日本百名山・会津駒ヶ岳。ホワイトアウトの中、こわごわ山頂へ。

2017年5月12日(金) 濃霧のち晴れ

国道(7:13)~滝沢登山口(7:37)~駒ノ小屋(10:42)~駒ヶ岳(11:05/11:20)~駒ノ小屋(11:45/12:25)~滝沢登山口(14:12)~国道(14:38)

昨年10月、初めて県外の山を経験した。
福島県の会津駒ヶ岳である。

その辺りの理由と会津駒ヶ岳(以下、会津駒)を選んだ経緯は過去のブログに詳しく書いてあるので参照いただくことにして、初めて経験する県外の山、会津駒は、これまでの管理人の山にたいする印象を180度ひっくり返すほど新鮮で素晴らしいものであった。
あぁ、山ってホントにいいもんだなぁ、などとありきたりの言葉しか出てこないが、日光そして日光近隣の山しか知らない管理人としてはこれが会津駒を登っての正直な感想なのである。

第1登目:2017/10/12
第2登目:2017/10/19

山にはいろいろな楽しみ方があろうかと思う。
管理人、いまでこそロープや鎖がかかっている岩場やそこに熊が潜んでいるような藪を好んで歩くが、本質は違う。歩きながら遠くの景色が眺められるような開放感のある尾根を歩くことを求めている。
「歩きながら」というのが重要である。
山頂に立てば見晴らしがいいなんてのは山では当たり前だ。
そうじゃなくて、山頂に達するまでの間、歩きながら景色を楽しみたいのだ。

 

 

昨年10月に見た会津駒ヶ岳。駒ノ小屋から撮影

 

それが日光では得られない裏返しとして、岩場歩きや藪歩きに楽しさを求めるようになったんではなかろうか、冷静に考えるとそんな気がしている。

今年はもっと真っ当な歩きを楽しもう。
それには福島だ!!

頭の中がかなりショートカット、つまり短絡しているが、どこまでも平らな湿原が広がっている会津駒を経験してからというもの、心は日光から離れてもはや福島県の山にある(笑)

会津駒ヶ岳を極めたい!!!

これが今年の山への取り組み姿勢である。
一冊の本になるくらい、会津駒を徹底的に歩き、知り尽くすのだ(いいのかね、大きな声で言っちゃって)。

それでは3回目の会津駒ヶ岳を目指すことにする。

南北に細長い檜枝岐村を1本の国道、352号線が貫いている。
登山口の入口は民宿などの建物が見え始めるところにある
それらの建物に差しかかるとすぐ、右手に「尾瀬国立公園・会津駒ヶ岳滝沢登山口」と書かれた大きな木の柱が立っているのが目に入る。具体名でいえば民宿「すぎのや」の向かいである。
そこを右へ入ると檜枝岐川へ注ぐ「下ノ沢」が流れていて、並行して急坂をアスファルト道路が上に向かっている。

登山口の入口に清潔なトイレ(画像左)がある。
バスを利用する場合は民宿「すぎのや」の前で降り、ここに見える車道の終わりまで歩く。そこの急階段が実質的な登山口である。
マイカーの場合は林道の終わりまで進入でき、早朝なら30台ほどの駐車スペースに駐めることができる。駐車スペースがいっぱいのときは国道を戻って村の運動公園内の駐車スペースに駐め、バスの利用者と同じくこの場所まで歩く。

昨年10月に来たときは林道を駐車スペースまで行けたが、この時期はまだ降雪や凍結があるのか通行止めになっていて、今日は歩いて林道の終わりまで行く必要があった。


これが「下ノ沢」。
雪解け水が流れ込んでいるのであろう、ものすごい水量だ。
分類は沢だが、日光の沢のように静かな流れではない。ゴウゴウと音を立てて流れ、氾濫した川といってもおかしくないくらいだ。


車道は登山口に至るまでヘアピンカーブを繰り返すため、歩くには距離が長い。
そこで徒歩の人のためにショートカットする道がつくられていて、歩く距離が短縮されている。


車道でさえ急なのにショートカットの道はさらに急である。


ここで車道と合流。
地図で距離を測定すると車道を歩くのに比べてショートカットは約700メートル短縮される。
ここは駐車スペースになっていて昨年2回目はここに駐めた。


