの、古賀志山単独ではすぐに終わってしまい面白くないので、大外を廻る馬蹄形プラス鞍掛山コースがいいと考えた。

馬蹄形はそれ単独でも難易度が高いがそれに鞍掛山をプラスすると距離は約20キロとなって持久力が求められる。
その上、アップダウンが激しいし鎖やロープがかかる岩場がいくつもあるし踏跡は薄いし尾根は分岐していて道迷いを起こしやすいため詳細な地図とコンパス必携であり、その点では日光の山とは趣を異にした特殊なルート、言ってみれば玄人好みでありマニアックなルートだ。
管理人は過去2年半で7回歩いているがいずれも必ずと言っていいほど道間違いを起こす。尾根が分岐するところへ来ると記憶があいまいでどちらへ行っていいのかわからない。地図で確かめないまま進むと別の尾根を歩いていることに気づき、あわてて引き返す羽目になる。慣れることのないルートなのだ。そこが面白い。

ひと月ぶりだから古賀志山往復から始めて徐々に難易度を高めていくのが常道だとは思うが、それだと当たり前すぎて面白くない、とへそ曲がりの管理人は思うのである。
馬鹿な考えとは思うが、衰えた脚力でどこまで行けるのか、そんな挑戦をしてみたい(※)。
脚の衰えと体重増、突き出た腹という三重苦をかかえて歩き始めた。

※馬蹄形ルート+鞍掛山ルートは地理院地図に描かれていないのと多くの登山者に利用されている「昭文社・山と高原地図」の対象外エリアです。
歩くには国土地理院の1/25000または1/12500地形図が必須。当然ながら地図を読めることとそれなりの脚力がないと難しいだろうと思います。
それと万一の場合はエスケープルートを使って下山するといいのですが、それも地図にありません。初めて歩く場合は事前に入念な計画を組むことをお勧めします。
このブログがお役に立てることを切に願っています。



前半は鞍掛山ルート、後半が馬蹄形ルート。
ジェットコースターのようなアップダウンの激しさに注目してほしい。一方的に登っていく山に比べてアップダウンが多い山のほうが疲れるのは経験者であればよく理解できると思う。
最高峰は古賀志山の583メートル。読者においては取るに足らない山といった印象をもたれるだろう。
しかし、アップダウンの激しさが作り出す累積標高にも注目してほしい。
累積2200メートルという標高は、日光の山では難易度の高い女峰山を上回るのだ。当然だが男体山をはるかに凌ぐ。距離は20キロある。
前半で一日、後半で一日という歩き方が普通である。


早朝とはいえ日曜日の森林公園駐車場はそれなりに混んでいる。
駐車場は時間制限のある大駐車場の他に車道際に夜間でも使えるスペースがある。
大駐車場はすでに開門しているが今日は長時間になる見込みなので車道際に駐めた。


森林公園内にある赤川ダムは水をたっぷり蓄え、静かな湖面に古賀志山を映している。


車道を北へ向かって歩いて行くとここで道は分岐する。古賀志山のスタンダードすなわち北コースは左へ行く。
管理人、今日はスタンダードから外れて馬蹄形という、マニアックなコースを歩くので分岐を右へ進み鞍掛山へと向かう。
ちなみに森林公園内の車道(一般車不可の林道)は自転車のジャパンカップがおこなわれることで知名度が高く、選手らの練習の場としても利用されている。


まずはこんな岩場を。
ロープはあるが両手両足を使って登るのが基本。
それにしてもビール腹がじゃまだなぁ。


季節は秋に変わってすっかり寂しくなった花たちの中で、今が盛りのヤマジノホトトギス。漢字だと「山路の不如帰」とでも書くのだろうか。


コブシ岩と書いてある道標が見つかったら左へ。


緩やかなピークに出るとそこは長倉山。
ただし、地理院地図に山名は描かれていないし道も描かれていない。
地図に道は描かれていないが長倉山へ行くにはちゃんとした道がある。管理人が辿った道はかなり危険。


長倉山を北に向かって下ると2本の林道にぶつかる。
1本目はアスファルト道路。ここを横断して向かいの林に入る。


2本目は砂利道。
ここを突っ切る。


林道のすぐ脇に石の鳥居があり、ちょうど鳥居をくぐった位置にでる。
ここが鞍掛山の登山口である。


先ほどの鳥居はここ、鞍掛神社へ導くものだ。歩き始めて10数分で着く。
鞍掛神社は大きな岩壁の女陰を思わせるような割れ目にあり、神さまを雨風から守っている。がもうひとつ、女陰は子を授かるための女性の部位でもあることから、こうした岩の割れ目を神として崇め、昔から子宝そして安産を祈念してきた(思いつきだが)。


ここで「奥の院」と「大岩」との分岐になる。
管理人は以前、両方を歩いたことがあるが、奥の院方向は道標にあるように岩コースとなっている。
さぞ危険なのであろうと恐る恐る行ったところ、岩に基部に作られた道を歩くようになっていて、岩場を歩くわけではないことがわかった。以来、管理人は大岩方向への道を歩くようになった。


大岩に到着。
ここで始めて展望が開ける。


南の方向に古賀志山から始まる主稜線が見える。
今日は馬蹄形を左回りに歩くので後半が向こうに見える主稜線を歩くことになる。


これはなんの実でしょうねぇ?
この実の成り方から想像すると、樹高5メートルの木の枝に垂れ下がって花が咲く。シウリザクラかな?


大岩にかかるハシゴを下って鞍掛山へ向かう。


鞍掛山は広い山頂をもつ三等三角点のある山。
林の中の山頂で展望はないが、閉塞感もない。
なお、この三角点を境にして北(カメラの位置)は日光市である。これからしばらくの間、馬蹄形コースは日光市との市境を歩く。


地図にはないが地元の人が取り付けたのであろう「シゲト山」という山名板のあるピーク。
北面の展望が開けている。
ちなみにこのピークのことを「鞍槍」とも呼んでいる。東西に細長く南北に短い地形なので場所によって槍のように尖って見えることから鞍(鞍掛山)槍と呼ばれる。管理人も以前、槍のようにそびえて見える場所に行ったことがある。


シゲト山からの眺め。
平坦部は日光市でその向こうに塩谷町に位置する高原山が見える。


ママコナ。地味な花である。


馬蹄形コースの格好の目印になるのが地面から枝分かれしたこの巨大なリョウブ。覚えておくといいと思う。


斜面を下ると猪倉峠。
以前はうっそうとした檜林だったが伐採されて明るくなった。


ここで道は西から南へ転じる。


油断すると転げ落ちてしまいような急斜面を下っていく。


 

ここで尾根は分岐する。
道はふたつの尾根についている。
どっちへ行っていいのか?
馬蹄形は過去7回経験があるが今日は別の尾根を進んでしまい10分のロス。


そうそう、正しい道はこんな感じ。


あの三角形を目指して進む。


藪を下って藪を上がる。
トゲトゲの植物が身体に突き刺さる。


ここで道は岩に阻まれて途切れる。
初めて馬蹄形をやる人にはこの先、どうすればいいかためらうだろう。
なにしろ道はないし目の前は大きな岩にふさがれているのだから。
実はこの岩にはロープがかかっていて、岩の上に道があることを示していた。
管理人が馬蹄形をやった過去7回、ロープはあった。それがなくなっている。
外されたのだ。
山にロープや鎖、ハシゴなどを取り付けるものではないという特殊な考え方をしている人が古賀志山愛好家にいて、既設のロープや鎖を取り外すことに執念を燃やしている。おそらく同じ人物の仕業だと思う。えらい迷惑な話である。