車道はこの先に車止めが設置されていて、通常時期でもそれ以上は行けない。
車止めの手前は駐車スペースになっていて10数台駐めることができる。
昨年1回目はここに駐めることができた。


この階段の場所が実質的な登山口となる。
登山届けを入れるポストがある。
いや、あったはずなのだが見つからない。ない!
冬は雪の重みで損壊してしまうため取り外すのかもしれないな。


階段を登り終えると登山道に変わる。傾斜はきつい。


早くも雪が現れた。


むっ、雪の厚さが増した。それに傾斜はさらに急になった。
靴のままで歩くのはこれが限界と判断した。


アイゼンとチェーンスパイクを持参したが、傾斜と積雪を考慮すると選択肢はアイゼンしかなかった。


山頂まで4.1キロとある。
2時間半から3時間はかかりそう。


モノトーンの世界の中、マンサクが薄黄色の花をつけている。


前を行く男女3名のパーティーに追いつく。
挨拶を交わした後、先へ行かせてもらった。


標高1630メートル付近。
尾根幅が広くなり進むべき方向を見失いがちになる。
地図で尾根の方向を確かめながら進んでいく。


霧が深くなり視界不良。距離感がつかめない。
反面、幻想的な景色が楽しめた。


標高が2020メートルを超えた。
視界がよければこの辺りで駒ノ小屋が確認できるはずなのだが、深い霧でなにも見えず。進むべき方向さえまったくわからない。
無駄な動きをしないよう、手っ取り早くGPSが示す駒ノ小屋を目指して進む。
会津駒ではないが遭難者を発見した場所が避難小屋のすぐ脇だったという事故が昔、実際にあったくらいだ。そんな目に遭いたくはない。ここはGPSを大いに活用すべきだ。


すぐ先にこのような目印となるポールが目に入った。
おおよそ50メートルおきに設置されている。


次の50メートルの間はご覧の通り。なにも見えない。

霧がなければおそらくこんな光景(もっと近づいていると思う)。




お~、あれはもしや駒ノ小屋か?
2棟の建物のうち1棟の屋根には無線のアンテナが立っている。
間違いない。


正面に廻ってみると入口の扉の前は雪がかいてある。
人が出入りしている証だ。
それにしてもなんだ、この光景はおとぎ話に出てくる家のような雰囲気ではないか。中はどうなっているのかあとで見学させてもらおう。


さあ、今日の目的地、会津駒の山頂を目指そう。
山頂は駒ノ小屋の脇に佇む駒ノ大池を回り込み、湿原の中の木道を歩いて最後に深い樹林帯を急登したところだ。だが、霧でほとんどなにも見えない今は雪のない時期のイメージとほど遠い情景である。
もうただ霧の中を高みへと向かって黙々と歩くしかない。


傾斜が緩くなった。
ということは山頂が近いのか。
昨年歩いた急傾斜は通り過ぎたのだろうか。


やったぞっ、山頂だ。
先ほどの駒ノ小屋と同じく、霧の中にいきなり出現した。
ここまで来て、昨年10月に比べて歩いた感じがかなり違うことに思い当たった。
雪の有無という違いはもちろんあるのだが、そうではない。
それがわかったのは駒ノ小屋まで下山して振り返ったときだ。


この山名を刻んだ木の柱は高さ3メートルもある大きなものだ。
まだ半分埋もれているのでここの積雪は1メートル50はあると思う。
標高2132メートル、麓との標高差は1200メートルだから標高差だけを考えると女峰山よりも大きい。それに雪の量は桁違いだ。
初めて登る残雪の会津駒ヶ岳。よくやった!
深い霧で景色はまったく見えないがそれでも大きな達成感を得ることができた。満足感が管理人の心を満たしている。
晴れていればここから中門岳に向かって湿原を従えた長い稜線がよく見えるはずだが、そこまで贅沢は望まない。次の機会までとっておこう。
霧に包まれた山頂をあとに下山することにした。
さあ、これから駒ノ小屋まで戻って昼メシだ。


駒ノ小屋まで下りて振り向くと雲間から青空がのぞいている。
このまま雲が流れ去ってくれるとありがたい。
先ほど、雪のない季節に登ったときと今日とでは感じが違うと書いたが、霧が晴れてその謎が解けた。
今日はここから見える雪の斜面を山頂まで行った。
昨年10月はここから黒っぽく見える斜面(樹林帯)に入り、途中で右に折れて同じく樹林帯を歩いて山頂に達したはずだ。


雲がほぼとれて先ほどよりもさらに青空が広がった。
おぉ、ついにやったぞ。どんなもんだい!
べつに管理人がなにかをしたというわけではないが、そんな気持ちになった。
う~ん、なんと素晴らしい景色だ。
目の前にこのような景色が見られるのは日光では女峰山くらいしか思い当たらない。福島県に引っ越したい(笑)

雪のない季節の光景



駒ノ小屋の南西には尾瀬を象徴する燧ヶ岳が見える。
あそこも今年の目標だ。
燧ヶ岳の手前からこちらへ向かって延びているのは富士見林道。
昨年2回目はキリンテ(富士見林道の燧ヶ岳側)から登り始めてここまでやって来たのだ。すばらしい稜線歩きが楽しめた。尾根のサイドは湿原になっていて木道を歩くようになっている。湿原は高山植物の宝庫らしいことがわかった。


下山途中で振り返って富士見林道を見ると、斜面中腹の地面が露出して黒々としている。
あの部分で全層雪崩が発生したようだ。
目測だが雪の厚さは1メートル以上、幅30メートル、長さ50メートルという規模だ。
雪の重さは水の1/3程度らしいから、雪崩れた雪の重さは1×30×50×0.3=450トンということになる。この膨大な量の雪に飲み込まれたら人間なんてひとたまりもないことがわかる。


遠くに山を眺めながらの下山は気持ちがいい。
雪は適度に締まっていてアイゼンがよく食い込むから不安はまったくない。
上りでは急な傾斜に苦しんだがその分、下りは快適だ。


ルートのすぐ脇に大きなクラックがあるのを見た。
尾根脇の傾斜は緩いので雪崩れてはいないが、全層雪崩の正体を見るような光景だ。


雪がなくなった。ゴールは近い。


無事に下山。



登山口から山頂まで一方的な上りが続くが中腹に差しかかると前方に駒ノ小屋を見ながら歩くようになる。その位置まで来ると道の両側に湿原が広がり、いい雰囲気となる。きつい上りの厳しさも忘れさせてくれる。


オマケ

10日に檜枝岐に入り、今日で3日。
昨日予定していたのに暴風雨で中断して今日に延期した。
あまり長い間、留守もできないので下山したら帰るつもりだった。
その時間は十分あったが駒ノ小屋で出合った青年と話をしていると今夜、村内で伝統の芸能がおこなわれると聞いた。青年はそれが主目的で岐阜県からやって来たとのことだ。
伝統芸能とは270年以上も前から受け継がれている歌舞伎のことで、村民による演出、演技だそうだ。「檜枝岐歌舞伎」という県指定の重要無形民俗文化財になっている。

この時間に帰宅するなら深夜にはならない。しかし年に3回しか上演されない貴重な日に会津駒に登ったのもなにかの縁だ。
この縁を大切にし、これからも無事に会津駒に登れることを祈念して、檜枝岐歌舞伎を観賞することにした。

ただし、上演は夜になるため終わったら泊まることを前提に考えなくてはならない。
実は10日と11日の二日間、車の中で寝た。しかも軽自動車ジムニーという、狭い空間でだ。
登山口に朝早く着いたときに仮眠したり、下山が遅くなったときに夜を明かせるようにと、改造を施してある。二日間、快適に寝ることができた。
しかし、せっかく檜枝岐歌舞伎を観賞するのだ。その余韻を味わいながらもっと快適に寝たいものだ。

観賞しようと決めてからの行動は早かった。
昨年、2回目の会津駒登山の際にお世話になった民宿に電話で申し込み、予約を取った。
昨年泊まったときの対応がよかったし、料理は物珍しいものばかりで酒の肴にぴったりだったのだ。
→民宿「こまどり」。
画像は檜枝岐に昔から伝わる「山人(やもうど)料理」、この他に裁ち蕎麦とご飯がつく。


歌舞伎の舞台への道


県指定重要無形民俗文化財の檜枝岐歌舞伎。
舞台は国指定重要有形民俗文化財になっている。