岩を上がると展望が開ける。
向こうに見える山並みが古賀志山主稜線で中間が沢になっている。


地図にあるピーク444を通過。
なお、馬蹄形コースの北側は古賀志山が位置する宇都宮市と日光市との市境を歩くが、ピーク444は日光市に位置している。


地図にはないが馬蹄形コースの目印になる腰掛岩。
これで行程の半分ちょっとを消化したことになる。
これから主稜線の最西端にあるピーク433北ノ峰を目指すがそのためには急傾斜を230メートルも下り、同じく230メートルも上がる必要があって厳しい。
かなり疲れているのでここで大休止。汗でびしょ濡れになった中間着を脱いで岩の上に広げて乾かす。


腰掛岩からの眺めを頭に焼き付け、辛くなったらこの景色を思い出して疲れを忘れよう。


急斜面の下りが終わったところ。
急斜面は木にすがって降りる必要があるので両手は空けておかなければならない。写真を撮る余裕もない。


主稜線との間の沢。
ここを横切るといよいよ主稜線に出られる。


2015年秋の記録的な大雨でピーク444の中腹が大きく崩れて土砂と樹木が沢を下って人家を襲った。沢は本来の役目を果たせなかったのだ。
そのため現在、砂防ダムの工事がおこなわれている。


沢を埋め尽くした木は工事のために両側に押し寄せられ、主稜線への道も塞がれている。


右往左往してようやく道を探し出した。


ツリフネ


ほぼ藪と化した主稜線への道を行く。


新しい林道と交わる。


コバギボウシ


林道を突っ切ると再び藪になる。
草で道が隠れてしまっているため、できるだけ遠方の藪の薄い部分を見ながら歩いて行く。


薄い踏み跡はここでハッキリした道になる。
大きな桧と赤黄のプレートが目印になっているT字路を左へ行く。


腰掛岩に続く馬蹄形コースの目印になるプレハブ小屋が見えてきた。
この位置から小屋の脇を抜け、緩やかな斜面を上っていく。


斜面は踏跡があるもののとても薄いのでわかりにくい。
このプレートが見つかれば正しいが、そうでないと薄暗い林間を彷徨うことになる。
この斜面を上がると北ノ峰だがここは厳しい。体力だけでなく気力が大切な場面である。
なお、ここは分岐になっていて大きな岩壁に沿っていくと岩窟があってそこに坊さんの墓が収められている。それを無縫塔という。体力に余裕があれば拝んでいくところだがとてもそんな余裕はない。


主稜線への急斜面を上がる。


ようやくといっていいほど長い道のりだったが、なんとか無事に古賀志山主稜線の最西端、北ノ峰に達した。


四等三角点がある。
主稜線のもっとも西にあるピークだが、古賀志山の麓、古賀志村(現在の宇都宮市古賀志町)から見上げた場合の古賀志山山域でもっとも北に位置することからつけられた名前だそうだ。
これから赤岩山、中岩、御嶽山、古賀志山を経て車を置いた赤川ダムへと下山する。
歩き慣れた道だが岩場がいくつもあるし尾根が細いので疲れた身体で歩くには気をつけなくてはならない。


主稜線からは南側に広がる宇都宮市の町がよく見える。
これは赤岩山のパラグライダー基地。


写真だけ撮って通過。
疲れが激しく早く下山して冷たい水を飲みたいと気ばかりが急く。


パラグライダーが悠々と空に浮かぶ。
あぁ、あれに乗って自宅に帰れればいいなぁ、疲れた身体はそう要求している。


岩場を下る。


二尊岩。
神宿る岩と言い伝えられている。


高さ5メートルほどの急な岩場を上る。


中岩に着いた頃には疲れはピークに達していた。
足元を見る目を正面に向けると目まいがして身体がふらつく。車酔いのように欠伸まで出る。熱中症の症状みたいだ。
管理人もこれが最後か、、、と真剣に思ったほど疲れている。このまま続けて歩くのは危ないと考え、ここで大休止をとることにした。

血液の循環をよくするため小さな岩に腰掛けて、頭を両膝の間に入れて(下半身に溜まった血液を頭に戻す姿勢ですね)丸まること20分。
元気を取り戻したとは言い難いが歩けるまでには回復した。


ここはカミソリ岩と呼ばれている岩場。
慎重に下る。


御嶽山に到着。
歩き始めて8時間を経過した。これまでの7回は8時間あれば下山できたのに、今日はどれほど遅いことか。


御嶽山から西の日光方面を眺めているところ。
モヤに霞んで日光連山は見えない。


ほどなく古賀志山に着いた。
下山まであと1時間ほどだが歩くのも億劫なくらいだ。このまま息絶えたらどれほど楽だろう、そんなことを考えるようになった。危機的、末期的な状況である。
体力残り10パーセント、間もなく自動的に電源が切れます、という警告文が脳内に表示されている。
ここでも先ほどの中岩と同じく頭を下げて血流の回復に努めるが回復率は悪い。


富士見峠のすぐ近くでレンゲショウマを見つけた。
カメラを構える手が定まらない。ひどいピンぼけ。


広場と呼ばれている平坦地で地元の人が丸太で組んだベンチがある。
この辺から膝の外側が痛む腸脛靭帯炎に見舞われるようになった。


う~、ようやく水場にたどり着いた。
今日は荷の軽量化を図るために塩とブドウ糖で作ったドリンクを750ミリのボトルにそして、水道水を500ミリのボトルに入れて持参した。計1250ミリリットルはいつもより1リットル少ない。
それでも足りないことはなかった。
しかし、火照った身体に生暖かい飲み水は生理的に見れば効果はあるのだろうが、旨くはなく、ただ機械的に飲むに過ぎなかった。
冷たい水を飲みたかった。冷たい水を思いっきり胃の中に送り込みたかった。
両手ですくって腹がふくれるほど飲み、顔を洗い、手ぬぐいを濡らして汗でべたついている腕や首を拭う。生き返ったような気分になった。まさに命の水である。


歩き始めて9時間40分、これまでの中でもっとも長い時間を要したが無事に戻ることができた。
一時はあまりに激しい疲れから、この場でツェルトをかぶってビバークするしかないかとも思ったが、その都度、サプリに岩塩、水を摂取し、長い休憩をとることでかろうじて歩けるまで気力を奮い立たせ、こうして下山した。
女峰山を上回る距離約20キロ、上り下りの連続で累積標高(+)は2200メートルに達した。ひと月という空白を埋めるには過酷であった。恐るべし馬蹄形、侮るなかれ馬蹄形である。


昭文社「山と高原地図」風にするとこうなる(笑)
古賀志山を起点にグレーの直線の東側が鞍掛山ルート、西側が馬蹄形ルート。
鞍掛山ルートは赤川ダム~古賀志山~手岡分岐~鞍掛山~長倉山~赤川ダムと1周する(あるいはその反対回り)。距離は長いが道はハッキリしているのでそこそこ楽しめる。歩く人が少なく静かなのがいい。
なお、大駐車場のある赤川ダムから古賀志山への行き方は複数ある。北コースがわかりやすくて一般的。

赤川ダム~古賀志山~腰掛岩~手岡分岐~古賀志山~赤岩山ダムというのが馬蹄形ルート。
古賀志山から北ノ峰までを古賀志山主稜線と呼び、ルートは明確だが岩場が多く滑落事故が多い。管理人が古賀志山を歩き始めて2年の間に死亡事故が2件起こっている。ケガ、道迷いで警察と消防が出動した事例も数件ある。

北ノ峰から先は馬蹄形ルートの核心とも言うべき部分で読図能力が求められる。
踏跡が薄かったりなかったり、藪だったり尾根が分岐していたりと、その手の歩きが好きな人には大いに楽しめる。今日、管理人は尾根の分岐を違う方に進んでしまい10分ほどロスした。
これまでロープがかかっていた岩場からロープが消失していて、頼るものなく岩を登ることになった。
今日はひと月ぶりの山歩きであったため疲労困憊したが、心身ともに充実しているときにこそ楽しめるのが馬蹄形プラス鞍掛山である。